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チョコレート色のオウルリング

作者: 春 茜

トゥインクル リンクル

ルビーにサファイヤ、ダイアモンド、

流れているミルキーウエイ。

冴え冴えと、月も凍えるような静かな夜。

交差点の向こうに、橙色の明かりを灯すオールドデイズ・ショップがあったら、

入ってみよう。


ケトル、ブラケット、ご主人は居眠り

キャット、ドッグ、ティンカーベルが微笑んでいるファニーフェア。

こころ温かい、お茶がうれしい侘しい夜。

袋小路の向こうに、やさしく語りかけるオールデイズ・アクセサリーがあるから、

入ってみてよ。


オールデイズ・アクセサリーには

あなたを幸せにする力があるかも。

彼らも忘れているかもしれないから、

ゆっくり起こしてあげて。

ほら、見てごらん。あなたの幸せが描かれている。


聞こえてくる、映し出される

あなたの恋の望み、祈りとつぶやき……


★☆★ ☆★☆ ★☆★ ☆★☆ 


オウルリングとは、ふくろうの指輪。

ふくろうは知性と慈愛、希望の象徴といわれます。


今夜は、チョコレートカラーのオウルリングのおはなし。

オウルリングはおしゃべりです。1000年も前から決まっています。


オウルリングの話を聞いてみましょう。

あなたに託された、あの子の想い……


・・・・・・


私は、オウルリング。

チョコレート色のふくろうです。


「お願いがあるの」

少女は両手に、私、オウルリングをもって、学習机に座っていました。


もう深夜にも近い、今日が終わりそうな刻です。

少女はお風呂上りのナイトウエアにくるまれて、乾いた髪をブラッシングしています。


暗がり、衣装棚、クリアホワイトのベッドクロスには

パペットが飾られ、硝子の和装人形が踊っている。

大好きなアイドルグループのポスターを昨日張り替えていた、女の子です。


手元を照らす蛍光灯の中に、オウルリングの私を浮かべて、

お願いをつぶやいていました。


ちょっと頬が張っているのがとってもかわいい感じの女の子です。

私、突然、真剣にお祈りされて、戸惑いました。


まじまじと私を見つめる目。

さっきまでふざけた調子だったのに、急に妙に真面目な顔になって話しだします。

ボイッシュなヘアスタイル、ファニーな顔には似合わない、真面目な表情です。


「わたし、好きな人ができたの。手紙、書いたの……。どうしよう。渡せる? 渡せる、かな?」

私はオウルリング、お話しても聞こえないでしょうか……、

感じてもらえればいいのですが……、

渡せます。必ず、渡せます。


「キミが、わたしのお願いを叶えてくれるって、お父さんがくれたのよ」

はい。

そのためにお会いしたのですから、なんなりといってください。

私ができることを、私はできるようにします。

ぜひ、指にはめていただけると、嬉しいのですが?


ありがとうございます。

あなたのかたちが分かります。

背は低いんですね、スイマーでいらっしゃる。まあ、ちょっと楽しむ程度です。

体脂肪率30%、上半身より下半……。まあ、健康体です。

やわらかな体、活発に成長する細胞がうつくしい……。


「ちょっと、キミ。怖い感じ」

見ようによっては……怖いでしょう。

ふくろうは、お嫌いでしょうか?

あなたの祈りと努力が前提になりますけど、

あなたのお祈りに応えます。

恋の橋渡しなら、得意なんです。


「チョコレートの色の体にトゲトゲ模様、目は深い赤黒硝子、怒ったような顔……」

いかがでしょう。指にはめて、日々お持ちいただけるとうれしいです。


「学校に持っていくのは、ちょっと……むり、かな」

そんなことは……、目立たないようにしていただければ、私はとてもお役に立ちます。


「先輩って、かっこいいんだ。泳ぐの早いし、やさしいんだよ」

お会いしてみたいです。


「今、何をしているのかな、誰か好きな人がいるのかな……、わたしのこと……」

私は思うに、

先輩のことをもっと知りたいなら、

先輩とたくさんお話をしないと、分からないでしょう。

人は、お話をすることでお互いを理解する動物です。

まだ、お話、してないんですか?


ドアが開きました。

「あ、お母さん、やだ。……うん、もう、寝る。明日の用意していたの……、は~い、おやすみなさい」

あ、そんな、箱の中に投げ入れないでください。


「オウルリング、わたしのお願い、聞いてね。お願いします」

両手を合わせて、お祈り。

私は神社の主様ではないのですけど……。

柔らかい布の上ですから、満足していますけど……。

少しだけ、お手伝いしましょう。


私はアクセサリーケースの、木の箱に整えられたネルのベッドがお気に入りでした。

翌夜も、また、箱が開きました。


「ふくろうさん、聞いて。今日は、最高だったよ。先輩、手紙、受け取ってくれたんだ」

それは、それは。良かったですね。


「で、聞いて、聞いて」

はい、はい。


「わたしのこと、かわいいって、思っててくれたって。うれしい~よ。背が大きくって、ね、細いんだよ。スリムなんだ。400メートルフリーなんだよ。県大会を目指してるんだ。だから、忙しいから、部活で話すのと帰り道一緒なら、いいね、だって。やったでしょ。すごいでしょ。明日、学校に一緒に行く約束したんだよ……」

良かった。私の力を感じてくれましたでしょうか。


「これって、きみのおかげ? パパのいうとおりなのかな、オウルリングのおかげかなあ?」

もちろんです。

チョコレート色のオウルリングはお話上手です。

こんな恋の始まりぐらい簡単です。

でも、学校には行ってませんので、状況がよくわかりませんけど、

喜んでくれたなら、幸いです。


「きみって、本当に、怖い感じだよ。でも、応援してね。お願いします、ふくろうさま」

まあ、お礼だと思っています。

私は、箱の中、しばらくは出してもらえないでしょう。

うまく行くときは、振り返ってもらえないのが、私達のつらいところです。


やわらかなネルのベッドが、私はお気に入りでした。

何日たったか、また、箱が開きました。

女の子が私を取り出して、泣きそうな目で話しだしました。


「友だちから、ヤバイっていわれたんだ。先輩、憧れている娘が多いんだって。それで、しかも、クラスの女の子で付き合ってる子がいるんだって。それで、わたしは、わたしは、マトになっちゃうって」


マト?


何があったのでしょう。

「マト。マトだって。鉄砲で撃つマトだって。わたし、イジメラレルのかな」

それは、大変です。

「そしたら、助けてね。オウルリング」

どうしたらいいのでしょう?

それで、また箱の中、ですか。

ナニをすればいいでしょう。



お気に入りのやわらかなネルのベッドで、私は待っていました。

また、箱が開きました。

女の子が私を取り出して、泣きながら話しだしました。


「オウルリング。助けて。クラスの女の子たちが、わたしが悪いって。わたしが悪いっていうんだ。先輩は、彼女がいるのに、わたしが手を出したって。わたし、そんなつもりなかったのに」

泣いています。

なぜ、泣いているの?


「もう、話ししないって。もし、わたしと話すと、腐るって。わたしの腐った部分がうつるって。腐った人間はゾンビだって。ゾンビは、みんなから隔離されるんだって。わたし、だれとも話してもらえなくて……」

オウルリングを握り締めて、泣いています。


「どうしよう。なんで、先輩に聞いたら、そんなことないて。でも、引いてた。もうゴメンだって感じで。先輩、もう会わないって、いうの。教室に帰ったら、クラスの女の子、怒ってて。男の子たちも、わたしのこと見て、笑って、いて……」

状況がよくわかりません。でも、とっても辛そうです。


「なんで、なんなの。オウルリング。助けて。助けて。どうしたらいいの、わたし。何をしたの」

真っ暗な部屋で、机の前の蛍光灯だけがまぶしい。

何がなんだか分かりませんが、泣いている。

「あした、から、わたし……」

あの……。それで、また箱の中では……。


お気に入りのやわらかなネルのベッドで、私は待っていました。

また、箱が開くのを待っていました。

女の子が私を取り出して、お願いごとを話しだす、そのときを……。

箱が突然に開きました。


「もう、何日も、誰とも話していないの。話してくれないの。誰も、声を、話を、聞いてくれない。友だちも怖がって近づかないの。避けられてるの。それで……、階段で呼び止められて。わたし、髪の毛をつかまれて、叩かれたの。土下座……。座って、謝れって。悪い子をオシオキするんだっていって、足で踏まれた。蹴られたよ。痛かったよ。痛かった」

何が、どうなっているのでしょうか?

顔が腫れています。

指にはめて、お話してください。

「オウルリング。助けて。助けて。どうしたらいいの、わたし。何をしたの」

しばらく、泣いてから、オウルリングを箱に入れます。

「あした、から、わたし……」

箱が閉じました。


私は待ちました。

少女が箱を開けて、お祈りするときを、待っていました。


また、いく日々が過ぎた頃。

箱が突然に開きました。

「今日、お金、もってこいって。助かりたいなら、お金をもってこいって。それと、お詫びを書いてもってきなって。もう、痛いの、いやだ。画鋲の入った靴も、泥水の入った手袋も、切り刻まれた机も、いやだ。学校に行きたくない。私、悪い子だから……。吊るされる。イジメられる。叩かれ、刻まれ、消されちゃう。クラスの女の子と男の子、わたしの口に指を入れて、両方から引っ張るの。裂けちゃえって、悪い口は裂けちゃえって。痛かったよ、血が出た。お尻も、腿も、アザができてた。なんで……。怖いよ、学校。もう、消えるしかないっていわれた。消えちゃえって。この世から消えちゃえって」


オウルリングには、わかりません。

どうすればいいのでしょう。

落ち着いて、お話してください。

「消えちゃおうかな……、コレで消えるのかな。悪い血が出てきれいになれるのかな」


カッターナイフをもって、何がしたいのでしょう。

「どうしよう」

女の子が私を箱に戻します。

箱が閉じました。


女の子を助けたいのですが……

箱の中、やわらかなネルのベッドで待っています。

女の子のお願いと祈りの声を待っています。


しばらくして、また箱が開かれました。


「きょう、学校。休んだ。でも、怖い。誰かくるんじゃないかな。誰もいない、家。怖い。外にでられないし。怖いよ、きっと、私、いないから。私、どうしたらいいのかな」

ガラスのビン、白い錠剤。

ナニをします。

ナニがしたいのでしょう?


「なんにも、かわらないよ。オウルリング、どうしたらいいの……分かんないよ」

ガラスのビン、白い錠剤。

ナニをします。

ナニがしたいのでしょう?


「消えちゃう……、そうすれば、楽になれる。消えちゃえば……」

飲んでしまった。

ガラスのビンの中の白い錠剤。


飲んでしまった薬は、なんでしょう。

それはナニ?

「わたし……、わたし……、どこにいるのかな」

オウルリングを持って、あなたは眠ります。

あなたは、私を持って眠ります。



黒い影。

白い霧。



遠い……、遠い……ここは、どこか。

ゆっくり目を開けてください。


「あなたは、誰」


私は、オウルリング。

私は、手紙。おしゃべり上手です。


私に託された手紙を、あなたにお話したくて待っていました。


ある男の子から、妹に渡された手紙でした。

私が手紙だったのです。


あなたに

お話しをいたします。

あなたの前に私を持っていた男の子のお話。聴いてください。



やさしい男の子でした。


私とお会いした時には15歳になっていました。


身長155センチ、体重48キロ、黒いマッシュのショート・ヘア、目が一重でクリクリと大きい。黒目の中に寂しげな影がかぶっている男の子。笑うと左頬だけに笑窪ができます。前歯より右の八重歯がちょっと大きくて、目立ちます。おでこの左端にニキビがありました。鼻が上を向いているから、やんちゃに見えます。でも、話すと分かります。ちょっと不安定な精神状態と話が上手くできないこと。


この男の子のことを覚えておいてください。


生まれたときに、発育障害になったのだそうです。

育てられないと、両親が施設に預けた子です。


男の子の両親は、経済的なことも含め、離婚。

それぞれが男の子を育てられないと、手放したのです。

2歳で、男の子は、児童養護施設に入りました。


児童養護施設。

孤児院といわれます。


男の子は、施設でとっても素直に育ちました。

とてもお話し上手でした。


でも、自分のことしか、お話ができなかったそうです。


お絵かきが好きで、積み木が好きで、お歌が好きだったそうです。

ひとりで遊べることはとっても楽しくできました。


でも、ひとりで遊ぶことが多かった。

すごろくやカルタ取りなどのゲーム、オニゴッコ、おままごと……

人とはうまく遊べなかった。人と一緒にできなかった。

できないことを咎められて、嫌われて、怒られました。


なぜ? 


人と遊ぶと、怒られる。

人と話すと、嫌われる。


人と話すことは、怖いこと。

上手くできることが、分からないままに、人と接することが悪いことだと教えられた。

人と話して生活することが、苦手に育てられてしまった男の子です。


計算は得意でした。読み書きもできる。

でも、テストはできなかった。

テストの質問が、理解できない。

人から訪ねられると、その言葉の意味が取れない男の子でした。


計算で18マイナス8、その答えに足す1は? 11でしょう。

18-8+1=11。簡単でしょう。

男の子も答えられました。


でも、質問だとダメでした。

18人の子供の中に8人の女の子がいました。1人の男の子が入りました。男の子は何人でしょうか? 

答えは11人です。


簡単です。

でも、男の子は、答えられない。質問が分からないのです。

質問にある、他の人のことが頭に入らないのです。


接触性障害、発達性障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)……言葉はたくさんあります。

でも、男の子を理解できて温かく迎えてくれる人は少なかった。


施設には数百人の0歳から5歳までの子供たちが、一緒に生活しています。ここで里親に会えない子は、ほとんどが1人で生きていくのだそうです。幼児から小学校へ上がる前までに、男の子に家族はいませんでした。男の子は私に話してくれました。


施設にはパパもママもいない。

そう、男の子は話していました。


ところが、育ての親となってくれる方が現れたのです。


彼は、その他、大勢の孤児の中から拾われました。

5歳のときのできごとです。

周囲の子供たちも驚きました。


パパとママがくるんだ。


犬や猫と同じ名前の里親システムから、拾われたのです。


哀しいですけど、日本って、犬猫と人の子供と、同じシステム名で呼ぶのです。

里親募集している施設にいたと、男の子が話していました。


拾われた男の子。

この子のことを、あなた、覚えておいてください。


黒いマッシュのショート・ヘア、目が一重でクリクリと大きい。黒目の中に寂しげな影がかぶっている男の子。笑うと左頬だけに笑窪ができる。前歯より右の八重歯がちょっと大きい。やんちゃな感じですけど、とってもやさしい男の子です。


新しいパパとママができたのです。

男の子は一生懸命、子供になりました。


食事の仕方、お出かけの仕方、電車の乗り方、他人と自分のものがあること、お金のこと……。

養護施設では知らないことがたくさんあったのです。

男の子は一生懸命、覚えました。


でも、うまくは、できません。

まわりの子供にできるけど、男の子は知らないことが多すぎました。

仕方ないのですが、まわりの子供たちが騒ぎます。


そして、大人が言うのです。

「孤児院の子供だから……」

「病気だから……」

「ウツルから……」


男の子も、パパも、ママも耐えました。

でも、なかなかうまくいきませんでした。


ある日、男の子に妹ができました。

3歳の女の子です。


ほっぺたが赤い3歳の女の子。

ブラウンの細い髪、ボブのショートヘアがマッシュルームのようで、笑うとかわいい。

保育園に行くのだと、男の子に話してくれました。


妹だ。

妹ができた。

ボクに、妹ができて、家族ができた。


ママがいて、

パパがいて、

妹ができた。


おうちがあって、家族がいる。

ボクにおうちと、家族があったんだ。

男の子は、話してくれました。


男の子は、妹を喜びました。

妹と仲良く暮らしていたいと思いました。


でも、中学1年の時、男の子は児童養護施設に戻されたのです。

ケイヤクが切れて、男の子は孤児に戻ったのです。


ケイヤクだから仕方ない。

男の子は、話してくれました。


男の子は、それでもママと妹がいる。

信じていました。


ボクには、おうちと家族がいる。

男の子は、話してくれました。


妹がかわいい。

男の子は、かわいい妹だよ、すごい美人になると

話してくれました。

ママとかわいい妹に会いに、おうちに何度も出かけたそうです。

男の子は、話してくれました。


男の子にとって、おうちが天国でした。

ママとパパと、妹がいる。みんなが笑顔で暮らしているおうち。

男の子には天国に見えたのです。


男の子は15歳になりました。

15歳になると、施設では大人です。

ひとりで生活するか、新たな施設に行くか……選択するのです。


男の子は、ひとりで生活することを選びました。

ママと妹を迎えに行く。

男の子は、話してくれました。


自分は、ママと妹と一緒に暮らすと、信じてました。

15歳。世の中に自分のおき場所を探していました。


男の子、15歳で働いて……。

ひとり、15歳で食べて……。

15歳で、ひとり……。


ある日。

男の子がおうちに行きました。

おうちには、ママと妹が待ってました。

妹が来週、誕生日なんだと話していました。


男の子も喜んでいました。

『プレゼントを買うよ。何がほしい?』

『指輪がほしい。しあわせになる指輪。ふくろうが幸せをつれてくるの』


ママが心配していたそうです。

痩せているから。

でも、男の子は平気でした。

男の子は、話してくれました。


ボクは、おうちをつくる。

ママとパパと、妹が待っている。

ボクにはおうちがつくれるのだと、信じていました。


妹のプレゼントを買うために

アクセサリーショップに、男の子は出かけました。


アクセサリーショップで

男の子は、私を選んでくれました。

男の子は、チョコレート色のふくろうの指輪を選んでくれました。


甘くておいしそう。

しあわせの色だと、話してくれました。


妹が待ってるんだ。

男の子は、話してくれました。


レジでお金を払うと、360円だけが残っていました。

ポケットにおつりをいれると

指輪を受け取りました。


男の子とハンバーガーレストランで話しました。

男の子は、オウルリングを指にはめて話しかけます。


生まれてきたこと。

ママ。

パパ。

学校にいったこと。

友だちがいたこと。

楽しかったこと。

妹ができたこと。

家族のこと。

男の子は、話してくれました。


短い時間でしたけど、男の子は饒舌でした。

男の子とたくさんのお話をしました。

たくさんの思いを話してくれました。


オレンジジュースを飲みながら、男の子は話してくれました。


男の子が、手帳を取り出しました。


男の子は、オウルリングを指にはめて、

手紙を書きました。


プレゼントのことを書きました。

何回も、いろいろ書いて、消して。

そして、一枚の紙に書き直して、手紙にしました。


オレンジジュースを飲み干すと

ハンバーガーレストランのドアを勢い良く開きました。

いっぱいの笑顔で走り出しました。


うれしくて、オウルリングをポケットにいれて、走り出したのです。

そこに、車が一台。

飛び出した男の子。

飛ばされました。


男の子は、亡くなりました。


それから数日後、

チョコレート色のオウルリングの私は

妹の手に渡りました。


それでは、男の子の手紙を読みます。


-僕には、妹がいます。

-かわいい妹です。

-妹は、僕の家族です。

-明日は妹の誕生日です。

-僕は、ふくろうの指輪をプレゼントします。

-僕のはじめての贈り物をうけとってください。

-ママと妹と楽しく暮らしていけるようにがんばっています。

-僕のおうち、妹に、幸せがくるように、指輪を送ります。


あなたの前に私を持っていた男の子のお話でした。

聴いてくれて、ありがとう。


遠い……、遠い……ここは、どこか。


白い霧。

黒い影。

そして、目を覚まします……。


お母さんの顔。

お父さんの顔。

白衣の人々。


「……ごめんなさい。お母さん。……ごめんね。お父さん……」

白いシーツに、白い鉄のフレームのベッドが目の前にある。

白い壁に、自分の名前があって、わたしがいる。


覗き込みながら、お母さんが泣いている。

お父さんが泣いている。

なぜか、わたしも泣き出した。

「生きてて、頂戴」お母さんがわたしの手を取って泣いている。

「辛かったのね……、分からなくて、ゴメンね」お母さんが泣いている。

わたしは、そのままの気持ちを話した。

「うん、辛かった……」

お父さんが泣いていた。

「生きていて、くれて、ありがとう」

そう話して、泣いてくれました。



あれから、何日が過ぎました。

白い部屋、白いベッド。

壁にあるわたしの名前。

白い線、白いミュージックプレーヤー。


お母さんがわたしの横で、りんごをむいています。

「わたし……、戦う……」

わたしは、話しだした。

話さないといけないような気がした。

言葉が勝手に出てくる。それが、わたしの気持ちだった。


「もう、戦うなんて……。やめて」

お母さんが、わたしを見ると、怖い顔になった。

「戦わなくっても、いいんだよ。学校、変わるし……」

りんごを楊枝にさして、渡してくれた。

「違う町にいこう」


わたしはりんごを、すこし食べた。

そして、お母さんを見ながら話しだした。

「うん。学校、変わるのは、嬉しい。でも、変わらない。やっぱり、戦わないと……」

「何と戦うの」

「手を切っても、首を吊っても、薬を飲んでも、苦しいだけだった。引きこもっても、多分、同じ。怖いから逃げ続けるだけ。消しても、逃げても、だめだった。自分が楽な場所ができるわけじゃなかった。自分がいる世界をつくりたい。自分らしい世界をつくるために、戦うの」


---*---*---*---


あれは42年前の14歳の女の子、でした。

いまは、どうしてるでしょう。

私は、手紙。おしゃべり上手。あたらしい方が現れるのを待っています。


オールデイズ・アクセサリーのひとつひとつに

あなたを幸せにする力があります。

彼らも忘れているかもしれないから、

ゆっくり起こしてあげて

あなたの幸せが描かれているから。


恋の望み、祈りとつぶやきが……

あなただけに聞こえてくる、映し出される。


袋小路の向こうに

やさしく語りかけるオールデイズ・アクセサリーがあるから、入ってみてよ。

こころ温かい、お茶がうれしい侘しい夜。

キャット、ドッグ、ティンカーベルが微笑んでいるファニーフェア。

ケトル、ブラケット、ご主人は居眠り


交差点の向こうに、

橙色の明かりを灯すオールドデイズ・ショップがあったら、入ってみよう。

冴え冴えと、月も凍えるような静かな夜。

トゥインクル トゥインクル ……。



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