あの日
「先生!おっはようございます」
ドタドタと階段を駆け上がってきたかと思うと、そいつは、襖を蹴破って部屋に入ってきた。
僕は寝起きが良い方ではない、ましてやこの手の起こされ方は大嫌いだ。
僕は、もそもそと布団へ潜る。
しかし、それはあっさりと遮られた。
「ご飯冷めちゃいますよー」
ニッコリ微笑みながらも、力ずくで布団を引き剥がすそいつが見えた。
雨音が聞こえる。
そのまま窓の方へ視線を移すと、ふとあの日のことがよみがえってきた。
あの日の雨は、今日より酷かった。
空はどんよりと暗く、今にも雷が鳴りそうな天気。
叩きつけるような雨が、ひっきりなしに降っていた。
雨粒が傘にぶつかる音は、とても耳障りだ。
ポケットの小銭を、右手で触りながら、いそいそとコンビニへ向かう。
ふと足元に、何か大きなかたまりがあった。初めはゴミかと思ったが、微かに動いているところを見ると、それが生き物だということに気付いた。
一瞬、息が止まりそうになった。
その生き物は、人間だ。
そいつは、大きな瞳をこちらに向け、ゆっくりと顔を上げた。
色白で、黒く艶のある髪。スッと通った鼻。まつげが長く、瞳が大きかった。何より僕は、その瞳が青かったことに驚いた。
しかしやがて、その大きく特徴のある瞳は、静かに閉じ、こっちを向いていた顔は、力無く地面に倒れてしまった。
僕は頭が真っ白になり、考えるより先に体が動いていた。傘を投げ捨て、そいつを抱き抱えて、無我夢中で雨の中を走り出した。
ただひたすら。
微かに残る、そいつの体温を感じながら。
最近の台風接近に伴って、雨をモチーフに小説を書いてみたくなりました。