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フレイム・ウォーカー外伝 -Behind the Scenes-  作者: エスパー
テルノアリス編(裏)
7/33

とある立ち位置からの状況報告・Ⅳ


 首都テルノアリスを狙うアーベント・ディベルグの企みは、『魔術師』と呼ばれる紅い髪の少年の活躍によって、見事に打ち砕かれた。

紅の詩篇フレイム・リーディング』。

 紅い髪の少年が戦いの中で会得した能力。それによって首都は崩壊を免れ、再び平和な日を迎える事が出来た。

 だが、まだ全てが終わった訳ではなかった。

 紅い髪の少年と、『妖魔』一族の生き残りである少女。

 彼らの関係は何処に向かうのか。

 ジンはそれを、ただ傍らから見届けるしかない。





 首都を狙った戦いも漸く終決し、ジンは少し安堵していた。

 紅い髪の少年には礼を言っておかなければならない。

 彼がいなければ、恐らく首都は崩壊を免れなかっただろう。

 だが首都が救われたのが、彼のおかげだと知る者は少ない。知っているのはジンを含めて、一部の王族と正規軍の中の数人の兵士のみ。『ギルド』に所属している者に関しては、ほとんどが事実を知らない。

(まぁそれでも、あいつはそれでいいと言うんだろうけどな……)

 クスッと、面倒臭そうな顔をした紅い髪の少年を思い出し、ジンは笑う。

 それに彼にはもう一つ、伝えておかなければならない事が出来た。

 彼の探し人、ミレーナ・イアルフスの行方の事で。

『ギルド』の仲間から受けた報告が確かなら、この情報は間違いなく紅い髪の少年にとって朗報になるだろう。これを伝えた時、彼はどんな顔をするだろうか?

 と、そんな事を考えていた時だった。

「いやぁ、待たせてすまないね」

 部屋の扉が開くと同時に、若竹色の髪の青年ハルクが苦笑しながら現れた。

 今ジンがいる部屋は、テルノアリス城内にあるハルクが普段使っている執務室だ。作業机と本棚、床には不思議な模様の絨毯と、貴族にしてはあまり豪華な感じがしない。一時、紅い髪の少年が使っていた部屋の方が豪華な気がする。

 話があるとハルクに呼び出され、ジンは謁見の間に向かおうとしたのだが、ハルクがここで話そうと提案してきたのだ。

 もちろんジンは例の如く畏まって、自分が入る訳にはいかないと言ったのだが、当然聞き入れてはもらえなかった。

 少々緊張した面持ちで、ジンは正面の作業机に座るハルクを見た。

「――それで、話したい事というのは何ですか?」

 率直にジンが尋ねると、ハルクは少し困った顔で話し出した。

「実はね……、キミの友人の友人。つまり、あのリネ・レディアと言う少女の事なんだ」

「!」

 ハルクが『あの』少女の名前を出した事で、ジンは彼が何を言おうとしているのかすぐにわかった。

 そんなジンの表情を苦笑しながら見つめ、ハルクは続ける。

「彼女は『倒王戦争』の頃に滅亡したと言われている一族、『妖魔』の生き残り……。そうだね?」

「……そのようです。俺はこの眼で見た訳ではありませんが、ディーン・イアルフスが重傷を負った際、その傷を『治癒魔法』なる術で治したのが、彼女だと聞いています」

 最早隠し通せる事でもないと割り切り、ジンは事実を口にした。

 多分自分の考えている事は当たっている。ハルクは、いやきっと、王族たちは――。

「彼女を軍で管理するつもりなんですね?」

 ハルクの口から聞く前にと、ジンは先手を打った。結論を無駄に引き延ばしても恐らく意味はない。ならば早く終わらせてしまった方が、どちらの側にとってもいいはずだ。

 それが例え、望んでいない結論だったとしても。

「――キミも『史実』の事は知っているだろう?」

 ハルクは敢えてジンの質問には答えず、話を先に進める。

 ジンもそれを黙って聞いていた。

「『妖魔』の『血』には、『魔術』の力を強める効力がある。実際アーベントもその『血』を飲んで、『魔術』の力が向上したというのは聞いているよ。……となればこの先、アーベントのように彼女の『妖魔』の『血』を悪用しようとする者が必ず現れるだろう。それを防ぐ為には――」

「彼女を軍で保護し、管理下に置く事でその身を守ると同時に、アーベントのように悪用する者の出現を食い止める。……と言う訳ですよね?」

 ハルクの言葉を遮る形で、ジンは自分の口から結論を出した。その方が辛さが和らぐと思ったのだ。彼女と紅い髪の少年が引き裂かれる事に、憤りを覚える辛さが。

 だがそれは、ほんの少し和らいだだけだった。

 やはり納得のいかない思いが、ジンの中にはあった。

「彼には……、ディーン君にはすまないと思う。彼は必死の思いでこの首都を救ってくれたと言うのに、ボクらはそんな彼から大切な友人を奪い取ろうとしている。だけど仕方がないんだ。戦う力の無いボクらはこうする事でしか、自分たちの街を守る事が出来ない。――キミも辛いだろうけど、これは元老院の決定なんだ。わかってくれ」

「……」

 ジンは口を開かなかった。開こうとはしなかった。

 二人を引き離す事になる。

 それを認めるのを、拒む自分がいたからだ。




 ◆  ◆  ◆




「――あまり驚いていないようだな」

 それは、ジンが紅い髪の少年と共に、少女の休む部屋から去った後。一時間程経った頃だった。

 再び部屋を訪れたジンが、ハルクから命じられた事の全てを彼女に伝えると、少女リネは少し寂しそうな顔をしたが、驚いているような様子は見られなかった。

 ジンにはそれが意外だったのだ。

「……うん。何となくそんな予感はしてたんだ。あたしの『血』には『魔術』の力を高める効力がある。ジンが今言った元老院からの命令は、そのあたしの『血』を悪い人に渡さないようにする為のものなんでしょ? なら、仕方ないよ。あたしだって、あたしの『血』のせいで傷付く人が出たら嫌だもん」

 そう言ってリネは少し寂しそうに笑った。寂しそうに笑って、寂しそうに俯いた。

 もしも今、あの紅い髪の少年がここにいたら、彼女のこんな表情を見て何と言っただろう? 慰めただろうか? 励ましただろうか? ……いや、彼はきっとどちらも選びはしない。どちらも選ばず、ただ黙って現状を受け入れるだろう。

 現に彼は、ジンと二人になった時に言っていた。元々俺は一人だったと。俺一人が守ろうとするより、軍が守った方がいいに決まっていると。

 恐らく彼は割り切っていたのだ。王族の決定なら仕方がない事だと。元老院に意見を聞き入れてもらえる訳がないと。

 だがジンは違った。

 彼と違って、そこまで割り切れない。諦め切れない。

 だからこそ、ジンは問い掛けていた。

「キミ自身はどう思ってる?」

「……えっ?」

 俯いていた少女は、ジンのそんな問い掛けに顔を上げる。

「キミ自身はどう思ってるんだ? 王族の、元老院の命令に従いたいのか? そんな簡単に諦められるのか? ディーンと離れてしまう事が、悲しくはないのか?」

「それは……」

 少女は言い淀む。本音を言ってしまうのが恐いのかも知れない。本音を口に出してしまえば、抑えが利かなくなってしまうのが恐ろしいのかも知れない。

 だからジンは背中を押す。お節介だとわかっていて、それでも言わずにはいられなかった。

「どんな状況であれ一番大事なのは、やっぱりキミ自身の素直な気持ちなんじゃないのか?」

「……」

「例えどんな結果に終わるとしても、悔いを残すべきじゃない。――俺が言えるのは、それだけだ」

 言いたい事は全部言った。だがそれは、ジンが言うべき言葉ではなかったかも知れない。しかしだからと言って、ジンには見て見ぬふりも出来なかった。二人には、このまま終わってほしくなかったのだ。

 しばしの沈黙。

 やがて少女は顔を上げる。

 何かを決意したかのように。




 ◆  ◆  ◆




 あの日から三日後。

 ジンは首都の北側、第二検疫所を背に、紅い髪の少年と黒髪の少女の背中を見送っていた。

 あの後リネはジンに告げた。紅い髪の少年と一緒にいたい、と。

 その言葉でジンも決意した。

 王族に、元老院に進言する事を。二人の仲を裂かないでくれ、と。

 だが意外にも、ジンがハルクにその旨を伝えると、ハルクはあっさりと了承してくれた。他の元老院にも働き掛けると約束してくれた。

 そしてその結果として、ジンは二人の背中を見送っている。

 何かを言い合いながら歩いていく二人。それでもどこか、二人の背中は不思議と楽しげに見えた。

「――あなたもまた、旅がしてみたくなったんじゃない? 『ギルド』の任務とか仕事とか、そういうの一切抜きにしてさ」

 傍らで、自分と同じように二人の背中を見送るエリーゼが、不意にそんな言葉を口にした。

 ジンは優しく微笑みながら、遠ざかっていく二つの背を見つめる。

「さぁ……。どうだろうな」

 そんな風に、ジンは答えた。





 例え一つの物語であっても、そこには様々な視点がある。

 紅い髪の少年が表側とするなら、ジン・ハートラーは裏側の立ち位置だった。

 だが物語は続いていく。

 彼らの意図しない所で、また別の物語が生まれていく。

 その時は、ジン・ハートラーが表側に立つ番かも知れない。

という訳で、テルノアリス編(裏)は終了です。

ジンくんの活躍、いかがだったでしょうか?



次にどんな外伝書くかはまだ決めてないので、ネタが決まったらまた更新します!

それと同時に、本編の方もよろしくお願いします!

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