ジェシーと時間泥棒
ジェシーと時間泥棒
「ふーー」
ぽわん、とふくらんだのは真っ白な煙。なぜかというと、きょう、新しい煙草を試してみることにしたから。
結果は上々。これならアイツにも勧められる、と思って、ジェシーは薄いくちびるを持ち上げた。
ジェシーは今年で12になる、はずである。誕生日はよく知らないし、日付も覚える必要がないと思っている。
だって、覚えていたって、どうせアイツと関われば関係無くなってしまうのだ。
古ぼけたこの倉庫はアイツのシゴトバで、いろんないろの花がおかれている。きらきらひかる花もあれば、なんてことないごく普通の花だって置いてある。ジェシーもこの倉庫で働いていて、そのシゴトが煙草をつくることなのだ。
もちろん、この花を使って。
アイツは、いつも唐突にやって来ては、ジェシーに花を託してどこかにいってしまう。ここがシゴトバだというのに、何を考えているのかよくわからない奴。ジェシーは、あんなに勝手で、あんなに無愛想なやつ、どこにいっても人に嫌われるのだから、ここにこもっていればいいのだ、と思っている。ジェシーは優しいから、特別に相手をしてあげるのだ。お礼は、北の通りのアップルパイでかまわない。完璧なジェシーは、お茶だっていれられるのだから。
「ジェシー」
ぴくり、とジェシーの指が動いた。ジェシーは素敵なレディーだから、ろこつな反応はしてはいけない。
その声が聞こえたら、ただ微笑んでふりむけばいいのだ。
「あら、のっぽさん、随分早かったのね」
ジェシーはこれからもずっと、このシゴトバで煙草をつくってゆく。