爆発、そして転生
チカ・チカ・チカ・チカ…。
赤いランプが光る。先ほどまでは警報がなっていて、うるさかったのだが…。もう、壊れてしまったのだろうか。今は静かだ。
俺は、今はもう応答しない無線機のコードを引きちぎった。死ぬ覚悟を決めたのだ。
未練はない。やりたいことはやってきたし、死ぬ前にやるべきこともない。もともとこんな仕事をしているんだ。遺書くらいはしたためてある。
俺は今をときめく宇宙飛行士である。死なんて恐れない。
機体は勢いよく月へ突っ込んでいく。
月が…綺麗だな…。
「任務完了」
ユサユサ、ユサユサ。
「起きてくださ〜い。お〜い!」
誰だ…?
「僕も忙しいんですよ〜。早く起きてくれないと〜…。」
目を開けるとそこには整った顔があった。知らない顔だ。
「あ、おはようございます〜!」
にぱっと笑う顔面偏差値100。これはもう神レベルだ。それぐらいに整っている。
「神?やだなぁ~、言わないでよ〜。自己紹介考えてあったんだよ~。」
は?何言ってんだこいつ。
「こいつだなんてひどい~…!…まあいいや!僕は地球を見守る者。君たちのいう神ってやつさ〜!気軽にレイニーと呼んでくれたまえ~!」
心が読まれた!?神!?…本物なのか?
驚いてガバッと起き上がるとまた微笑みかけられた。この笑顔は…こいつは癒し属性なのか?
中性的な雰囲気の(自称)神に癒しを求める俺…。俺は疲れていたのか…。
「え~と…。木村悠馬さん。あなたは死にました~。死因は爆死です!塵のひとつも残さず消えました~。月の一部も道連れに~」
え…。やっぱり死んだのか俺…?まぁ、そうだよな…。あれは無理のあるプロジェクトだった。
「ねぇ、君。プロジェクトって言うけどさ~。月を破壊するのが目的だったんじゃないの~?」
え?月を破壊!?いやいや、そんなつもりは…!
彼の任務は必要最低限のコストで月まで行くことだった。
上司にこの任務をもらった時は耳を疑ったが、これからのために必要な実験だったらしい。
行き帰りでギリギリの燃料しか用意されてなかったし、ロケットは狭かったし…。…正直、彼は死ねと言われたようなものだった。(実際、本気でそう思ったけど上司に「今までお世話になりました!」と辞表を出したら全力で止められた)
宇宙ではコスト削減のせいで無線が切れるわ、照明器具が壊れるわ…。ホントいろいろひどかった…。
最終的に着陸に必要なブレーキも壊れ、脱出しようにもハッチが開かず…。結果はこの通り。
もうこんな無謀な任務はやめてほしい。俺の後に被害者が続かないことを祈る…。
そういえば…俺が携わっていたプロジェクトの引き継ぎ、どうなるんだろう…。
「…お〜い!おお〜い!!」
…はっ!顔を上げると神がいた。彼(もしくは彼女)はコホンッとひとつ咳をする。…わざとらしいな。なんだ?
「君は死んだけど、特別に2回目の人生をあげましょう!」
それはもう見事なドヤ顔だ。
2回目?生き返ることができるのか?死んだのをなかったことにできるのか!?
「う〜ん…。それは正しくないなぁ〜…。正確には『生き直す』ってことだよ〜。人生をもう一度はじめから!」
はじめから…?赤ん坊からやり直せと…?
「うん!そういうこと〜!次の人生では君は木村悠馬ではないんだよ〜。新しい人生を〜…」
それ、普通の輪廻転生と違うのか?
「え〜とね〜…君はみんなと違ってこのままの魂で行けるんだよ!」
何それ。それ、普通は違うのか?
「輪廻転生っていうのはね、魂を1回浄化してから今まで犯した罪を帳消しにするんだよね〜…」
生前に犯した罪の大きさで天国か地獄に…とかいうのはないのだろうか?
「あぁ!それは魂を浄化するための待合室だよ〜!善行を重ねた人はくつろいで魂を休め、悪行を重ねた人は働いて罪を少しでも償って待たなきゃいけない決まりがあるんだ〜。」
混んでるときは何年も浄化されずに待合室にいなきゃならないんだよね〜、と神様は笑う。
「だから君は特別だよ。浄化の待ち時間は必要ないからすぐに次の生を迎えられる。」
でも、なんで?なんで俺なんだ?
「だって君、未練あるでしょ〜?普通、未練のある魂は現世に留まり、納得してからここへ来るのに〜…。君はさっさと死を受け入れちゃうんだもん!」
えっと、つまり…?
「未練があるのにここまで来ちゃった君の魂は行き場がありませ〜ん!浄化対象外です〜!特例として浄化スルーで2度目の人生あげるんで、来世では未練を果たしてきてくださ〜い!!」
仕事上、死とはいつも隣り合わせだったし、死ぬことに抵抗はなかった。俺の未練って、何だろう…?うーん…。
…ねぇ神様、俺の未練って何?
「とりあえず、2回目の人生を楽しく満喫してもらえばいいんです〜!わかった〜?」
あぁ。わかったよ、神様。
生前に流行っていた異世界転生というやつだろう。俺もそんな話がちょっと好きだった。記憶を持ったまま生まれ、幼い頃から様々な力を発揮し…ロマンがある!もしかしたら、俺も魔法が使えるようになるかもしれない…。
そんなバラ色の妄想に浸っていたのだが…。
「あぁ、それはないね〜。」
え…。憧れの魔法が使えない…!
「いや、異世界では現在転生者を募集していなくてさ〜…。君が生まれ直すのは地球だよ!」
マジか…!
「君が死んであんまり時間がたってないから…、生前の君と来世の君は親子くらいの年の差になるよ〜!」
へー!すごいな、それは!生前の知り合いに会えるかも…?だってこのまま記憶を持って生まれ変われるんだよな!!
「うん。あと、転生の際に一度記憶が消えるからね〜!それで、赤ちゃんの脳に負担にならない程度に徐々に記憶が戻るよ〜!普通の赤ちゃんが人間の言葉を理解する頃には、すべての記憶が戻っているはずだよ!」
…そうなのか!それはすごい!
「なにか質問や要望はあるかい〜?少しなら転生特典をつけてあげるよ〜?」
えーと、体は丈夫に病気や怪我をしないようにしてもらえますか?
「うん!いいよ〜!…ここをこうして〜!」
神様は突然目の前に現れた透明なウィンドウをいじっている。
「ポ〜ンポンッ、っと〜。できた!!…他には〜?」
あとは社会に適応できるように常識をください!前世では苦労したんです…!
「そうなの〜?よくわかんないけど、君、前世も地球で生きてたじゃん〜。今更いらなくない〜?」
いるんです。必要なんです!
「わかったよ〜。適応能力は〜…これかな〜?」
神様は見えないボタンをポチポチしている。
「他にはないですか〜?ないですね〜?…じゃあ準備はいい?」
はい!いいです!神様、なんかいろいろありがとうございました。
「いえいえ〜。では良い来世を〜〜!!」
読んでくださってありがとうございます!!
※リグレットコンプレックスは実在しません!
『リグレット』っていうのは、未練とか後悔って意味だそうです!!この題名は友人につけてもらったのですが、未練を持っているがために輪廻の輪に正しく乗れなかった主人公にぴったりだと思い、採用させて頂きました!
私は、宇宙飛行士になるためには高い学歴が必要だったり、身長や視力に制限があったり、高度なコミュニケーション能力を求められたりするのだと知って、驚くのと同時に興味を持ち、この作品を書くためだけにいろいろと調べました!!
これから書いていくにあたって、知識がしょぼかったり間違っていたり、表現が拙かったりするかもしれませんが、ぜひ暖かい目で見守っていただけると…。
また、宇宙飛行士に詳しく、知識に自信があるよという方、ぜひ感想欄からお声がけいただけると嬉しいです。喜んで迎えに行きます。主にネタ(宇宙についての知識)を仕入れるためだけに!!
誤字脱字もぜひご指摘ください!
みなさんが読みやすい作品になるように頑張って書きますので!!