とある戦場からの戦況報告・Ⅰ
ついにテルノアリスが、戦の舞台となってしまった。
アーベント・ディベルグの企みによって、首都の街に放たれた仮面の人物たち。彼らの行動によって首都の街は、その姿を変貌させてしまった。
その始まりを告げたのは、巨大な爆発。
首都全体を揺るがす程の爆発と、仮面の人物たちの出現によって、紅い髪の少年と同様にジンもまた、同じように理解した。
あの男の狙い通り、戦乱が始まった、と。
最初の爆発が起こった時、ジンはまだテルノアリス城の中にいた。
街の四ヵ所に設置されている駅が爆発。それと同時に現れた、民衆を襲う仮面の人物たち。
その報を受け、俄かに戦闘準備で慌ただしくなる城内。
ジンは城のある一室から、街の様子を冷静に眺めていた。
(爆発したのは列車を発着させる駅のみ。敵勢力と見られる仮面の人物たちが現れたという事は、敵の狙いは白兵戦……か?)
冷静に状況を分析したジンは、自らも戦場に向かう為、その部屋を後にした。
そして城を出る前、ジンは戦場へ出て行こうとする兵士を一人捕まえて、伝言役を頼んだ。
伝言を伝える相手はもちろん、休憩を兼ねて城の外に出ているであろう紅い髪の少年。
兵士に伝えてもらう内容はこうだ。
現状、爆発が起こったのは東西南北にある駅だという事。
敵がどこから現れたのかは不明だという事。
雑兵たちの相手は正規軍、そして『ギルド』メンバーで行なうという事。
紅い髪の少年には、敵を撃破しながらアーベントの行方を探ってほしいという事。
兵士にそれらを伝え終え、ジンは城の巨大な門を潜った。
銀髪の少年が戦場を駆け抜ける。
◆ ◆ ◆
それは街の西側の大通りを走っている時だった。
突然、進行方向右側にある商店の影から複数の人影が飛び出してきた。
ジンは急ブレーキを掛け、複数の人影と対峙する形で立ち止まる。
相手の数は三人。全員、黒いマントに眼の辺りだけを隠す仮面という同じ格好をしている。体格からして全員男のようだ。
「……お前たちがアーベントの仲間だな?」
ジンは仮面の男たちを強く睨み付けながら、背中に担ぐ鍔の形が違う二本の剣を、同時に引き抜いた。
左手に握った剣は、刀身が透き通るように白く、右手に握った剣は、刀身が闇そのものを纏ったかのように黒い。剣にはそれぞれ、『白滅剣』と『黒裂剣』という名前がある。
一方の仮面の男たちは、それぞれ剣、槍、斧と、三人バラバラの武器を握っている。これだけ相手の持っている武器の種類が違うと、まともに戦うのは少々骨だ。
況して相手は複数。少しの油断が命取りになる。
と、次の瞬間。相手の側が動いた。
剣を持った仮面の男が、一直線にジンに突っ込んでくる。
ジンは左半身を前にする形の独特な構えを取る。そして左足で踏み込むと同時に、右手の『黒裂剣』を上段から振り下ろした。
するとその剣線に沿って、刀身から黒い物体が生まれた。
いや、物体と言うと語弊がある。
『黒裂剣』の刀身から生まれたのは、斬撃による衝撃波だ。それが眼に見える黒い衝撃波となって、仮面の男に襲い掛かる。
仮面の男はその現象に一瞬慄き、とっさに剣で防御体勢を取る。そこに黒い衝撃波が飛来し、衝撃に押されて仮面の男はバランスを崩した。
そこに完璧なタイミングでジンの左手に握られた『白滅剣』が切り込まれる。横一文字に払った白い刀身が、仮面の男の身体を裂き、鮮血が飛び散った。
「があああぁぁぁっ!」
苦痛の叫びを上げ地面に倒れ込む仮面の男を無視して、ジンは残りの二人を睨み付ける。
「一応聞いておこう。アーベント・ディベルグはどこにいる?」
「……ッ」
ジンの鋭い眼差しに威圧されたのか、残った仮面の男たちは僅かに後退りした。
だが仮面の男たちは、ジンの質問に答えようとはしない。まともに会話する気がないのか、口を開こうとさえしなかった。
ジンは短く息を吐いて考えを改める。
単なる脅しが効かない相手である事ぐらい、ジンにはわかっていた。だが、出来れば無用な戦いは避けたいと思っているのも事実だ。
(甘さを捨てるしかない、という事か……)
何もしゃべらず向かってくる相手など、その辺の荒野にいる『ゴーレム』と同じだ。情報が聞き出せない以上、最早単なる邪魔者でしかない。
「話す気がないなら通してもらう。力尽くでもな!」
ジンは両手の剣を握り直すと同時に、仮面の男たちに突貫する。狙うは右側に立っている、斧を持った方。
しかし、敵も待ってはくれない。
ジンが向かった斧を持った方とは別の、槍を持った仮面の男の方が動いた。
走りながらジンに向けて、その長い得物を突き出してくる。
だがジンの反応は早かった。
槍の刃先の軌道を先読みすると、瞬時に身体を短く捻り、僅かな動作でそれを躱した。
驚く仮面の男のがら空きになった胴の部分に、今度は黒い刀身が斬り込まれた。
「ぎゃあああぁぁ!」
派手に鮮血を飛ばしながら仮面の男は地面に倒れ込む。
その横を瞬時に駆け抜け、ジンは最後の一人に狙いを定める。
突進するジンのスピードに、斧を持った仮面の男は気圧されるかのように顔を顰め、斧を上段に振り上げた。そして一気に、間近に迫ったジンの身体へ向けて真っ直ぐ振り下ろした。
単調な攻撃。それ故に読まれやすい。
ジンは軽くステップを踏むかのように身を翻し、容易くその一撃を回避した。
地面に轟音を上げて斧が減り込んだ時には、ジンはすでに仮面の男の背後に回り込んでいた。
「はあああぁぁ!!」
叫びと共に、ジンは黒と白の刀身を持った剣を同時に振るう。
すると、黒白の衝撃波が混ざり合うように生まれ、仮面の男の身体を容易に吹き飛ばした。
大通りの商店の壁に衝突し、仮面の男は沈黙する。
それを見届けてから短く息を吐き、ジンは両手の剣を軽く握り直した。
と、その時だった。
「へぇ~。三人が相手だったってのに、まさか無傷とはねぇ~。結構な腕利きがいるじゃねぇか」
「!」
声のした方に視線を向けると、そこには先程の三人とは若干服装の違う男が、ジンを観察するかのように立っていた。
一目でジンは悟った。この男は他の敵とは違う、と。
「『魔術師』か」
警戒を強めるジンに向かって、『魔術師』はニヤリとした笑みを見せた。
という訳で、テルノアリス編第六章の裏側その壱、って感じの話です。
う~ん、やっぱり三人称の方が作者的にしっくりくるなぁ~(笑)