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フレイム・ウォーカー外伝 -Behind the Scenes-  作者: エスパー
テルノアリス編(裏)
3/33

とある立ち位置からの状況報告・Ⅲ


 それは今にして考えれば、必要な出会いと別れだったのかも知れない。

 テルノアリスを狙うアーベントと言う男と遭遇し、テルノアリスに着いて間もなく、ジンは紅い髪の少年がアーベントに敗れた事を知る。

 そしてそれにより、紅い髪の少年がある存在を失った事も。

 リネ・レディア。

 ジンが紅い髪の少年と再会した時、彼女はそこに同伴していた。

 紅い髪の少年が、偶然出会ったという少女。彼女の正体は、『倒王戦争』の頃に滅亡したとされる一族、『妖魔』の生き残りだった。そして彼女はアーベントによって連れ去られ、行方不明となっていた。

 彼女を失った事で、紅い髪の少年は一時戦意喪失にまで追い込まれていた。

 だが、ジンが事前に教えていたエリーゼ・スフィリアの存在によって、彼は再び戦う意志を取り戻した。

 彼が城の『修練場』に籠っている間、ジンは己の役割を果たそうと奔走していた。





 紅い髪の少年から教えられた、エリーゼからの伝言。

 その内容を理解した上で、ジンは元老院のハルクに進言を行なっていた。『街の検疫所に詰めている兵士の中に、テロリストに通じている者がいるかも知れない』と。

 その情報の出所が王族から高い信頼を得ているエリーゼだったため、ハルクはジンの進言に難しい顔をしながらも、その意見を否定しようとはしなかった。

「――確証は無いけれど、彼女の言う言葉なんだ。確かめてみる価値はあるかもね。多分他の元老院たちも、反対する者は少ないと思うよ」

「……! ありがとうございます!」

 ジンは言い表せない感謝の念を、深く一礼する事でしか表現出来なかった。

 どんなに王族との親交があるとはいえ、何の確証もない進言など、簡単に切り捨てられても全くおかしくない。むしろ否定されなかったのが奇跡と言える。

 ジンは頭を上げ、再びハルクに頼み込む。

「この件、進言したからには俺も立ち会います。取り調べるのは無理だとしても、せめて兵士たちを連行するぐらいの事は――」

「そんなに固くなる必要は無いよ、ジン」

 少々必死になっていたジンを宥めるように、ハルクは笑って言う。

「初めから、こういう事態になればキミにも協力を頼むつもりだったんだ。だからそんなに構えなくていい。――キミには北側の検疫所の兵士を調べてもらおう。頼めるかい?」

「はい、わかりました!」

 ジンは再び深く一礼し、颯爽とその場を後にした。




 ◆  ◆  ◆




 夜の闇はすでに深く、日付はとっくの昔に変わっていた。

 だが、だからと言って夜が明けるのを待つなどという悠長な事をしている状況でもない。アーベントはいつ行動を起こすかわからないのだ。出来る事は早めにやっておく必要がある。

 ジンは正規軍兵士五人を引き連れ、街の北側、第二検疫所へと訪れていた。

 この街の検疫所は、各方角に二ヵ所ずつ設置されている。北側にはもう一つ、第一検疫所があるが、そちらの兵士はすでに取り調べの為、テルノアリス城に呼び戻してある。その間は当然、別の兵士が検疫所に配置されている。その辺りに抜かりは無い。

(次はここだな。……果たして、エリーゼの読み通りとなるかどうか)

 ジンは心の内で呟くと、軽く深呼吸をした。緊張の為か、少々鼓動が速くなっている。それをどうにか落ち着かせ、ジンは真っ直ぐ前を見る。

「――行くぞ」

 周りの正規軍兵士に短く告げ、前方の検疫所に向けて歩き出す。

 ジンたちは物の数分で検疫所の傍に辿り着いた。灯りは点いている。検疫所に詰めている兵士は二人。その二人が交代制で、二十四時間街に出入りする者の検疫を行なっているのだ。

 と、傍まで近付いて、ジンは妙な事に気が付いた。

(……? 灯りは点いているのに、人の気配がしない?)

 ジンの感じた通り、灯りの点いた検疫所からは人の気配はおろか、話し声すら全く聞こえない。

 まさかと思い、ジンは検疫所の扉を数回ノックした。

「『ギルド』所属のジン・ハートラーだ。元老院ハルク・ウェスタイン様からの命により、こちらの兵士の方に尋ねたい事がある。至急テルノアリス城まで同行願いたい」

 返事は返って来ない。無言という答え。

 ジンは間違いないと感じ、蹴破るような勢いで扉を開けた。

 案の定、検疫所の中には誰一人いない。文字通り、(もぬけ)(から)だった。

「くそっ!ここがそうだったのか!」

 ジンは同じく信じられないという顔をした兵士たちに、ほとんど怒鳴るように告げる。

「すぐにテルノアリス城の元老院の方たちに報告を! 北側第二検疫所の兵士二名が逃亡! 恐らくテロリストと繋がっていると思われる! 捜索を開始すると伝えてくれ!」

「は……、はいっ!」

 ジンの様子に慄くかのように、二名の兵士が元来た道を走っていった。残った兵士たちは、ジンの代わりに検疫所内の捜査を行ない始めた。

 ジンは一人検疫所の外に出ると、悔しさで顔を顰めた。





 彼の知らない所で、物語は急速にその足を進めていた。

 止める術は最早無い。一つの結論へ向けて、ただ進み続ける。

 テルノアリスが戦火に包まれるのは、これから約半日後の事だった。

 ここで語られているのは、本編でディーンがエリーゼに会った後。ディーンが『修練場』に籠って特訓をしている頃の裏話です。

 何回も読み直したはずだけど大丈夫かな……?

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