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夏の前には梅雨がある

作者: 木下風和

 雨がしとしとと降っている。咲きかけのひまわりに幾つものしずくが乗っかる。また転がりは落ちてを繰り返している。そのひまわりも梅雨どきにしては珍しいぐらいの晴天日和が手伝ってか、今にもその大輪を雨雲に見せようとしている。

 今、僕の乗る電車は駅に止まっている。何でもこの先で人身事故があったらしい。平日の昼時とあってか人の量は少ない。都会に行けばそうでもないのだろうが、片田舎のJRの車両にはほとんどの場合で乗車率0の事が多い。

 といっても、今日は珍しく結構人が乗っている。僕が乗ってきた駅にショッピングモールができたのだ。実際僕も行ってきた。オープンセールに出かけたのだ。切迫した大学生の懐には非常に助かるモノなのだ。おしゃれもしたい年頃。合コンにはあまり行かないが。

 今自分がいる駅は、ちょっとしたターミナル駅みたいな、一つ前の駅の注意書きに、


「停車中の貨物列車に乗らないでください!」


と書かれたモノがあったのだが、この駅は「管理駅」と呼ばれているらしい。その注意書きは○○管理駅からのモノだったのだ。

 其処にかれこれ1時間ほったらかしにされている。何分かおきに流れてくる、車掌の「現状報告」のアナウンスに、はじめの方は、もう出るか?と耳を傾けたがちっとも進む気配がない。あきらめてウォークマン片手に窓越しを見つめていた。

 雨がやはりしとしとと降っている。ひまわりはちょっと水の重さに頭を垂れている。


 やっと動き出した。ゆっくりとだが徐々に。アナウンスは、


 「安全確認のため、しばらくこの電車は徐行運転させていただきます。」


と言う。思うんだが、なぜこんなにも改まって言うのだろうか。

 この前、スーパーでおばぁちゃんにクレームをつけられている店員さんがいた。ぺこぺこと頭を下げていた。申し訳ありません、すぐお取り替えさせていただきますと。よくよく見たら、それは牛乳のパックだった。おまけにほこりまみれだった。と思うと、すぐにその店員さんが埃のかぶってないまっさらな牛乳を持ち出してきて、また、この度は申し訳ありませんでした、と頭を下げていた。おばぁさんはその言葉に耳を傾けることなく、肩で風を切るように店舗を後にした。

 よくよく考えたら、ありゃ詐欺だ。どうせ冷蔵庫の上にほっぽらかしにでもして腐らせたんだろう。んでもって新品くれって。そりゃないよね。

 僕も言おっかな、遅れた分の時間かえせって。こりゃ詐欺じゃねぇぜ。おい、ぺこぺこ頭下げろや。いやだよ、僕は。あと2年でこんなのになるなんて。

 広がりかけたつぼみがだんだん小さくなっていく、電車も滑り出す。

 30分ぐらいしたら、本当のターミナル駅に着いた。ここには新幹線も止まる。のぞみにスルーされることもない。ここ仕立ての新幹線もある。

 降りてさっさと家に向かおうとする。ふと、大学のレポートでちょっと調べておきたいモノがあったのに気づく。あぁ、どうしようか。迷っていても仕方がない。歩いて行くことに決めた。

 歩いて30分くらいのところに大学はある。図書館はその敷地内にある。道中にはないが、僕のアパートもそっちの方角にある。なら最初っから行くと決めとけばよいモノなのだが、東西が違うモンで。さっきまで電車に閉じ込められてた鬱憤ばらしにちょうどいいなって考えてたら、雨もうまいことやんでた。そういや傘忘れてたんだった。

 其処にはパステルカラーを思い描けるモノが一切ない。田舎の「アーバン」はホントブサイクだ。オブジェの中に、統廃合で消えた街の名が踊ってた。

 結構な間歩いたモンだ。15分ぐらい。結構早足で言ったつもりだ。なんせ、この雨もつかの間の休息だろうから。メモできるモノはバックの中に入ってある。準備は傘以外、万端だ。初めて通る道だから、こんなのもあったんだ、と軽くお上りさんみたいになっている。ここは単なる地方都市なのに。何で無理するのかわかんない。

 この県の中心都市、今僕が住んでいるここはヤバイほど赤字を抱えていた。其処に県で有名な経営のプロフェッショナルが民間から出馬し、見事当選。8年ぶりに赤字脱出を去年果たした。それでも当選から2年がたっていた。早いのか遅いのか。どちらにしても、僕がここに来たとき、ちょうどその時のことだったから鮮明に覚えている。みんながやたらとその話をしている。うまく回ればいいね、とか、たぶんダメだよ、とか。ベタな意見をぶつけているのか、なめ合っているのか、曖昧な会話が其処にはあった。これを会話と果たして呼べるのか。

 小さなひまわりが家の庭にある。幼稚園の行事の一環で育てたのであろう、かわいらしい鉢に埋められたひまわりが僕に


 「やっとおてんとさまが出たんだよ~。」って話しかけてくる。


 思わず僕もにっこり、


 「でも、きっとすぐ曇るよ?」って答えた。


 「おにいちゃん、いつも傘なんて持ってるだよう。僕みたいにぶつからなくちゃ。」


 「首曲がっちゃうよ。」


 「でもまた元に戻るよ。」

 らちがあかんな。そう思って顔を背けた。すると後ろから、おにぃちゃん、しぃらんぴっ!って声が聞こえた。なんか、自分が逃げてるように感じた。いや、逃げってるって。

 立派な門が見えだした。きっとこれは見せかけ何だろうと思ってしまう。ここを笑顔で通り抜けてきた者が、皆くらい顔をして出て行ってるんだ。あまりにも滑稽だ。だから笑われたくないから、僕は入ったときから暗い顔をしている。見せかけのハッピーなんてほしくない。本当のハッピーがほしいんだ。お天道様に照らされる、まっきっきのひまわりのような。もう少しで8月だ。手に入るだろうか。

 図書館を目の前にして、ふと農学部が栽培している菜園に行きたくなった。淳矢に会えるかもしれない。運が良ければ野菜もいただけるかもしれないって。なんて言おうか。まためしつくってあげるからさぁかな。

 行ったところで案の定人はいなかった。後ろの方で、雨上がりのアスファルトや壁に笑い声が反響しているのが聞こえる。校舎の壁を抜ける。すると其処にはたくさんのひまわりが咲いていた。イヤ、そんな風に見えた。咲きかけのつぼみが、雲の絶え間から伸びる光のくずに照らされて咲いている。美しかった。声を出しながら、泣いた。


 「そうだったんだね。」


 思わず僕はつぶやいた。すると後ろから、


 「そうだよ」って聞こえた。


 「誰だ?其処にいるの?」


 「怖い言い方しないでよ。」


 最後の一言でまた、そうだったんだなぁって思った。今日の服は明日のために買ったんだ。あと少ししたら、と言うか来年から君と行くの難しくなるでしょ?僕も前進まなきゃね。だって、君に見てもらいたいんだもん。

 図書館行くのも忘れて、君と手をつないで、またこの門をくぐる。出るときの僕の背筋はピーンと伸びていて、顔も笑ってた。


 「あのさ、今日さ、1輪のひまわりを見たんだよ。」


 「1輪なんて、かわいらしいね。」


 僕たちの後ろを黄色の光が包み込んだ、それは地球を包む太陽みたいでもあった。


筆者は夏がだ~~~~い好きです。

友人に、冬がいいよ!って言うやつがいるのですが、

意味不明・・・って言う感じです。

寒いのはイヤでしょ、おこたが恋しくなるもん。

でも、夏はクーラーもぶっ飛ばせっていう感じでしょ。

ぶっ飛ばせ、気分の悪さもぶっ飛ばせ!

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