第5話 容子、姉に武器を装備させる
宥子め。
折角こっちが徹夜で用意した武器一式と商売セットを、綺麗さっぱり置き去りにしてサイエスへ行きやがった。
死にたいのか、あいつは。
帰宅した瞬間、私は無言で詰め寄った。
「お前は死にたいのかぁああああ!!?」
そのままギッチギチに締め上げる。
「ギブギブ! 死ぬ死ぬ! 中身があああああ!!」
「死ね!!」
腰をロック。逃がさない。
数分ほどジタバタしていたが、やがて宥子は私の腕の中でぐったりと沈黙した。
「……ふん。」
ペイっと廊下へ放り投げる。
「……痛い。」
ぐすぐすと情けない声。
私は一瞥してからリビングへ戻った。
ドカッとソファに腰を下ろすと、数秒後に宥子も転がるように隣へ寝そべる。
「で? たった一日でどんな武器を用意したんだよ。今のところ万能包丁とゴキスプレーで対応できてるから出番ないと思うけど。」
……はい?
私はゆっくり視線を向ける。
(やっぱり時差あるな)
向こうでの“一日”は、こっちでは一週間。
そして何より。
「万能包丁とゴキジェットでモンスター退治?」
「うん。結構いける。」
サイエスの生態系どうなってる。
ふむ、と顎に手を当てていると、
「これ、お土産。」
ペイっと渡されたのは、趣味の悪い異世界版コケシ。
「……随分と趣味が悪くなったね。」
「私の趣味じゃないから! 身代わり人形なんだって。瀕死状態から一度だけ守ってくれるらしい。体力は30%しか戻らないけど。」
さらっととんでもない説明をする。
なるほど、RPG定番アイテム。
(地球で発動するかは不明……)
試す気はない。絶対にない。
とりあえず万が一の保険だ。
「即死回避+回復アイテム併用前提だね。」
「だよねー。」
そして私は淡々と告げる。
「ちなみに。あんたが向こう行ってる間、こっちでは一週間経ってる。」
「……は?」
静止。
「蛇ちゃんの世話は!? ちゃんとしてるよね!?」
「第一声それかよ。」
紅白と赤白のケージを凝視して確認している。
問題なしと分かると、ようやく安堵。
(時間差より蛇優先か)
まあ、世話くらいはする。
「それより。瓶詰め調味料、売れた?」
手を差し出すとベシッと叩かれた。
「売ってない。憲兵に開拓民と間違えられたから。設定が“村が魔物に襲われて出稼ぎ”なんだよ? 調味料大量販売とか不自然すぎるでしょ。」
「ふーん。妥当。」
少しずつ流す作戦か。
「もう少し大きい街で卸した方がいいね。金は?」
「金貨まで手に入れたよ。」
テーブルに置かれた一枚。
私は手に取り、刻印と重量を確認する。
「偽造可能レベルだね。」
「物騒なこと言うな!」
「技術が遅れてるって意味。向こうで偽金貨掴まされる可能性あるよ。」
真っ青になる姉。
私は続ける。
「宝石や真珠も価値ありそう。養殖技術ないなら揃い玉は高値。向こうで買った物は必ずサンプル一つ置いてって。あと金貨二枚追加ね。含有量調べるから。」
「はい……」
従順。
◇
「で、今度はちゃんと装備持ってくよね?」
私は巨大な箱を差し出す。
「重っ!!」
下敷きになる宥子。
「テント、寝袋、着替え。あと売却用装飾品。封印されしお宝も新品から中古まで。」
「私のコレクション売るの!? 鬼!」
「無職は身を削れ。」
生活費は切実だ。
泣きながらアイテムボックスへ収納していく。
そして私は次の箱を開けた。
「次、武器説明。」
実物を見せつつ、操作は動画で解説。
弾なしで動作確認を何度も繰り返させる。
「普通に木板くらいは抜ける。低レベル魔物なら対応可。」
本当はそれ以上だが言わない。
「充電器、予備バッテリー、使い捨て弾。ソーラーパネルも。」
「凄い量……」
「命には代えられない。」
諭吉三十枚が飛んだ。痛い。でも必要経費。
私は本気だ。
◇
「容子、今後の活動なんだけど。」
「聞こう。」
「始まりの町、エリアボスのせいでポーション品切れ。移動できない。」
始まりの町。ネーミング安直。
「エリアボスって?」
「ゴールデンリトリバー一・五倍の狼。ワーウルフ。レベル1初戦がそれ。自称神縊りたい。」
鬼の形相。
「これで癒されろ。」
モフモフのネズミーぬいぐるみを押し付ける。
「ネズミー行きたい!!」
「金を稼げ。」
現実は非情。
金貨換算、約二万円相当。
スキルで錬金あれば金塊化が理想。
◇
「儲けは?」
「金貨30・銀貨8・銅貨8・青銅貨4。」
なかなか。
私は金貨二十五枚を鍵付き貯金箱へ。
「純度調べる。小銭問題はギルド預金機能確認。」
「頭良いな。」
「気付いてなかったの?」
ツッコミ。
「薬草採取するからバケツとスコップ。あと弁当、肉多め。」
「はいはい。」
アイテムボックスは時間停止。
出来立て持参可能。
宥子が準備に去る。
私はキッチンへ向かった。
フライパンに油を引く。
肉を焼く。
保存用も含め大量生産。
(姉が前線、私が兵站)
役割は明確。
神が仕組んだ舞台でも。
私達は勝手に攻略する。
ジュウ、と肉が焼ける音が響く。
戦いは続く。
だが今は――
腹が減っては戦はできぬ、だ。




