Act.1 居場所を求めて
一ヵ月半ぶりくらいの投稿ですね。
今回の主役は『鉱山都市編』に出てきたアルフレッドです。
ではさっそく行きましょう!w
アルフレッド・ダグラス――。
左耳に逆三角錐型のピアスを付けた、茶髪の青年。
民間組織『ギルド』に所属している彼は、とあるチームのリーダーとして様々な仕事をこなしながら、仲間と共に、変わらぬ日々を過ごしていた。
だがある時、彼の日常は様変わりする事になる。
全ての始まりは、とある大規模な作戦に参加し、とある紅い髪の少年と出会ったからだった。いつも通り、何の気もなく仕事を引き受けた事で、結果的に彼は、仲間を失う事になる。
自分の居場所を見失い、大陸の各地を彷徨い歩いた後、彼は再び紅い髪の少年と出会ってしまう。
今の自分が、最も憎んでいる相手に……。
だが運命は復讐を望んだアルフレッドに、思わぬ結果を齎した。
それは憎んだ相手との、紅い髪の少年との、一種の和解のようなもの。
そして、その意図せぬ結果によって、アルフレッドの中に生まれた一つの目的。それは、失ったものを取り戻す事。
過去を変える事は出来ない。
だが、未来を変える事は出来る。
漸くそれに気付く事の出来た青年は、仲間の行方を捜して一人、奔走する。
過去の因縁に別れを告げ、新たな未来を手に入れる為に――。
ジラータル大陸南西の街、『ケルフィオン』。そこはかつて、アルフレッドが参加した『あの作戦』を引き受けた『ギルド』のある街の名だ。
とある鉱山都市で紅い髪の少年と別れてから、アルフレッドはある目的の為、再びその街の近郊を訪れている。
そのある目的とは、絶縁に近い別れ方をした、かつての仲間との和解。
口に出せば案外簡単な事のように感じられるかも知れないが、彼の場合、そう単純で軽い話でもないのだ。
倒王暦〇〇一一年、五ノ月の頃。ジラータル大陸のとある場所で起きた、大規模な戦い。
その戦いは開始当初から、『ゴーレム討伐作戦』と参加者たちの間で大々的に銘打たれ、ギルドメンバーだけでなく、『ギルド』に所属していない一般人からも参加者を募っていた。
その参加者の中にいたのが、後にアルフレッドが諍いを起こす相手である、紅い髪の少年。
当初からアルフレッドは、彼が作戦に参加した目的が、単なる金稼ぎの為だという事を見抜いていた。それ故に彼に辛辣な態度を取り、また少年自身も、アルフレッドに対して噛み付くような姿勢を取っていた。
ほんの少しの会話で早くもチームに亀裂を生んでしまった二人は、言葉にならない気不味さと危うさを抱えたまま、作戦開始の時を迎えてしまう。
そしてついに、事は起きた。
作戦の目的は、とある遺跡を跋扈している魔術兵器『ゴーレム』たちを、一体残らず殲滅する事だった。
だが開始直後、ある思いを抱えていた紅い髪の少年が、突然単独行動を取り、その経緯から足並みが崩れたアルフレッドのチームは、作戦に参加していたその他のチームと共に、遺跡内に仕掛けられていた罠に掛かってしまう。
(確かに、あの時の俺は冷静さを欠いてた。あんな単純な罠に掛かったのも、眼の前の事に集中出来てなかったからだろうな……)
罠の発動と同時に、アルフレッドたちは『ゴーレム』の大群に襲われ、身動きが取れなくなる。
このままでは全滅かと思われたその時、事態の収拾に乗り出したのは、他でもない紅い髪の少年だった。
彼は、冷静さを失い暴走し掛けていたアルフレッドを無理矢理制止し、たった一人で群がる『ゴーレム』たちを退けてみせたのだ。
そこで漸く、アルフレッドは知る事になる。
少年の正体を。
彼が凄まじいまでの力を持った、『魔術師』であるという事を。
しかし、それで解決した事にはならなかった。死者こそ出なかったものの、数多くの負傷者が出た事から、アルフレッドは怒りの矛先を、単独行動を取った紅い髪の少年にぶつけた。
こんな結末になったのはお前のせいだ、と。
アルフレッド自身、それで全てが終わると思っていた。勝手な行動を取った者を断罪したのだから、これで全てが丸く収まると。
だがそれは、全くの勘違いだった。
『作戦が悲惨な結果に終わった責任は、チームのリーダーであるお前にもある』
仲間から告げられた予想もしない言葉。アルフレッドが怒りの矛先を紅い髪の少年に向けたように、今度はアルフレッド自身が、仲間から怒りの矛先を向けられてしまう。
そして結局、チームは崩壊した。
変わらない日常を過ごしてきた仲間と、縁を切るという形で。
そのような経緯があって以来、アルフレッドは一度もその仲間たちと顔を合わせていない。
大陸の各地を彷徨っていた時も、極力『ギルド』には近付かないようにしていた。そうする事で、自分の中に残る未練を捨て去ろうとしていたのだ。
(……まぁ、過去の事を今更掘り返したってどうにもならねぇ)
暗い感情を呼び起こしてしまいそうになったアルフレッドは、軽く首を振って頭を切り替える。
自分がここまでやってきたのは、そんな事を考える為ではない。
失ったものを取り戻す。ただその為だけに進んできたのだ。
鉱山都市『ワーズナル』で再会した、あの紅い髪の少年の顔を思い出しながら、アルフレッドは何気なく空を見上げる。
確かに最初は、彼の事を憎んだ。自分が今こんな惨めな思いをしているのは、あの少年のせいだ、と。だからこそ彼と再会した時、アルフレッドは迷わず恨みを晴らそうと行動を起こした。
だが結果的にそれが頓挫し、今度こそ何もかも失ったアルフレッドは、全てを諦めようとする。
その時、アルフレッドは見たのだ。困難な状況に陥ったにも拘らず、決して諦めようとしない少年の姿を。
笑えるくらい無様だった。
馬鹿馬鹿しいくらい必死だった。
そんな彼の姿を見て、アルフレッドの中で、確かに何かが変化したのだ。
(『アイツ』は過去を悔やむ事をしねぇ。決して弱音を吐かず、振り返る事なく、今の自分に出来る事を精一杯成し遂げようとしてやがるんだ)
その証拠に、彼はアルフレッドが復讐しようとした事を、一度も咎めようとはしていない。
少なからず不満には思っていただろう。それでも彼は、それをアルフレッドにぶつけようとする事はなかった。
それに別れ際、あの少年は自分に対してこう言った。
頑張れよ、と。
全くあの少年は、自分より随分年下のくせに、生意気な事ばかりを口にする。
「やれやれ……。本当に、心底ムカつく野郎だぜ」
と、独り言を呟くアルフレッドの表情は、その言葉に反して薄く笑っている。
アルフレッド自身、もう充分わかっているのだ。『アイツ』の事が大嫌いなのは間違いないが、それでもきっと心のどこかで、『アイツ』の事を認めている、と。
だが負ける訳にはいかない。自分もあの少年以上に、力強く立ち上がらなければならないのだから。
笑みを消し、アルフレッドは真剣な表情で、再び前を向く。
(何も手掛かりがねぇのは事実だが……、もしかしたら、あいつらもここに帰って来てるかも知れねぇ)
一縷の望みを託して、アルフレッドは歩き始める。
遠く荒野の先に待ち受ける、かつての因縁の地へ向かって。
多分これも四話か五話くらいの長さになるんじゃないかと思います。
本編同様、順調にうpしていければいいのですが……w