第6話 悪魔が金をむしり取れと囁いた
宥子を異世界へ送り出してからというもの、私の生活は妙に充実していた。
執筆。
新装備の設計。
サイエスでも違和感なく着られる衣装制作。
そして——兵站強化。
「……ふふ。」
机の上に並ぶ試作品を眺めながら、私は満足げに頷く。
新装備は投擲型の爆裂道具。
軽量・簡易・扱いやすさ重視。威力は調整済み。
(あくまで“保険”よ、保険)
過剰戦力?
違う。合理性だ。
こうして私は、姉が帰るまでの時間を有効活用していた——はずなのだが。
一週間。
……帰ってこない。
「おい。」
二週間目突入。
音沙汰なし。
生死は心配していない。あいつはゴキブリ並みにしぶとい。
だが。
(何かやらかしてるな、これ)
食卓を見下ろし、私は深いため息をつく。
「同じ食事は飽きる……」
二人分作っては、一人で食べる。
翌日も同じメニュー。
結果、私の胃袋が犠牲になる。
腹立たしい。
気分転換も兼ねて、私は外出を決意した。
行き先は真珠専門店、御木本。
予算は百万円。
(サイエスに養殖技術はないはず)
粒の揃った真珠は、希少性が高い可能性大。
投資である。
◇
タクシーで神戸本店へ。
フォーマルドレス着用。戦闘服ではない。
接客は“装備”で変わる。
「いらっしゃいませ。」
完璧なお辞儀。
「予算百万円で、ネックレス・イヤリング・指輪のセットを。」
店員は優雅に頷いた。
案内されたソファは柔らかく、ハーブティまで出る。
(……悪くない)
十分後、三セットが運ばれてきた。
淡いベージュ。
純白。
そして黒真珠。
「どれも綺麗ね。」
黒は賭け。
無難は白。
「当店では白が人気です。」
即決。
「では白で。」
会計。
98万3千216円。
(痛い)
だが未来への布石だ。
姉よ、稼げ。
本気で稼げ。
◇
帰宅すると、十二日目にしてようやく姉がいた。
「お帰りー」
「ただいま。てかこの馬鹿姉!!」
アイアンクロー発動。
「痛い痛い痛い!!」
「何が一週間だ! 十二日だ!」
作り置きが無駄になった恨みを込めて締める。
「事情があるんだって!」
事情?
信用ゼロ。
とりあえず唐揚げを与える。
十五時に夕飯は作らん。
◇
そして事件は起きた。
ショルダーバッグから顔を出す、もちもち桜色物体。
「ギャーーーーーー可愛い!!!」
掌に乗せ、頬擦り。
極上の弾力。
「……さっきの悲鳴は何?」
血相を変えた宥子登場。
「スライム? 超可愛い!」
「ヒールベビースライム。餌付けしたら契約された。」
……さすが運600。
「甘いの好き?」
クッキー投入。
ぷるぷる震えながら食べる姿。
(正義)
可愛いは正義。
姉の唐揚げ?
後回し。
ビール?
発泡酒で我慢。
節約は戦略だ。
◇
「サクラを契約した時、感情流れ込んだ。でも蛇達からは何も感じない。」
ケージを見る姉。
二匹は無視。
「嫌われてるんじゃない?」
私も数日無視されている。
ざまあ。
◇
翌朝。
いつまでも寝ている姉の部屋へ突撃。
「何時まで寝てるんじゃボケーーーーー!!」
腰へダイブ。
「グギャッ!!」
起床成功。
「サクラ出しな。」
無言でお手してきたので頭を鷲掴む。
即提出。
うむ、素直。
◇
リビングで今後の戦略を練る。
サイエスで安定収入を得るには専門技能が必要。
(化粧品……ありだな)
理科実験好きだった過去を思い出す。
化粧水、石鹸。
スキル派生の可能性。
ポイント振りも視野。
だが。
その前に——
「ステータス確認。」
現状把握なくして戦略なし。
姉がどこまで成長しているのか。
運600は伊達か偶然か。
自称神の盤面を崩すため。
私達は今日も準備する。
前線は姉。
後方は私。
兵站が崩れぬ限り、私達は負けない。
さて——
まずは、宥子のステータスオープンだ。




