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影道仙、少女の正体を推察するの事(その二)

「にぃ?」



自分の事を話しているのだと理解しているのか、少女が影道仙(ほんどうせん)の方に顔を向ける。



「こら()()、あばれるなっつーの」



膝の上でジタバタと暴れる少女を金平が優しく押さえる。



「にぃ?」


「いや、名前が()えのも不便だからよう。コイツ『にぃ』しか言わねえし」


「なるほど。いやいやしかし意外にもお父さん姿が板についてますね金ちゃん」


「金ちゃんじゃねーし父ちゃんでもねえ!!だいたいコイツは何者(なにもん)なんだよ、なんで『悪路王(アイツ)』は()()を狙うんだ?」



影道仙の言葉に金平は顔を赤くして話を本筋に戻そうとする。その側で話を聞いていた頼義がなぜかどことなく不機嫌な顔をしているのがまた余計に妙な雰囲気を醸し出している。



「ふむ、本題に入る前に確認ですが、金平、その子は今まで食事を摂った事は?」


「ああ、それだよ!コイツ何にも食わねーんだ。お粥をやってもイチジクを取ってやっても何も食いやしねえ。それでいて腹が減ったふうでもねえし困ってたんだ。あとションベンもウンコもしねえ、そっちはまあおかげで助かってはいるんだが」



女性を前にして使う言葉でもあるまいが、そんなことに気を使うような金平でもない。影道仙も金平の下品な言葉に動揺もせずにふむふむと頷いた。



「やはりそういう事か」


「どういう事だよ?」


「金平、落ち着いて聞いてください。()()()()()()()()()()、それどころか生物ですらない」


「はあ!?」



陰陽師の説明に金平はあんぐりと口を開ける。彼女の言っている意味がわからない。そんな金平の顔を見て()()も真似をして小さなお口を()()()と開ける。



「何言ってんだオメエ、コイツはどう見たって人間じゃねえか目が腐ってんのかこの莫迦(ばか)!」」


「推論を述べただけでこんなにボロクソに言わるとは、貴方は人格が腐り果てていますねクズですか。ポンちゃんは泣きそうですしくしく」



影道仙は悲しいと言わんばかりに目を覆って顔を伏せる。それでいて少しも悲しんでいるようには見えない。



「それで、この子が人間でないとはどういう事なのポンちゃん?」



金平だけに聞き手役を任せていたらいつまでたっても話が本題に辿り着かないと判断して頼義が横から口を挟んだ。



「おっと失礼話が逸れました。この子は人間の子ではない、いわば神の御子……『金色姫(こんじきひめ)』です」


「金色姫……?」



頼義と金平が声を揃えておうむ返しに聞き返す。



「昔、天竺の霖夷(リンイ)大王という王様が後添えを娶った時、亡くなった先の妃の姫である『金色姫』を疎んだ後妻が姫を四度殺そうと試みましたが果たせず、その命を案じた大王によって『金色姫』は出入り口の無い『(うつぼ)(ぶね)』に入れられて海に流されたと言います」



影道仙が突然何かの昔話を語り出す。()()()()()という言葉には聞き覚えがあった。()()が眠っていた棺のような箱の説明をした時、影道仙はそれを「うつぼ舟」と呼んではいなかっただろうか。



「金色姫は流れ流れて我が国に辿り着き、とある老夫婦に拾われた姫はそこで儚くも亡くなられてしまいましたが、その亡骸を彼女が乗っていた『うつぼ舟』に納めると亡骸は糸に包まれた繭となってしまった。老夫婦はこの繭の糸を繰って絹を作り大金持ちになったと言います。だいぶ端折りましたが、今のは筑波にある『蚕影(こかげ)神社』に伝わる我が国の養蚕の始まりを記した言い伝えです」



金平は()()を抱きかかえながら彼女の話を聞いているものの、彼女が何を伝えたいのかその意図をまだ汲めないでいる。それは隣で聞いている頼義も同様だった。確かに筑波郡では養蚕業が盛んで、そあちこちに蚕を飼うための桑畑が広がっている。以前にも頼義が筑波の養蚕の光景を歌った万葉集の歌を諳んじていた記憶がある。



「で、それがなんだってえんだよ?コイツがその『金色姫』の生まれ変わりだとでもいうのか?」


「話には続きがあります。絹糸を売ることで財をなした老夫婦は亡くなった『金色姫』を神様として祀り、筑波山の麓に社を建てました。それが先ほど言った『蚕影神社』の原型だと言われていますが、そのお社に祀られていた神は三柱。中央に『金色姫』をいただき、その両脇に筑波山の神、そして富士山の神を祀ったのだそうです」


「富士山!?」


「そう、不二(ふじ)のお山です。元々筑波山は富士山と密接なつながりがあります。それもまた後々説明しますがまずはこの子についての話を先にまとめましょう。『金色姫』はここ常陸国筑波に流れ着き、神として富士山と共に祀られた事で、あるもう一つ別の神話の女神と習合することになります。それが、この子の本当の正体に当たります」


「もう一つ、別の……?」


「そう、おそらく『金色姫』という名から連想的に結びつけられてしまったのかもしれません。そちらは養蚕業とは全く別の神霊(モノ)でしたから」


「回りくどいな、一体何者なんだよ、そのもう一人の神様ってえのは?」


「むう、本当に金ちゃんはせっかちですねえ。いまの話の半分も理解してないくせに」


「いいから早く言えよ!」


「はいはいしょうがないにゃー。もう一人の神は大地の神です。遠く九州から連なり、富士へ至り、富士山を北に迂回してこの常陸国の鹿島灘へ流れ出る大地の霊力の源泉たる『龍脈』。その『龍脈』そのものを神格化した女神。その名を……『丹生都(にうつ)比売(ひめの)大神(おおかみ)』といいます」

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