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フレイム・ウォーカー外伝 -Behind the Scenes-  作者: エスパー
テルノアリス編(裏)
2/33

とある立ち位置からの状況報告・Ⅱ


 動き出した運命と言う名の歯車は、彼の気付かない内にその速度を増していく。

 紅い髪の少年と廻り合い、首都に向かう道の途中で、ジンはある人物に遭遇する。


「この大陸に変革を齎す者だよ、少年」


 首都へ向かう途中に立ち寄った遺跡で遭遇した男は、そんな言葉を口にした。

 その人物の名は、アーベント・ディベルグ。

 自らを反王族軍のリーダーと称し、山吹色の短い髪の男は不敵な笑みを見せる。

 その男の存在が、噂という不確かなものを現実のものとして実体化させた。

 確実に、首都テルノアリスに危機が迫っていた。





 首都に到着してすぐ、ジンは紅い髪の少年と一旦別れ、王族に調査の内容を報告する為、テルノアリス城を訪れていた。

 城の門を潜り、城内に入ったジンは、城内を警備する正規軍兵士に声を掛ける。

「『ギルド』所属ナンバー〇六四、ジン・ハートラーだ。元老院ハルク・ウェスタイン様に調査報告を伝えに来た」

 ジンは警備兵に、表面に剣と槍と斧が交差した金の装飾がされたバッジを差し出した。これは『ギルド』で支給されている、ギルドメンバーである事を証明する為の物だ。バッジの裏側には、ジンのフルネームと、バッジを支給された年号が彫り込まれている。

「――確認した。ハルク様はすでに、謁見の間でお待ちになられている」

(……? 到着する時刻は伝えていないはずだが……)

 疑問に思いながらも、ジンは先導する警備兵士の後を追った。




 ◆  ◆  ◆




「やぁ、ジン。久しぶりだね。キミの到着を待っていたよ」

 ジンが謁見の間に着くなり、そんな明るい声がジンを出迎えた。

 首都の中央に屹立するテルノアリス城。その城内の北側に位置する、王族との謁見の間。ある程度限られた者にしか与えられていない、王族との面会の権利。ジンはその限られた者の内の一人という訳だ。

 その謁見の間の中央。紅い絨毯が敷かれている所までジンは歩いていき、片膝をついて一礼した。

「こちらこそお久しぶりです、ハルク様」

 ジンから数メートルの間隔を開けて三段高くなった位置には、王族専用の金の装飾がされた、背凭れの長い椅子が一つ置かれている。

 その豪華な造りの椅子に、長い若竹色の髪を後ろで一つに纏め、眼鏡を掛けた青年が座っている。少し眼がつり上がっている知的な雰囲気の青年は、ジンにとってかなり目上の存在だ。

 現テルノアリス、およびジラータル大陸の政権を運営する元老院の一人、ハルク・ウェスタイン。

 彼は畏まった様子のジンに笑って言う。

「いつも言ってるだろ? ボクに気を使う必要はないって」

「いえ、そういう訳には……」

 ジンはハルクに会う度に、いつもこうして注意される。

 だが、ジンにとってハルクに敬語を使うのは当たり前の対応である。こうして厚意にしてもらっているとはいえ、相手は目上の貴族なのだ。とてもじゃないが、くだけた感じで話す事など出来そうもない。

 と、少し困っていたジンはある事を思い出した。

「ところでハルク様。なぜここにおられたんですか? 到着の正確な時間や日にちは、連絡していないはずですが……」

 ジンが口調を崩さない事に若干不満げな顔をしながらも、ハルクはジンの質問に答える。

「簡単な事だよ。つい数時間前に、キミの友人のエリーゼ・スフィリアがここを訪れていてね。彼女にキミの到着する日を占ってもらったんだよ。それにしても彼女は凄いね。占いで出た時間と、ほとんど差がないんだから」

「あいつがここに……?」

 ジンの古くからの友人であり、占い師でもあるエリーゼ・スフィリア。彼女の占いの的中率が高いという事は、この城に住む王族たちの中でも有名な話だ。それにより、彼女は王族に占ってくれと頼まれる事も多々ある。恐らく今日来ていたというのも、それと同じ話だろう。

「ところでジン。調査の方はどうだったんだい?」

 ぼんやりと考え込んでいたジンは、ハルクの言葉で我に返った。

 報告する事は色々ある。ジンはゆっくりと口を開いた。




 ◆  ◆  ◆




「――う〜ん。多分そいつは、元貴族のアーベント・ディベルグなんじゃないかな?」

 彼の言葉に、ジンは訝しげな顔をする。

「貴族……? あの男が、ですか?」

 信じられない、と言いたげなジンの様子を見て、ハルクは思い出すかのように説明を始めた。

「ディベルグという名前は、『倒王戦争』以前までは五大貴族と呼ばれる高尚な家系だったんだ。だけど知っての通り、『倒王戦争』で前テルノアリス王は『反旗軍』によって倒された。そしてそれによって、『魔王』側に付いた貴族たちはその権利を剥奪され、城を追われる身となった。ディベルグというのも、その貴族の内の一つだよ」

 フフ、と愉快そうに笑って、ハルクは続ける。

「もし本当に、キミの見た人物がそのアーベント・ディベルグならば、彼がテルノアリスを狙う理由も説明がつく。彼はボクらを殺す事で、過去の栄光を取り戻そうとしているんだよ。――全く、厄介な男に眼を付けられたものだね」

 そう言って苦笑するハルクの様子は、困っているというよりもむしろこの状況を楽しんでいるようだった。

 若干顔を顰めて、ジンは即座に言葉を紡ぐ。

「あの男が首都を狙っているのは事実です。早急に手を打たなければ、取り返しのつかない事になりかねません」

「そうだねぇ。他の元老院の者にも意見を求めてみなきゃいけないけど、これはもう確定事項だろう」

 ハルクはゆっくりと腰を上げると、真剣な表情で眼下のジンを見つめた。

「これより元老院および正規軍は、アーベント・ディベルグを最重要犯罪人とし、身柄を拘束、もしくは殺害も視野に入れて行動を起こす。ボクは正規軍の内部で討伐隊も編成するよう手配し、アーベントの捜索を行なわせる。キミはこの件を『ギルドマスター』に報告して、ギルドメンバーからも応援を頼めるようにしておいてくれ」

「……! わかりました!」

 ジンは片膝をついたまま、綺麗にその場で一礼した。





 本格的に始まろうとしていた、テルノアリスを巡る戦乱の渦。

 だがジンはこのすぐ後、紅い髪の少年が負傷し、城に運び込まれた事を知る。それによって、何が齎されたのかを知る事になる。

 表があれば裏がある。その逆もまた然り。

 紅い髪の少年がジンの行動の全てを知らないように、ジンもまた、紅い髪の少年が何をしていたのかを知るはずがなかった。


 という訳で、ここでの話は本編でテルノアリスに訪れた直後。ディーンと別れた後のジンの話でした。

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