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Crimson & Silver -邪魔者-

またまた遅くなりました。

それでは外伝十二話目です!



 俺とジンが辿り着いた先では、確かに大規模な戦闘が行なわれていた。

 ただし、『ギルド』の精鋭たちが圧倒されているという状況で。

 単に彼らと『ゴーレム』たちの間に力の差があるからじゃない。俺のような『魔術師』じゃないとはいえ、『ギルド』に所属している人間は『ゴーレム』を倒せるだけの力は有しているはずだ。

 そう。これは単純に数の問題だった。

 相手側の数、遺跡の中心部から現れた『ゴーレム』の数が多すぎるんだ。俺とジンが戦っていた場所にもかなりの数がいたが、ここはその比じゃない。数えられるだけでも、五十体はいる。

「アルフレッド!」

 今だ大量の『ゴーレム』が蹂躙し続ける中、激しい戦闘によって出来た瓦礫の影にアルフレッドの姿を見つけ、ジンが足早に駆け寄る。

「一体何があったんだ? 他のチームのメンバーは?」

「多分ブービートラップってヤツだ。俺たちが遺跡の中心に入った瞬間、それが作動しちまったらしい。それにこの『ゴーレム』の群れのせいで仲間と分断されてな。俺以外の奴らは他の場所で戦ってる」

 と、そこまでジンに状況を説明していたアルフレッドは、俺の姿を見るなり顔をしかめて、酷くイラついた口調で言う。

「てめぇ、今頃何しに現れやがった!? 元はと言えば、てめぇが勝手に動いてチームの連携を崩したからこんな状況になったんだぞ!」

 よく言うぜ、俺とは協力する気なんて無かった奴がよ。まぁ、確かに俺に非があるのは認めるけど……。

 内心で俺がそう思っていると、傍らのジンが難しそうな顔で言う。

「とにかく、この数が相手じゃ分が悪過ぎる。信号弾を使って、他のみんなにも撤退を呼び掛けよう」

「ああ? 撤退だと!? 何言ってんだジン! ここまで来て引き下がれる訳ねぇだろうが!」

 俺の眼から見ても、アルフレッドの奴は冷静な判断力を失ってる。確実に、ジンの言ってる事の方が正しいはずだ。

「お前こそ何を言ってるんだ! これ以上戦いが長引けば、不利になるのはこっちだ! お前一人の勝手な意地で、犠牲者が出たらどうするつもりだ!?」

「うるせぇ! このチームのリーダーは俺だ!」

 制止しようとするジンを振り払い、アルフレッドは駆け出そうとする。

 その彼の肩を、ジンが掴んだ時だった。

「邪魔なんだよてめぇ!」

 アルフレッドの右拳が、完全に不意を突かれたジンの左頬に叩き込まれた。

 俺の眼の前で、銀色の髪の少年の身体が一瞬宙に浮き、受け身を取れずにそのまま地面へ倒れ込む。

 その光景を見た時、突然俺の中で何かが弾けた。

 なぜこんな腹立たしい気分になったんだろう?

 ジンとは今日会ったばかりで、会話するのも初めてで、作戦の中で出来たチームのメンバー内の一人でしかない。

 それなのに、アルフレッドに殴られたジンを見た時、俺が感じたものは怒りだった。

 アルフレッドへの静かな怒り。

 それが原動力となって、気付けば俺の身体は動いていた。

 右掌に集めた、炎の塊。

 それを再び駆け出そうとしているアルフレッドの背に向かって、思い切り投げつけた。

「ぐあああああっ!」

 アルフレッドの背中に炎が命中し、前のめりに倒れ込む。

 するとその様子を見ていたジンが、すぐ様アルフレッドの傍らに駆け寄った。

「大丈夫かアルフレッド!? ――何をしているんだディーン!」

 左頬を腫らした顔で、ジンは俺を問い詰める。

 そのジンに倣うみたいに、倒れているアルフレッドが憎しみの籠った瞳で俺を睨んで言う。

「てめぇ……! 一体どういうつもりだ!?」

 二人の視線を受けながら、俺はアルフレッドが向かおうとしていた方向へ歩き出しながら、出来るだけ冷たい感じがするように言葉を紡ぐ。

 この状況を収める為には、さっさと『ゴーレム』たちを倒す必要がある。俺が今からしようとする事にジンやアルフレッドを巻き込まないようにするには、こうするしかない。

「どうもこうも、あんたがさっき言ったじゃねぇか。こんな状況になったのは、チームの輪を乱した俺のせいだってよ。だから俺が責任を取ろうとしてんだよ。一人でな」

「ああ……!?」

「その為にはあんたがいると邪魔なんだ。だからそこで大人しく寝てろ」

「何ィ……ッ!」

 俺は一旦立ち止まり、アルフレッドの言葉を無視してジンに言う。

「ジン。こいつの事を頼む」

 俺がそれだけ告げると、案の定ジンから制止しようとするみたいな台詞が出てきた。

「キミはどうするつもりなんだ。まさかあの数の『ゴーレム』を一人で倒せるとでも思ってるのか?」

「そのまさかだよ」

「ダメだ! いくらキミが『魔術師』とはいえ無謀過ぎる! 大体キミはさっき一人で戦って苦戦していただろ?」

 確かにジンの言う通りだ。いくら俺が『魔術師』だからといって、何体もの『ゴーレム』を一度に相手にするのは無理がある。

 さっきまでの俺は、そんな当たり前の事すら判断出来ない程、冷静さを失っていたんだ。

 だからこんな事態を招いてしまった。

 チームの連携を乱し、メンバー全員を危険に晒すような事を。

 誰かのせいだと言うなら、間違いなく俺のせいだ。

 でも、だからこそ――。

「さっきは色々と油断してたからな。今度は大丈夫だって」

 俺は、ジンを拍子抜けさせるような呑気な声を敢えて出した。彼に俺の内心を、悟らせない為に。

「そんな根拠の無い理屈――」

「もう一回、改めて自己紹介しとくよ」

 俺はジンの言葉を遮りながら後ろを振り向いた。

 さっき言おうとして言えなかった事を、真実を告げる為に。

「俺の名前は、ディーン・イアルフス」

「! 何……?」

「イアルフスだと……!?」

 俺が自分の名前を告げただけで、ジンだけじゃなくアルフレッドまで驚きの声を上げる。やっぱりこの名前を知らない人間はこの大陸にはいないらしい。

 だからこそ俺は黙っていたんだ。

 自分の名前を。

 自分の素性を。

 俺は今、その全てを自分の意志で明かそうとしている。

「俺は、『英雄』ミレーナ・イアルフスの弟子で『深紅魔法』の使い手だ。だから大丈夫なんだよ。こんな『ゴーレム』の群れ如き、俺一人で破壊し尽くしてやる」

 俺はもう一度前を向き、両腕を水平に構えた。

 その瞬間、俺の周囲に激しい熱を持った炎の渦が発生し、俺の頭上に集束し始める。『深紅魔法』の中でも大技として高い攻撃力と破壊力を持つ技、『深紅の流星(クリムゾン・レイン)』発動の為の予備動作だ。

 集束し切って一つの塊となった炎を頭上に発生させたまま、俺は眼の前の『ゴーレム』たちを見つめて叫ぶ。

「『深紅の流星(クリムゾン・レイン)』!」

 戦いの開始を告げるかのような爆音が辺りに響き渡り、無数の紅い炎が流星のように流れていく。

 その後を追う形で、俺は地面を強く蹴って駆け出した。

 鋼鉄の魔物たちが待つ、戦場へと向かって。



今回の外伝の話は、フレイム・ウォーカー本編の方とリンクした作りにしてみました。

別に大袈裟な繋がりがある訳ではないですが、両方読んでくれてる方はそれなりに楽しめるかと思います(笑)

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