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フレイム・ウォーカー外伝 -Behind the Scenes-  作者: エスパー
テルノアリス編(裏)
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とある立ち位置からの状況報告・Ⅰ

 今回はフレイム・ウォーカーのテルノアリス編の裏側を、ジン・ハートラーからの視点で描いた話です。本編とは違い、三人称でございます。

 テルノアリスの現政権を握る王族を狙う、テロリストの存在。それは『倒王戦争』終決後、幾度となく大陸の各地で争いの火種を生んでいた。

 そしてその争いの火種となり得る事象の全てを、未然に防ぐ為に行動する者がいた。

 ジン・ハートラー。

 全ギルドメンバーの中でも、五本の指に入ると言われる程の実力者。

 彼は、紅い髪の少年の物語が始まる少し以前から、すでに物語の役者の一人として、運命という名の台本に組まれていた事になる。

 彼自身、それを意図していた訳ではない。

 この世界に運命と言うものがあるのなら、彼はただ、その流れに飲み込まれた一人だったのだ。

 銀髪の少年の物語が動き出すのは、テルノアリス襲撃事件が起きる、一月前の事である――。





 首都テルノアリスから東に十キロ程離れた場所に位置する街、『ツェペル』。

 その街の一角、昼間から大勢の人で賑わう酒場の前に、その少年の姿はあった。

 ジン・ハートラー。銀髪の髪に碧眼。白と黒の特徴的なラインの入ったローブを身に纏い、背中に鍔の形が違う二本の剣を背負った少年は、二十代後半の無精髭を生やした男と立ち話をしていた。

「――今の話は本当なのか?」

 ジンは神妙な面持ちで、念を押すように尋ねた。

 無精髭の男は、そんなジンの様子を面倒臭く思ったのか、少々顔を顰めて答えた。

「ああ、間違いねぇよ。俺が見たのはあの『英雄』、ミレーナ・イアルフスだった。話してた相手はマントを着てフードをかぶってたから性別はわからねぇが、これだけはハッキリ言える。ありゃあ確実にテロリストだな」

 やけに自信を持って言い切る男の様子に、ジンは訝しげな顔をして聞く。

「なぜそう言い切れるんだ?」

「そりゃあ簡単な話さ。あの人間の独特な雰囲気。それが間違いなくテロリストのモンだった。これでも俺ぁその筋の人間を見抜く眼力を持ってるからな」

「……」

 ジンは無精髭の男の言葉を鵜呑みには出来なかった。人を見掛けで判断するのは良くない事だとわかってはいるが、それでも眼の前の男の怪しげな雰囲気が、ジンの警戒心を刺激して信用する事を拒んでいる。

 今ジンは、とある噂の真偽を確かめる為に、首都近郊の街や村を一つずつ回っている。

 その噂とは、『首都近郊の街や村に、首都を狙うテロリストたちが集結している』、と言うものだ。

 そしてそれは、その噂の真偽を確かめていた時だった。ジンは自分自身でも、信じられないような事を耳にした。


 かの『英雄』、ミレーナ・イアルフスがテロリストと関わっているかも知れない、と。


 ミレーナ・イアルフスと言えば、その名を知らない者はいないとさえ言われる程の有名人だ。

『倒王戦争』――。

 今から十二年前に起きた、当時のテルノアリス王を倒す為に起きた戦争。その戦争の中で、王を倒す為に立ち上がった五人の『魔術師』と呼ばれる存在。ミレーナ・イアルフスは、その五人のメンバーの内の一人だった。

 そしてジンは、そのミレーナ・イアルフスと深い関係にある人物を知っている。

 ディーン・イアルフス。

 炎のような紅い髪が特徴的なその少年は、『倒王戦争』によって両親を失い、戦争孤児だった所をミレーナ・イアルフスに拾われ、彼女に育てられた。そして後に、ミレーナ・イアルフスはディーンにとって、『魔術』の師匠ともなる。

 ところが一年程前、ミレーナ・イアルフスは突然行方を眩ました。

 それまで十数年一緒に暮らしたディーンに、何も告げずに。

 そんな経緯から、ディーンは今でもミレーナ・イアルフスの行方を探して、一人旅をしている。

 だがジンは、そんなディーンの行動に水を注すような噂を耳にしてしまった。

(……あいつが知ったら何て言うだろうな)

 心の中でそう呟き、ジンは浅く溜め息をつく。

 ディーンとはまだ数えるぐらいしか行動を共にしていないが、不思議と意気投合出来てしまっていた。だからこそ始末が悪い。彼の身の上を知っているからこそ、同情心のようなものが芽生えてしまう。

 いや……、とジンは首を横に振る。今の自分は任務の最中だ。公私混同は正確な情報を探す上で障害にしかならない。今は余計な事を考えず、自分の役割を果たすのが先決だ。

「時間を取らせてしまったな。またこちらから聴取を行なう事もあると思うが、その時はよろしく頼む」

「――ああ。わかったよ」

 ジンは浅く礼をして、無精髭の男に背を向けた。

 そしてしばらく歩いた後、ジンは何気なく背後を振り返った。

 丁度その時、無精髭の男は酒場に入ろうとしている途中だった。その男の表情に、ジンは一瞬違和感を覚えた。

 酒場へ入っていく男の横顔に、笑みが浮かんでいたような気がしたからだ。

「……気のせい、か?」

 そう呟いてみたものの、結局ジンは、それを確かめる事は無かった。





 この一月後、ジンは『ディケット』と言う街で、偶然紅い髪の少年と再会を果たす。

 それが後に、『テルノアリス襲撃事件』と呼ばれる戦乱の幕開けだった事を知る者は、誰もいなかった――。


 わかりにくかったかもしれませんが、ここでの話は本編の始まる少し前の話でした。

 こんな感じで裏話が続きます。

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