Crimson & Silver -出会い-
今回のお話は、テルノアリス編の中でディーンが言っていた、ジンと出会うきっかけになった『ある事件』のお話です。
またジンくん絡みのお話です(笑)
ちなみに今回は、ディーンが回想しているという体なので、語りは一人称です。
以前どこかで話した事があったかも知れないが、長い事旅をしている俺にも、友達と呼べる人間がいる。
そいつと出会い、また一緒に立ち向かった『ある事件』の話を、今ここでしようかと思う。
なぜ、と言われると明確な答えが無いので返答に困るが、多分つい最近、そいつと再会したからだと思う。要するに、何かその頃の事を懐かしく感じたんだ。
俺は今旅の途中で、『紺碧の泉』と言う街を目指している最中なのだが、現在は荒野のど真ん中で休憩中だ。なので時間はたっぷりある。
それは、俺がミレーナを探し始めてから五ヵ月程経った頃。ジラータル大陸の南西、『ケルフィオン』と言う街で起きた出来事だ。
その頃『ケルフィオン』では、『ギルド』から緊急の派遣要請を求めるチラシが、街の至る所に貼り付けられていた。こういう要請があった場合、正規のギルドメンバーでなくても、『ギルド』が依頼された仕事に一般人が参加する事が出来る。
尤も、このような事態での仕事となると、内容は大規模な『討伐作戦』などになるので、参加する者はある程度の力量と覚悟を要求される事になる。
その頃俺は、丁度旅の資金が底を突き掛けていて、金を都合しようと『ギルド』の仕事に参加する事にした。
今にして思えば、そんな軽い気持ちで『ギルド』の仕事に参加した事が、俺とあいつが知り合うきっかけになったんだ。
俺の唯一の親友と呼べる少年。銀髪の剣士、ジン・ハートラーと――。
「――今回の『ゴーレム討伐作戦』に参加させてもらう事になった、ディーンだ。よろしく」
俺は特に何の感慨もなく、事務的な感じでギルドメンバーに挨拶した。
ミレーナを探す旅の途中で訪れた、『ケルフィオン』と言う街の『ギルド』内。周りの床より少し高くなった壇上のような場所に、俺は今立っている。
周りには男にしろ女にしろ、パッと見、ガラの悪そうな連中が大勢いる。『ギルド』内に並べられた丸いテーブルを囲むギルドメンバーたちは、それぞれ違った面持ちで俺の方を見ている。
実際、俺の挨拶を聞いた『ギルド』の連中の反応は個々で違っていた。大げさに拍手する者、俺と同じで事務的な感じで疎らに拍手する者、全く興味を示さない者。
だがどんな反応をするにしろ、俺にとってはどうでもいい事だった。
今回俺がこの作戦に参加したのは、あくまで旅の資金を工面したいが為の事だ。別に友達を作りに来てる訳じゃない。向こうの側にも、そうだと気付いてる奴が何人かいるみたいだしな。この方が俺としてもやりやすい。
「――じゃあディーン君には、遺跡の南側を担当するアルフレッド君のチームに参加してもらおう」
俺がぼんやり考え込んでいると、俺の隣に立った三十代後半の柿色の髪の男が、口に銜えたパイプから煙を漂わせながら、俺の肩を軽く叩いた。
彼の名前はクルス・ランドリア。この『ケルフィオン』の『ギルド』の『ギルドマスター』で、この職と合わせて医者も兼任しているそうだ。俺もさっき知り合ったばかりで詳しくは知らないが、ジラータル大陸にある全『ギルド』の『ギルドマスター』の中で、最年少として今の地位に着いた結構な有名人らしい。
そんなクルスは、テーブルに着いているあるチームの方を見た。男三人、女一人の四人編成のそのチームの中、アルフレッドと呼ばれた二十代中頃の茶髪の男が、一瞬顔を顰めたのを俺は見逃さなかった。
(……歓迎されてないって訳ね。ま、金だけ稼ぎに来た余所者なんだから、当然か)
そんな風に思いながら、俺はふと、同じテーブルに座っている一人の少年に眼が行った。
俺の紅い髪と同じで目立ちそうな銀髪の髪に、整えられた端正な顔立ち。冷静さを纏っている雰囲気は、それだけで女を虜にしそうな感じだ。かっこいい、と素直に思える少年の背中には、鍔の形が違う二本の剣が背負われている。
と、俺はその銀髪の少年と眼が合った。すると少年は、ゆっくりとした動作で軽く俺に会釈した。
何だか爽やかな奴だな。そう思ったのを覚えている。
その少年こそ、後に俺と意気投合する事になる、ジン・ハートラーその人だった。