勇者と魔王
イメージは、異世界召喚されたヒーロー系勇者君と、もう詰んでる世界。
「ひどい... なんていうことを!」
月光に煌めく剣を持ち、金の髪をなびかせる勇者は、その青い目に闘志を燃やした。
その瞳が見定めるは漆黒。闇に生きる、魔の象徴たるその種族は、ただひとつの存在にしては強すぎる力を持つ魔王として、その言葉を受け止めた。
「何がひどいというのだ?」
しかしながら出した声は、ひどく軽く響いた。青き炎は鋭さをます。
「ふざけるな! 国をひとつ潰しておいて、何を言うのだ.........! キサマ!!!」
怨嗟の声は、本来魔族には心地よく聞こえる筈だ。少なくとも人間はそう思っているはずなのだが、魔王が顔を歪めた事実に、勇者はそこまで思考が届かない。
不快そうな表情を浮かべ、魔王は先を続ける。
「なんだ? 何故キサマは怒っている? 大体何故ここにいるのだ、勇者よ。ここはお前の国の敵国だろう? 我が滅ぼしてやったのだ! 喜ぶがいい」
「ふざけるなと言っているだろう!! たとえ敵対していた国だとしても、あそこに何十万、何百万もの人々がいたはずだ!! 獣人と呼ばれるかれらでも、きっと話し合えばわかり会えた筈だ! ...君たちとだって、きっとーー」
「だから、なにをいっているのだ?勇者よ。罪のない人だと? ならば素材と呼ぶその装備の材料が、どこから来たのか考えた事があるか? 皮を剥ぎ、心臓をくりだしてエネルギーとして利用し、余った肉は食べる。そんな目に遭う生物が、どんなモノなのか知っているか? よく考えろ、勇者よ」
「それは我が子らだ。それは我らが光だ。キサマらが魔物と呼ぶモノを、存在しているからと忌み嫌うキサマらは何だ?キサマらが魔族をどう思うのかなど知らぬ。知りたくもない」
「だが、ヒトは我らと我らが子らに牙を剥いた」
「だとしたら許せはせぬ。キサマがここに来るまでに、殺した魔族は何人だ?」
魔王は、それでも何も変わった様子は無く、淡々と問いかける。勇者は、それを見て動揺を深める。
「我らと、キサマはわかり会えぬよ、勇者。だから、のう----」
「消え失せろ、我らにとって、キサマなど、悪でしかない」
かくして、この世界は、衰退を始める事となる。