第24話 蛇ちゃんズ+αが最強過ぎて怖い
あの騒動から、早いもので数ヶ月が経った。
宿を飛び出して単独狩りに行こうとして宥子と大喧嘩になったあの日が、今では少し懐かしい。あの頃はまだこの街にも不慣れで、私も今ほど要領よく立ち回れてはいなかった。
今朝も私は宿の窓を開け、街の空気を胸いっぱいに吸い込む。見慣れた景色、聞き慣れた喧騒。数ヶ月も拠点にしていれば、さすがに“初めての街”とは言えない。
「宥子、ちょっと外周回ってくるね。夕方までには戻るよ」
何気なく告げると、
「単独で?」
と、低い声が返ってくる。
数ヶ月前ならここで即座に「ダメ!」と怒鳴られていたところだが、今は違う。宥子は私の実力も、蛇ちゃんズ+サクラの戦闘力も、そして“例の子”の存在もよく理解している。
「……危険エリアには近づかないこと。ボス反応があったら即撤退。定時連絡は忘れない」
まるで過去の自分を思い出したのか、念押しだけはきっちりしてくる。
「はいはい、分かってますよー」
私の足元には、すっかり大きくなった紅白と赤白がとぐろを巻き、サクラは以前よりも安定した魔力をまとっている。そして――
フードの中から、ちょこんと顔を出す小さな影。
あの日、グミで餌付けしてそのままついてきた子蜘蛛は、今や正式な契約モンスターとなっていた。名前は楽白。本人(本蜘蛛?)は気に入っているらしい。
あの時は饅頭サイズだったのに、今では私の両手サイズ。だが不思議と可愛げは増している。
◇ ◇ ◇
数ヶ月前、泉でエリアボスのアラクラトロを討伐した一件は、私達の戦力バランスを大きく変えた。
あの時は蛇ちゃんズが目玉を抉って内部から食い荒らすという、なかなかショッキングな戦法を披露したが、今では連携も洗練されている。
紅白が高速撹乱。
赤白が毒と締めで拘束。
サクラが回復と支援。
楽白が糸による制圧。
そして私は――爆薬担当。
役割分担が明確になったことで、無駄な暴走は減った。……たぶん。
「そういえば、最初は甘酒と焼き鳥で釣ってたんだよね」
私が呟くと、
<今もやろ?>
<報酬は大事や>
<チョコレートは正義ですぅ>
全くブレない。
あの頃は“レベル上げのための実戦”なんて言い訳をしていたが、今では本当に彼らの成長が目に見えて分かる。魔力量も耐久力も、数ヶ月前とは段違いだ。
もちろん、私自身も。
Cランクに昇格したあの日から、依頼も増え、実戦経験も積んだ。爆破の精度も上がり、無駄に建物を吹き飛ばすことは減った。……減ったのだ。
ギルドからの弁済請求は、幸い一度きりで済んでいる。
◇ ◇ ◇
街外周の森に到着する。
数ヶ月前はモンスターの気配にいちいち神経を尖らせていたが、今は魔力感知にも慣れた。
<弱いのばっかやな>
<成長しましたからねぇ>
以前なら警戒していた個体も、今では雑魚扱いである。
それでも私は慎重に動く。あのエリアボス事件以来、「過信しない」は合言葉だ。
ふと、視線を感じる。
木陰に小さな蜘蛛型モンスターがこちらを窺っていた。
「あー……」
デジャヴ。
私はポーチからグミを取り出す。
「楽白、後輩?」
フードから顔を出した楽白が、ぴくりと震えた。
<餌付けは程々にせぇよ?>
<増えたら世話大変やで>
蛇ちゃんズが呆れる。
数ヶ月前、無邪気にグミを与えた結果が今である。
私は少し考えてから、グミを一粒だけ地面に置いた。
「自己責任で」
小蜘蛛は嬉しそうに食べ、森の奥へ去っていった。
さすがに全員をテイムする気はない。……たぶん。
◇ ◇ ◇
夕暮れ。
宿へ戻ると、宥子が腕を組んで待っていた。
「無事?」
「無事無事。ボス反応なし。魔石もそこそこ」
数ヶ月前のような絶叫はもうない。代わりに、じっと私のフードを確認する。
「……増えてないでしょうね?」
「増えてないよ」
即答。
安心したのか、宥子は小さく息を吐いた。
あの日、子蜘蛛を見て絶叫していた彼女も、今では楽白を撫でられるようになった。人間、慣れとは恐ろしい。
数ヶ月前は過保護と無鉄砲のぶつかり合いだった私達だが、今は少しだけ噛み合っている。
それでもきっと、私はまた無茶をするし、宥子は怒鳴るだろう。
けれどそれも含めて、今の私達の“日常”なのだ。
フードの中で楽白がもぞもぞと動く。
「……ねぇ宥子」
「何」
「甘酒ある?」
「却下」
即答だった。
数ヶ月経っても、そこだけは変わらないらしい。




