Act.3 蛮勇
アルフレッド編、第三章!
前話よりちょっと短くなってます。
新たな遺跡発掘に関する調査団の護衛兼調査補助任務。それが、レオンとリズベットが受けた依頼の内容だった。
新たに発見された遺跡の場所は、『ケルフィオン』の街から西の方角。丁度大陸一険しいとされる『ブラウズナー渓谷』に繋がる山脈地帯のすぐ傍だ。
依頼主は遺跡調査を専門とする考古学者三名。彼らは遺跡を調査するにあたって、その遺跡周辺に『ゴーレム』が出没する可能性を考慮した為に、今回の依頼を『ギルド』に出したらしい。
(『あの時』と状況が似てやがる……)
依頼内容が書かれた書類に目を通したアルフレッドは、すぐにそう思った。
『ゴーレム討伐作戦』。あれも元はと言えば、遺跡を調査していた学者たちが『ゴーレム』の群れを破壊してほしいという依頼から始まったものだった。
状況が似ているというだけで、アルフレッドは不安を覚える。
不吉な予感とも言うのだろうか。現にレオンとリズベットが『ケルフィオン』を出発したのが二日程前。書類上に書かれている街から遺跡までの距離は、馬を使えば三時間程で行ける距離だ。にも拘らず、二日経っても彼らが帰還していないというのがどうしても気になってしまう。
単に調査が長引いているだけという可能性もあるが、以前の事があるせいか、アルフレッドはどうしても楽観的に考えられなくなっていた。
もしかしたら何かあったんじゃないか、と。
「勘違いならそれでいい。あいつらが無事ならそれで……」
『ケルフィオン』の街で調達した馬の背に乗り、アルフレッドは荒野を疾走する。
目前には、既に山脈地帯が近付いて来ていた。
◆ ◆ ◆
走り続けてきた乾いた荒野とは打って変わり、周りには徐々に草木が多くなっていく。
目的地が近いと感じたアルフレッドは、適当な所で地面に降り、馬を手頃な大きさの木に結え付けてから、自分の足で歩き始めた。
ここからは書類に書かれている地図だけでは心許ない。正確な位置を把握する為に方位磁針を手に取って、アルフレッドは慎重に歩を進めていく。地図通りに来れているなら、遺跡はこの辺りにあるはずだ。
「――ん?」
それは立ち止まって、もう一度方角を確かめようとした時だった。
アルフレッドは僅かに目を瞬かせ、もう一度前方を注視してみる。つい今し方、前方の木々の隙間で何かが動いたような気がしたのだ。
一瞬『ゴーレム』が現れたのかとも思い、警戒心を強くするアルフレッド。
だが近付いてよく見てみると、動いているのは太い木の幹に結え付けられている二頭の馬だった。ホッとしたのも束の間、アルフレッドはその馬を見てある事を思い付く。
「まさかこの馬、レオンとリズの……?」
こんな人気のない場所に馬が結え付けられているという事は、誰かがここまで馬に乗ってきたという証拠だろう。しかも状況から考えれば、それはレオンやリズベットたちである可能性が非常に高い。
さらに言えば、こうして馬があるにも拘らず、彼らは未だに遺跡から帰還していない。となると、考えられるのは最悪の可能性。
「まさか、あいつら……!」
出来れば現実のものになってほしくなかった可能性。
彼らは今、何かトラブルに巻き込まれているのかも知れない。そう考えると、アルフレッドは居ても立ってもいられなくなった。すぐさま方位磁針と地図を頼りに、再び遺跡の場所を探り始める。
何の迷いもなく進み始めた両足は、やがて早足になり、小走りになり、気付けば風を切るかのように駆け出していた。
鼓動が高鳴る。
息が切れる。
先を急ぐあまり、何度か足が縺れそうにもなった。
草を掻き分け、木々を通り越し、やっとの思いでアルフレッドが辿り着いたのは、山脈の麓の拓けた場所。周りには既に木々がなく、所々草の生えた地面が山側に向かって広がっている。
と、その光景の中に、アルフレッドは漸く自然物ではない物を見つける事が出来た。
山肌の一部を削って造られた、巨大な構造物。アルフレッドはその構造物に駆け寄ってから、乱れていた息を整える。
「……よし。どうやらここで間違いねぇらしい」
方位磁針と地図を数回確認し直して、アルフレッドは漸くそう結論付けた。そして改めて、眼の前の遺跡の姿に眼を向ける。
遺跡の入口となる山肌の部分には、高さが二十メートルはあろうかという、巨大な石柱に支えられた石造りの門があり、その先には同じく巨大な扉が屹立していて、両開きの形になっている。
遺跡その物は、山肌を丸ごと刳り貫いて造られているらしく、内部は恐らく洞穴のようになっているはずだ。
アルフレッドの脳裏に、つい最近立ち寄る機会のあった『グレッグス鉱山』の情景が呼び起こされる。尤も、入口の大きさからして、あの時とは少しばかり状況が異なってはいるが。
「……しかしどうなってんだ? 確かに入口はあるが、扉が完全に閉まっちまってるぞ」
眼の前の巨大な石の扉は固く閉ざされていて、内部へ入る隙間などどこにも見当たらない。
もしかしたら、どこかに扉を開ける為の仕掛けがあるのかと思い、アルフレッドは扉の傍に近付いてみた。
するとその時。
『来訪者よ』
「!?」
突然、どこからともなく何者かの声が響いてきた。
思わず身構えるアルフレッドを他所に、謎の声は感情の起伏が感じられない、どこまでも平淡な口調で続ける。
『ここより先には試練がある。生きるも死ぬもそなた次第。臆せぬならば進むがいい。試練を乗り越えしその時に、そなたには栄光の光が訪れるであろう』
「あん? 一体何を――」
と問い掛けようとした時、石造りの扉が轟音を立てながら、ゆっくりと左右に開き始めた。丁度人が通れる程の隙間が出来た所で轟音は止み、扉はピタリと動かなくなる。
「……何なんだこの遺跡は?」
内部へ入る為の隙間が出来た扉の前で、アルフレッドは眉根を寄せて首を傾げる。
さっきの平淡な声はもう聴こえない。あの声が言っていた『試練』という言葉が気に掛かったが、それよりもアルフレッドには気掛かりな事があった。
それは当然、レオンとリズベットの行方だ。
彼らがここを訪れているのは、さっきの馬の件から考えてもほぼ間違いないだろう。
そして、彼らが未だ帰還していない理由。それはもしかしたら、さっきの声が言っていた『試練』というものに挑戦したからなのではないだろうか。
(遺跡の扉は閉ざされてた。って事は、あいつらはまだ中にいる可能性が高い)
先程から考えていた最悪の可能性が、いよいよ現実味を帯びてきた。
トラブルに巻き込まれたどころの話じゃない。もしも彼らがこの中で、死体となって転がっているとしたら――。
(馬鹿野郎……ッ! 俺がそんな事考えてどうする!?)
一瞬でも想像してしまった悪夢のような光景を、アルフレッドは首を激しく左右に振る事で消し去る。
そうだ、望みを捨ててはいけない。まだ何の確証を得た訳でもないのだから。
彼らの安否を確かめたければ、今はとにかく進むしかない。
例えこの先に、どんな『試練』が待ち構えていようとも。
「待ってろよ。レオン、リズ」
二人の名前を呟く事で集中力を高めつつ、注意深く入口に近付き、アルフレッドは遺跡内へと足を踏み入れる。
進む先に、希望の光があると信じて。
本編と並行してると、どうしても投稿が遅くなるなぁ……。
特に今回、本編の方が重要な展開を招く所なんで、外伝はいつもより更新が遅れるかも知れません。
言い訳っぽく書いてますが、最後まで書くつもりなので、更新は遅くても頑張っていこうと思います。