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まりか、りじぇねれいと!

エナが来る夜

作者: めらめら
掲載日:2013/03/24

 たすけて、たすけて。闇の中で幽かな声が聞こえた。

人の声だ。私は束の間、微睡(まどろ)みから覚める。

鬱陶しいな、でもすぐに消えるだろう。私は再び眠りにつこうとした。だが、

 たすけて、たすけて、たすけて。私の中で何度も悲鳴がリフレインする。

おかしい。私は寝返りをうつ。


 一瞬、音の無い稲妻が閃いて辺りの闇を金色に引き裂く。

青や紫に輝くオーロラがたなびいて、私の胎内で眠る、冷たく閉ざされたコータの魂を、優しく包む。

無明に身を潜めていた魔性、多頭蛇や闇蟲達が慌てて私の周りから逃げ去っていく。

静謐に満ちた闇の中を、無限に広がり漂う私の身体(からだ)


 現世(うつしよ)の狂騒や、惨苦の悲鳴も、ここではあえかなさざめきにすぎない。

そんなものが何故、私の微睡(まどろ)みを妨げて、こうまで私を苛立たせるのか。何かが、気になる。


 私は闇の中に眼を(かたど)った。

いくつもの黒珠のような複眼がキラキラと虚空に生じて、現世(うつしよ)を覗き、悲鳴の元を辿る。


 見つけた。悲鳴の主は、少女だった。

まだ、あどけなさの残る貌を恐怖に引き攣らせて、ひとけのない路地を駆けながら、必死に助けを呼んでいる。


 たすけて、たすけて、たすけて。

 

 私はひた走る少女の後方に眼を遣った。

暗い路地裏に少女を追いつめているのは、痩せぎすの体を幾重もの白衣で覆った一人の中年男。

右手の医療用メスを少女の脇腹に突きつけて、欲望に眼をギラつかせながら、いやらしく嗤っている。


……もう無い私の両手と乳房が、かすかに疼いた。

あの顔、思い出した。私にメスを突き立てた。コータを殺した。あの男。


 『教授』。


 私が封じた煉獄からまんまと抜け出して、

私達が闇に還った後も、いまだにあんなことを繰り返しているのか。


 凍てついた筈の私の心が、微かに波立った。私の心臓に、緑色の焔が灯る。

私は決めた。もはや現世(うつしよ)に興味など無いが、そこまで私達の眠りを邪魔すると言うのなら……


 いいだろう。私は男を見る。あいつがどこまでも血や苦痛に淫するというのなら、

現世(うつしよ)でもない、煉獄でもない、この闇でもない、もっとふさわしい世界に連れて行ってやろう。

来い。私は命じる。無限の闇の彼方で、私を構成していた私の断片がチラチラと瞬く。


 私に私が集まってくる。

まだ27%の私が冷たい肌にそれを感じる。


 曠野を吹き荒ぶ砂塵

 路地に転げた屍を焼いた灰

 暗い波間に燐光を瞬かす夜光虫


かつて私であった私の断片が私に収束してゆく。


 私の素足が路地の湿った土を踏む。

 私の鼻が、腐臭の混じった廃都の空気を嗅ぐ。

 私の頬を生温かい夜の風が撫でる。

 私は目を開いて気怠い春の闇を見る。


 私は、現世(うつしよ)身体(からだ)を成した。


 私は暗い路地に立っている。

冷たい素肌に夜気を纏って辺りを見渡す。

奥まった袋小路の闇の中に、白衣の男の背中が浮んでいた。

「あははははぁ!ιょぅがくせぇ!もう逃げられないぞぉ!」

 聞き覚えのある、不快な声。男が手に持ったメスを振り上げた。

「い、いやぁ!」

 追いつめられた少女の絶叫。

「さあ!イタズラしちゃうぞ~!」

 何度聞いても耐えられない。この男の卑猥な歓声。

だが、興奮した男は、背後に近づく私には気付かないようだ。


 がし。私は振り上げられた男の右手を背後から掴んだ。

ごおごおと蒼黒い炎を噴き上げて、みるみる凍りついていく男の右手。

「な……なにぃ!」

 異変に気付いた男が、慌てて私に振り向いた。

私は醜悪に歪んだ男の鼻先に、(かお)を寄せた。


 「つかまえたあ」


   私は(わら)った。


「まりか、りじぇねれいと!」番外編です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] あれれれ。読む順番間違えたのかしら。 エナの中にコータ? ラストのエナのセリフ、ホラーですね!(ちょっとぞっとしたw)
2019/01/08 15:17 退会済み
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