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Crimson & Silver -別れと旅立ち-

今回の話で外伝『過去話』は終わりです。

それでは、外伝第十三話スタート!(笑)

 思い切り振り被られた右拳が、俺の左頬に叩き込まれた。殴られた衝撃で俺は後ろに倒れ込み、背中から壁に激突した。全身を軽い衝撃が走り抜ける。

 口の中に鉄の味を感じる。どうやら殴られた事で、口の中を切ってしまったらしい。俺は左頬の辺りを右手で軽く拭いながらゆっくりと顔を上げた。

「ふざけんじゃねぇぞ、クソ野郎が……ッ!」

 俺の事を殴り付けたのは、少々息を荒げながら、どうにか自分の足で立っているアルフレッドだった。彼は今も、憎しみの籠った瞳で俺を睨み付けている。

「止せアルフレッド。お前も怪我をしてるんだ。暴れたら傷に響く」

「うるせぇ! その傷を付けたのは誰だと思ってんだ!? 他でもねぇこの大バカ野郎だろうが!」

 どうにか制止しようとするジンの腕を振り払って、アルフレッドは力いっぱい俺の方を指差して叫ぶ。

『ケルフィオン』の『ギルド』内。あの後どうにか、俺一人で『ゴーレム』の軍勢を退けた結果、当初の目的である『ゴーレム討伐作戦』は、一応の終結を見た。

 だが当然、俺たち作戦参加者の被害は甚大なものだった。

 死者すら出なかったものの怪我人が相次ぎ、全滅しなかったのが奇跡のような幕引きだった。

 もしあのままアルフレッドたちが戦い続けていたら、そうなっていたとしても可笑しくはない。そんな状況を作り出したのは、他でもない俺自身だ。

「わかってんのか!? てめぇ一人が勝手な行動を取ったせいで、これだけ大きな被害が出ちまったんだ! 何が『魔術師』だ! 何が『英雄』の弟子だ! こんな結末になったのは、全部てめぇのせいだ!!」

「アルフレッド……! お前――」

「そうだな。全部あんたの言う通りだ」

 ジンが庇おうとしている気配を察知した俺は、彼の言葉を遮るようにしてそう言った。

 俺は何事もなかったように立ち上がって、平静を装う。ジンに迷惑を掛ける訳にはいかなかった。

「それにしても、ギルドメンバーってのがこんなに弱い奴らだなんて知らなかったぜ。あの程度の『ゴーレム』を倒す事すら出来ないなんて、拍子抜けもいいとこだ。あの場に俺がいなかったら、ホントに全滅してたかもな」

「なッ、んだとォ……ッ!?」

 俺と対峙しているアルフレッドだけじゃなく、周りで傷の手当てをしている他のメンバーの視線が、一気に俺に注がれる。そのどれもが、俺を悪者だと認識している軽蔑の眼差しだった。

「こんな弱い連中と一緒に戦わされたなんて、迷惑としか思えねぇ。こんな事になるんだったら、最初から俺一人でやってればよかったな」

 周りから非難の眼差しを浴びながら、俺は『ギルド』の奥にあるカウンターを目指した。その上には今回の作戦の報酬が山分けされて置いてあり、俺はそこから自分の取り分を掴み、強引に荷物の中に押し込んだ。

 するとその様子を見ていたアルフレッドが、怒りの表情で怒鳴りつけてくる。

「このクソ野郎がぁ! てめぇのツラなんざ見たくねぇ! とっとと失せろ! 二度と『ギルド』に近寄るな!!」

 息を荒げるアルフレッドの横を通り抜け、俺は入口の辺りで振り返り様にこう告げた。最後まで、嫌われる役を引き受ける為に。

「言われなくてもそうするよ。あんたらに関わって面倒な事になるのは、俺だって願い下げだ」




 ◆  ◆  ◆




 それからしばらくして、俺は『ケルフィオン』の駅で列車を待っていた。

 ホームに佇んで、俺は一人物思いに耽る。

 さっきの『ギルド』での出来事。あれだけの数の人間から軽蔑の眼差しを向けられたのは、多分生まれて初めてだと思う。

 だけどそれがどうしたってんだ。別に『ギルド』の人間と確執が出来たからって、俺には特に問題はない。今までずっと一人旅をしてきたんだ。このくらいの事、いちいち気にしてたらキリがないだろ?

 それに道筋はどうあれ、旅の資金を調達出来た事に変わりはない。ミレーナの行方を追う為にも、今は手掛かりを探して旅を続けるだけだ。

「さってとぉ、次はどこに行こうか」

 わざとらしく独り言を呟いて、次の目的地を決めようとしていた時だった。


「キミ一人が悪者になる事はなかったんじゃないか?」


「!」

 俺は思わず驚いて、その声のした方を振り向いた。

 するとそこに立っていたのは、銀髪碧眼の少年。どこか爽やかな雰囲気のある二刀流の剣士、ジン・ハートラーだった。彼は真剣な表情で、固まっている俺の方を見ている。

「……な、何しに来たんだよ、あんた」

「キミに言いたい事があってね。見送りのついでに後を付けてきた」

「見送りって……、あんた何言ってんだ? さっきの一部始終見てなかったのかよ? 俺なんかといるとこあいつらに見られたらあんたまで――」

「キミに礼を言っておきたかったんだ。遺跡でキミが自分の素性を明かしてまで戦ってくれていなかったら、俺たちはどうなっていたかわからない。本当に助かった。ありがとう」

「な……、あ……」

 意外な言葉を掛けられて、俺は言葉を失うしかない。

 どうやら眼の前の少年は、俺の考えに気付いているらしい。俺が口をパクパクさせている間に、畳み掛けるように続ける。

「確かにキミの行動には問題があったが、今回のような結末になったのは、何もキミ一人の責任という訳じゃない。持ち場を離れたのは俺も同じだし、それにキミは、罠に嵌って冷静さを失っていたアルフレッドを止めてくれた。しかも最後には悪役を買って出てくれた。俺の言葉を遮ったのも、本当は俺が巻き込まれないようにする為だったんだろ? 何から何まで、本当にすまなかった」

 そう言ってジンは深々と頭を下げた。礼儀正しさを形にしたら、多分今のこいつみたいになるんだろう。

 俺の方はと言えば、やり辛くてしょうがない。ジンは俺が言わんとしていた事を、全部看破してみせたんだ。何だか丸裸にされたみたいで、酷く居心地が悪い。

 俺は軽く溜め息をついて、ガリガリと頭を掻く。ここまで言われたら、俺も言い返さないと気が済まない。

「変な奴だな、お前」

「そうか? 変に格好付けたがりなキミに言われたくはないけどな」

 頭を上げながらそう言うジン。そのジンと眼が合った所で、俺たちはどちらからともなく笑い出した。変に気兼ねする事なく、自然な感じで。




 ◆  ◆  ◆




 そしてしばらくしてから、列車が『ケルフィオン』の駅に近付いてくるのが見えた。

 その頃にはもう落ち着いていた俺たちは、近付いてくる列車を見ながら、視線を交わさずに会話をする。

「キミはなぜ一人旅をしているんだ?」

「ミレーナ・イアルフスが俺の師匠だってのは話しただろ? その師匠が、五ヵ月程前に急にいなくなったんだ。で、俺はその行方を追う為に旅をしてるって訳」

「行方不明……? 手掛かりはあるのか?」

「あったら良かったんだけどな……。だからとりあえず今は、ミレーナが行きそうな所を(しらみ)(つぶ)しに回ってるんだ」

「随分のんびりとした探し方だな……。そんな方法で大丈夫なのか?」

「さぁな。ま、さすがにこの大陸から出てるって事はないだろうし、一人でもやれるだけやってみるさ」

 俺は彼女に聞きたい事がある。

 それは、俺を置いて行った理由。何も言わずにいなくなった理由。

 それを確かめる為には、俺自身の力で探し出さなきゃいけない。例えどれだけ時間が掛かったとしても。

 心の中で再確認していた俺は、不意に視線を感じて向き直る。

 隣に立っているジンは微かに笑った表情で、ジッと俺の事を見ていた。

「? 何だよ?」

「……いや。ただ何となく、予感みたいなものがあってな」

「予感……?」

 首を傾げる俺を見ながら、ジンはゆっくりと言葉を紡ぐ。

「キミとは……いや、お前とは、不思議とまたどこかで会いそうな気がする」

「! ハハ、奇遇だな。俺もそんな気がしてた」

 互いにそんな事を言い合って、俺たちは快活に笑い合う。

 すると、俺たちの会話の終わりを告げるかのように、列車が駅のホームに流れ込んできた。

 俺はそこで、ジンの方に向けて軽く右拳を突き出す。俺たちの別れの挨拶は、この方がしっくりくるような気がした。

「じゃあまたな、ジン」

「……! ああ。また会おう、ディーン」

 俺が突き出した右拳に、ジンは自分の右拳を軽く当てる。

 この時初めて実感した。

 例え一人で旅をしていても、俺はもう、一人じゃないんだって事を。







 それが俺とジンの、初めての出会いだった。

 この後も俺たちは、『テルノアリス』で再会するまでに二、三回会う事があった。

 今はそれぞれ違う道を進んでいる。それでもいつか、俺たちの道は交差する事だろう。

 銀髪の剣士、ジン・ハートラー。

 俺の数少ない、友達と呼べる存在。

 彼とはまた出会う機会が必ず来ると、俺は確信している。



今回の『過去話』、間にブランクがあり過ぎましたね……(汗)

『紺碧の泉』に着く前に語ってるって設定なのに、『紺碧の泉編』より後に書き終わるってどういう事だ(笑)


さて、次はシャルミナを主人公にした話を書こうかなと思っておりますので、本編の合間にでも読みに来てみてくださいm(__)m

それでは!ノシ

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