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Act.4 近付く者

 巨大な扉を潜り、アルフレッドは遺跡の内部へと足を踏み入れた。

 内部に外の光は届かないはずなのだが、どういう訳かアルフレッドのいる空間は、松明すらないにも拘らずほんのりと明るい。

 まるで夜明け前の薄明かるさを感じさせる空間は、入り口から道が四つに別れている。どの道も道幅は大体五メートル、高さは七メートル程だ。足下を確認出来る程度の明るさはあるが、さすがに奥の方まで見通す事は出来そうにない。

(進める道は四つ……。レオンとリズが選んだ道はどれなんだ?)

 分かれ道の前で立ち止まり、アルフレッドは僅かに考え込む。

 と、その時だった。

 アルフレッドが入ってきた入口の扉が、再び地鳴りのような轟音を上げて完全に閉じてしまった。思考が別の所に向いていた為、アルフレッドはそれに反応出来ず、結果として遺跡の内部に閉じ込められてしまう。

 だがアルフレッドの心境は、思いのほか冷静だった。

「なるほど……、来訪者が中に入ると勝手に閉じる仕掛けなのか。――ま、外に出る方法を考えるのは、レオンとリズを見つけてからだな」

 退路を断たれたという状況にも拘らず、アルフレッドには焦りが一切無い。適当にそう結論付けると扉から眼を離し、再び正面の分かれ道と睨み合う。

 どの通路も決して視界は良くない。それぞれの道が、どのような場所に繋がっているかわからない上、進んだ道が行き止まりになっている可能性だってある。

 本来なら慎重に道を選ぶべきなのだろうが、アルフレッドにはある考えがあった。

(そういやリズが言ってたっけな。迷路ってのは壁伝いに歩けば、時間は掛かろうとも必ずゴールに辿り着く。こういう場所を探索する場合、何より一番重要なのは根気なんだ、ってよ)

 アルフレッドは昔、レオンとリズベットの二人と古びた遺跡を探索した際、迷路のような場所に迷い込んだ事がある。出口が見つからない焦りから、慌てふためく自分とレオンを尻目に、リズベットだけは嘘みたいに冷静を保っていた。今の台詞は、その時彼女が言っていた言葉だ。

 懐かしい記憶を思い出し、その顔に軽く笑みを湛えながら、アルフレッドは一番右にある道を選んだ。

 少しゴツゴツとした地面をしっかりと踏み締めながら、アルフレッドは遺跡の奥に向かって歩いていく。その反面、内心では闇雲に走り出してしまいそうな気持ちを、必死に抑え込んでいた。

 自分が今冷静さを失ってしまってはいけない。冷静さを欠いて無謀な行動を起こせば、それこそ以前の作戦の時のような事になりかねない。

(今度ばかりは失敗が許される状況じゃねぇ。あいつらが今もまだこの中で危機に晒されてるんだとしたら、尚更な)

 例えどんなに(なじ)られようと、忌み嫌われようと、彼らともう一度話し合う事を決めたのは、他でもないアルフレッド自身だ。

 あの紅い髪の少年に負けない為にも、自分の信念だけは曲げたくない。

 そんな思いを胸の内に秘め、力強く歩き続けていた時だった。


 ガコッという、何かの蓋が外れるような、硬い音が響いたのは。


「あん? 何の音――」

 不思議に思い、その場に立ち止まろうとしたアルフレッドは、足下の小さく隆起した地面に足を取られ、思わず前のめりに転びそうになる。

 するとその瞬間。天井から途徹もない速度で落下してきた何かが、前のめりになったアルフレッドのすぐ後ろに、ザンッという鋭い音を立てて突き刺さった。

「!?」

 背中に妙な悪寒を感じ、アルフレッドは恐る恐る背後を振り返る。

 するとそこには、巨大な鏃型の刃物が、地面を抉るかの如く深々と突き刺さっていた。

 刃物の大きさは大体一メートルくらい。全体が氷の塊で出来ているかのように、鏃の向こう側が薄らと見通せる。

 そしてアルフレッドは今更ながらに気が付いた。よく見ると、自分が今立っている周囲の地面には、鏃が突き刺さった後のような切れ目がいくつも出来ている。

 それを眼にした瞬間、アルフレッドは即座に、今の事態を把握した。

「侵入者用の罠か!」

 誰にでもなくアルフレッドがそう叫ぶと、それに答えるかのように、さっきと全く同じ音が次々と聴こえ、天井から巨大な鏃型の刃物が、流星群のようにアルフレッドの許へと殺到してきた。

「どわぁぁぁぁああぁあぁあああぁあぁぁあっ!?」

 若干涙目になりつつ走るアルフレッドの背後には、天からの素敵な落とし物が容赦なく次々と降り注いでくる。

 入り口であの謎の声が言っていた『試練』とは、これの事だったのだろうかと思いつつ、それでも今のアルフレッドには、深く考えている余裕は全く無かった。

 今はただ走るしかない! ……という妙な強迫観念に囚われながら、まさに脱兎の如く、アルフレッドは必死に両足を動かし続けた。




 ◆  ◆  ◆




 そんな強制トレーニングを続ける事五分。意図せずして遺跡のかなり奥まで進んだアルフレッドは、地面に泥のように倒れ込んで、ぜぇぜぇと激しい呼吸を繰り返していた。

「ふ……ッ、ふざけんじゃねぇぞ……! いきなりあんなモン落下させるなんて……、どうなってやがんだこの遺跡の仕掛けは……!?」

 誰に対しての文句なのかはわからないが、それでもアルフレッドは口にせずにはいられない。

 しばらく地面に横になっていたアルフレッドだったが、また何か落下してくるんじゃないかという疑心暗鬼を覚え、乱れた息を整えながら、疲労している身体をどうにか立ち上がらせた。

(……それにしても、レオンとリズはどこにいやがるんだ? 確かに急な仕掛けで驚きはしたが、この程度の罠にあいつらが引っ掛かるとも思えねぇ。なのに何であいつらは、この遺跡から戻って来ねぇんだ?)

 通路の奥の方へ視線を向けながら、アルフレッドは静かに考え込む。

 一体彼らはここで、何に足止めを喰っているのだろう?

 自分が通ってきた通路以外にも、罠がある可能性は充分ある。だが例えどんな罠だろうと、ギルドメンバーとして数々の苦難を乗り越えてきたあの二人が、遺跡の罠程度に時間を取られるとは思えない。

 それこそ、強力な『ゴーレム』でもいれば話は別だろうが、あんな鉄の塊が内部で暴れていれば、その騒音が自分の耳にも届いているはずだ。だが遺跡に入って以降、それらしき音は一切聴こえて来ない。

 これらの理由から、アルフレッドには全く見当が付かなくなった。今この遺跡の中で、一体何が起きているというのか?

(……いや、待てよ。例え何かが起きてたとしても、この遺跡の中、妙に静か過ぎやしねぇか?)

 不気味な程に静まり返った遺跡内。仮にレオンやリズベットたちがこの中にいるとすれば、多少なり何かしらの反響音が聴こえて来てもいいはずだ。

 だがそれが無い。

 音が一切聴こえない。

 まるでこの中には、アルフレッド以外の人間が存在していないかのように。

「……」

 言い知れぬ不気味さが、今更のように胸を締め付け、アルフレッドは思わず黙り込んでしまう。

 どれ位そうしていただろうか。その場に石像のように佇んでいたアルフレッドは、不意にある事に気付く。

 それは、ついさっきまで一切聴こえて来なかったはずの、反響音。

 何者かが、通路の奥からこちらへ近付いてくる、足音。

 地面の細かな砂利を踏み締めながら、足音はゆっくりとアルフレッドの方へ近付いてくる。

 アルフレッドは咄嗟に、腰のベルトに提げていた二本の短剣を、両手で握って構えを取った。

 握られた短剣は、何の変哲もない片刃のダガー。戦闘の状況に応じて様々な武器を使いこなすアルフレッドが、常に持ち歩いている物の一つだ。

 そのダガーを握り締め、薄暗闇の向こうから、足音の主が現れるのをジッと待つ。

 そうして、数秒が経った頃だった。

 アルフレッドは、現れた足音の主を眼にして、驚きの余り構えていたダガーを落としそうになる。


「レ……、レオン……!」


 ゆっくりとした足取りで姿を現したのは、アルフレッドが探し求めていた人物。

 長い間眼を背け、取り戻そうとしなかったかつての友。

 レオン・マーガスト。

 それが、足音の主の正体だった。



という訳で、三ヵ月ぶりの更新です(汗)

どんだけ長い間放ったらかしにしてんだと思われるでしょうが、どうにか更新は続けていくつもりです。


それから一話前辺りの後書きで、アルフレッドの話は四話か五話構成になると書きましたが、もしかしたら少し長くなるかも知れません。

話全体の構成を考え直した所、当初考えていた物に色々な追加要素が入ってしまったが故の結果です。

順調にうp出来るかどうかはわかりませんが、頑張って執筆していきます。

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