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フレイム・ウォーカー外伝 -Behind the Scenes-  作者: エスパー
シャルミナ・ファルメの冒険記 
18/33

Episode 5 少女が夢見た世界

大変遅くなりました。

これにてシャルミナさんのお話、終幕となります。


「――全く、散々な眼に遭ったわ」

 少々(やつ)れた表情で、レイミーは『ギルド』の建物から出た。

 取り調べの為に、結局二時間も室内に閉じ込められていたのだ。何だか久しぶりに吸ったように感じる外の空気が、否応なく開放感を与えてくれる。

「勘弁してほしいわよねぇ……。同じような質問何度も何度も繰り返してきてさぁ」

「確かにな。あ〜、何か肩凝ってる気がするぜ」

 だるそうな声を出すレイミーの隣で、ジグランも肩を回しながら疲れた声で言う。

 その二人の背後。少し間を開けて歩くシャルミナは、前を歩く二人とは違った意味で俯いていた。

「ごめんね、二人とも。私のせいで余計な事に巻き込んで……」

 かなり(しお)れた声でシャルミナが呟くと、レイミーとジグランは慌てた様子で振り返る。

「あ、いや、別にシャルミナのせいにしてる訳じゃないのよ? ねぇジグラン」

「お、おうよ! 何も気にする必要ねぇって。首都に向かう『ギルド』の遠征隊が来たら、さっさとこの街から出て行こうぜ」

『この街から出る』

 その言葉を耳にしたシャルミナの胸に、ズキッとした痛みのようなものが訪れる。

 その原因は言うまでもない。

 彼女は後悔し、そして考えてしまうのだ。

 本当にこのままでいいのか、と。

 あの少年、リッツに謝りたい。謝らなければならない。

 自分の正体を隠していた事を。自分が『魔女』と呼ばれている存在だという事を。ちゃんと自分の口から、説明しなければならない。

(……いいえ。今更そんな事しても、きっと意味なんてないよね)

 自問自答を繰り返してみるものの、結局行き着く答えはそれだった。

 今自分が少年の前に現れたとしても、あの少年は、きっと笑顔を見せてはくれない。あの現場にいた野次馬たちと同じく、畏怖の対象としてシャルミナの事を見るだろう。

 そんな事になるのだけは耐えられない。

 そんな事になるぐらいなら、いっそ何も言わずに消えた方がいい。その方が、辛さとしては充分マシだ。

「――シャルミナ。何かあったんじゃないの?」

 暗い気分に支配され、僅かに俯いていたシャルミナは、全てを見透かしたようなレイミーの言葉で顔を上げる。

 シャルミナを見つめるレイミーの表情は、真剣なものだった。その傍らにいるジグランも、何かを察しているらしい。飄々としている普段の様子とは違って、レイミー同様真剣な顔付きだ。

「一人で抱えんなよシャルミナ。オレたちはもう、赤の他人じゃない。一緒に旅をする仲間なんだぜ?」

「……」

 そんな二人を前にして、シャルミナは思わず言葉を失う。

 素直に嬉しかった。

 眼の前の二人は、自分の事を本当に心配してくれている。仲間だと思ってくれている。そう素直に感じる事が出来た。

 だからこそシャルミナは打ち明ける。二人が駆け付ける前に、一体何があったのかを。

 シャルミナが言葉を紡ぐ間、レイミーとジグランは黙って彼女の言葉を聞いていた。口を挟まず、茶々を入れず、ただジッと、シャルミナの言葉を聞き続けてくれた。

「――そう。あの時あそこにいた男の子と、そんな事になってたのね」

「チッ。何も知らねぇ奴らが好き勝手ほざきやがって……! オレがその場にいれば、一人残らずブン殴ってやったってのに」

 酷くイラついたように顔を顰め、ジグランは両拳を乱暴に打ち付け合う。

 それを横目に見ながら、レイミーは呆れたようにジグランを窘める。

「止めなさいって。今更そんな事言ってもどうにもなんないでしょ?」

「だけどよぉ……!」

「もういいんだよ二人とも。そう言ってくれるだけで、私は充分嬉しいから」

 また言い合いをし始めそうな二人の間に割って入りながら、シャルミナは苦笑してみせる。

「結局同じなのよ。何をどうしたって、私が『魔女』と呼ばれてる事に変わりはない。人から恐れられる存在だって事は、変えようがない事なんだよ、きっと……」

 自分自身を(おとし)めるような言葉を吐く事で、シャルミナは諦めようとしていた。

 リッツへの思いを。少年と接した、あの優しい時間を。

 もう二度と戻れないと言うのなら、未練がましく持っているこの思いの全てを、跡形も無く消し去ってしまおう。そうすれば、今より少しは楽になれる。

 そうシャルミナは思っていた。

 だが――。

「それはちょっと違うんじゃない?」

「!」

 そんなシャルミナの考えを打ち破ったのは、レイミーのその一言だった。

「レイミー……?」

 思わず問い返してしまったシャルミナは、不思議な気持ちでレイミーを見つめた。

 彼女は一体、自分に何を言おうとしているんだろう?

「確かにあんたは『魔女』と呼ばれてる。実際、アタシたち二人だってそう呼んでた訳だし、ここらの地域に根付いた噂や伝説は、そう簡単に取り除けるものじゃないんだろうね」

 レイミーはまるで自分を皮肉っているみたいに、苦笑しながらそう告げる。

 だが次の瞬間には笑みを消し、真剣な表情でシャルミナを見つめ、ゆっくりと口を開いた。

「でもさ。どんなに根が深いとはいえ、それはたったそれだけの事だろ? 確かに難しい問題だろうけど、絶対に変わらないなんて証拠がどこにある? なのにあんたは、たった一度の挫折で全てを諦めるの? 諦める事が出来るの? 本当に諦めたいの?」

「それは……」

 的確に痛い所を突かれ、シャルミナは言い淀む。

 結果として、それが他ならぬ答えになっていた。

 本音を言えば当然、諦められるはずがない。諦めたくないに決まっている。

 僅かに俯き、唇を噛み締めるシャルミナに、レイミーは追い討ちを掛けるように続ける。

「思い出してごらんよシャルミナ。『ゴルムダル大森林』でアタシたちが会った『アイツ』は、そんな簡単に諦めてたかい? どんなに困難な状況でも、最後の最後まで戦い抜いてたはずだろ?」

「……」

 レイミーに言われ、シャルミナは思い出す。あの森で出会った、紅い髪の少年の事を。

 彼女の言う通り、あの少年は決して諦めようとはしなかった。最後の最後まで、自分の存在を利用した『魔術師』を追い詰める為に、決死の覚悟で戦っていた。

 それに比べて今の自分は……?

「『アイツ』を見習えとまでは言わないさ。アタシだって、そんな大層な事言える立場じゃないしね。――でもさ。あんたを自由の身にしてくれたのは、他でもない『アイツ』自身だろ? だったら、その『アイツ』に恩を返す為にも、諦めず立ち向かう事も必要なんじゃない?」

「まぁ、ちょっとお節介が過ぎる気もするけどな、あの紅髪(あかがみ)――ぐはぁっ!」

 余計な横槍を入れたジグランの鳩尾(みぞおち)に、レイミーが鋭い肘鉄を喰らわせる。

 微かに震えながら悶絶しているジグランを尻目に、レイミーはシャルミナの方を軽く叩いた。

「それにね、シャルミナ。この世界ってヤツは、多分あんたが思ってる程酷いものじゃないみたいよ」

「え?」

 レイミーの言葉の真意がわからず、シャルミナは僅かに首を傾げる。

 と、その時だった。

「お姉ちゃ~ん!」

「……!」

 通りの向こうから聴こえてくる、幼い子供の声。

 その声はシャルミナ自身、もう二度と聴く事など出来ないだろうと思っていた声だった。

 そう。それは間違いなく、シャルミナが望んでいた声。

 明るい笑顔と共にこちらへと駆けてくる、少年リッツの声だった。

「そんな……。どうして……?」

 本当は嬉しいはずなのに。

 本来は喜ぶべき事のはずなのに。

 真っ先にシャルミナの口から出たのは、疑問の言葉だった。

 驚きのあまり硬直しているシャルミナの腰の辺りに、駆けてきたリッツが勢い良く抱き付く。

「さっきは助けてくれてありがとう! お姉ちゃん、とってもカッコ良かったよ!」

「え……?」

「ママが言ってたんだ。助けてもらったんだから、ちゃんとお礼しなきゃいけないって」

 一旦リッツから眼を離し、シャルミナが通りの方を見ると、確かにリッツの母親が立っているのが見えた。

 気不味いのか、リッツの母親は近付いて来ようとはしない。だがシャルミナたちと眼が合うと、母親は申し訳なさそうに深々と頭を下げた。

 なぜそんな申し訳なさそうな顔をするんだろう?

 なぜこの少年は、何の恐れも無く自分に抱き付く事が出来るんだろう?

 何もかも不思議としか思えないシャルミナは、ゆっくりとリッツに視線を合わせ、そして問い掛ける。

「リッツくん……、私が怖くないの? 恐ろしくないの? 私は悪い『魔女』なんだよ?」

 シャルミナが恐る恐るそう口にすると、リッツは「怖くなんかないよ!」と断言し、何の迷いも無い瞳で続けた。


「だってボクとママを助けてくれたお姉ちゃんが、悪い『魔女』さんな訳ないもん!」


 リッツはシャルミナをジッと見つめる。

 迷いの無い、揺らぎの無い瞳で。

 そんな少年の瞳を見つめ返し、シャルミナはただ黙り込む事しか出来なかった。言葉を失っていた。

「あ、そうだ。――これ、お姉ちゃんにあげる!」

 リッツは唐突に何かを思い出し、自分のズボンの小さなポケットをゴソゴソと探ってから、両手をシャルミナの方へ差し出してきた。

 その小さな両手に収まっていたのは、花の茎で作られた、小さな輪っか。

「もしかして、花飾り……?」

 小さな花の輪っかを受け取りながら尋ねると、リッツは笑って頷く。

「約束したでしょ? お姉ちゃんにも作ってあげるって」

「リッツ、くん……」

 少年の優しさに、何よりも無垢で純粋な優しさに、シャルミナは声を詰まらせる。

 泣いてしまいそうだった。いや、実際シャルミナの眼には、涙が溜まっていた。

 それでもシャルミナは、涙を零す事はしない。

 眼の前の小さな少年を、不安な気持ちにさせる訳にはいかなかったからだ。

「ありがとう。本当に本当に、ありがとう……」

 微かに震える声で、それでもシャルミナは笑顔で礼を言った。小さな少年の身体を、ゆっくりと優しく抱き締めながら、心から幸せそうに。



 少女はずっと、外の世界に憧れを抱いていた。自由になりたいと、ずっと夢見ていた。

 だが現実の世界は必ずしも、常に優しさに溢れている訳ではない。

 辛い事もあれば、悲しい事もある。それは紛れもない事実だ。

 ただ、それでも。

『魔女』と呼ばれた少女はもう、一人ではない。


シャルミナさんのお話、いかがだったでしょう?

少し無理矢理な終わらせ方かも知れませんが、作者的にはこういう終わらせ方もありかなと思っております。

ただ、少しジグランが空気になり過ぎてたような気がするんですが……w



さぁ、次はどんな外伝を書こうか……、って前にも書いたなこの台詞w

とりあえず、次の更新を待って頂けると幸いです(__)

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