第23話 Cランク昇級試験
露店で自作ポーションやら三〇〇円ショップのアクセサリーやらを売り払って戻ってきた宥子と合流し、私達は一度宿に戻って今後の方針を決めることにした。夕暮れの光が差し込む部屋で、ベッドに腰掛けながら二人で顔を見合わせる。
「私のランクがFだから宥子のランクとは釣り合わないんだよねぇ」
ため息交じりに言えば、
「そりゃーね。一緒のパーティを組めるかも不明だし、困ったな」
と宥子も腕を組む。彼女は既にCランク。私はF。規約上、ランク差が大きすぎると正式パーティ登録が難しいらしい。仮登録は出来ても、受注制限や報酬分配で不利になる。
二人で「どうするかー」と唸っていると、窓の隙間からにゅるりと赤い影が入り込んできた。
<昇級試験受けたらえーやん。>
いつの間にか脱走していた赤白である。相変わらず気配を消すのが上手い。
<紹介状もないのに受けれんよ。>
私が返すと、
<始まりの町のギルドのおっさんが容子の存在を忘れとったで押し通せば良えんや。街通しのやり取りやったら時間掛かるしバレへんって。>
さらっと犯罪スレスレな提案をする。
<バレないょー>
紅白とサクラまで同意した。
やっちゃえー、と弾けるこの空気。誰の影響だ? ……宥子か。宥子だな。
混沌とした空気の中、当の本人はふっと笑った。
「正攻法で行けば良いじゃない。こっちはダリエラさんを知ってるし、ギルドの失態もあるんだから、私がアンタを昇級試験に受けさせるわよ」
ニヤァっと意味深に笑う。その笑みは完全に“交渉”ではなく“脅迫”の類だ。
どうやら冒険者ギルドは、宥子に脅される運命にあるらしい。合掌。
後ろで蛇ちゃんズ+サクラが「鬼だ」とか「交渉じゃなくて恐喝」とか囁いているが、宥子は華麗にスルーした。
「じゃあ、サクっと冒険者ギルドに行こうよ!」
私は立ち上がる。
「明日でも良くない?」
面倒くさそうな宥子。
「化粧して服もバッチリなんだよ。それを明日もするの? てか出来るの?」
ズボラ癖出さない? と畳み掛けると沈黙した。
分かってるじゃないか、宥子よ。
「折角化粧してるんだからサッサと済ませちゃうよ!」
私は彼女の腕を掴み、半ば強制的に宿を出た。
◇ ◇ ◇
宥子を先頭に冒険者ギルドへ到着。中は相変わらず騒がしい。
「すみません、ダリエラさんはいますか? 昇級試験の事でお話しがあるんですが」
宥子はギルドカードを提示する。周囲の視線が一斉に集まった。どうやら彼女はここで相当な噂になっているらしい。
すぐに奥からダリエラさんが現れた。
「宥子さん、何か不手際でもあったかしら?」
柔らかな物腰だが、目は明らかに警戒している。
「ダリエラさん側には不手際は無いですよ。私の方の不手際です。私の妹も一緒に昇級試験受けてなかったので受けさせに来ました」
「あら? 昇級試験の紹介はヒロコさんだけでしたわ」
その言葉に宥子は涼しい顔で続ける。
「本当なら始まりの町まで戻っても良いかなって思ったんですけど、また此処で試験ですよね? 紹介状が無いだけで門前払いなんて無いですよね? あ、でもあの屑門番や人殺しOKな馬鹿職員に職務怠慢職員が湧いて出るから遠慮してます?」
猛毒。
美女の顔がビシッと引き攣った。
「……大丈夫です。妹さんの昇級試験を受けられるよう手配します」
十分ほどで準備が整う。
「えっと、お名前は?」
「容子です。宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる。
試験場へ案内されながら私は確認する。
「試験は一撃与えること。魔法使用可。どちらか気絶か死亡で終了、で合ってます?」
「気絶した時点で終了よ。殺人は許してないわ。でも全力で挑んで大丈夫よ」
太鼓判いただきました。
◇ ◇ ◇
試験官は若い青年だった。
「獲物は?」
「爆薬と銃です」
怪訝な表情。
「試験は俺に一撃与えること。気絶か死亡で終了だ」
あ、ギルマスと言ってる事が違う。糞試験官に当たったらしい。
「じゃ、始めましょうか!」
「簡単に昇格できる試験じゃねーぞ。子供の遊びじゃない」
……喧嘩売られました。
「構え!」
合図と同時に青年がブーストで加速。私は条件反射で火炎瓶を投擲。
轟音。
爆炎。
青年は必死に避けるが爆風で吹き飛ばされる。
無傷な私。
「Water!」
水魔法が飛ぶ。私は小型プラスチック爆弾を投下、視界を奪う。その隙にドラゴンフライを股間へ。
発砲。
「ギャーーーーーーアァァアアアア!」
青年は崩れ落ちた。
私は下級ポーションをぶっかけておく。EDになっても知らない。試験だし。
壁が少し吹き飛んでいるが、まぁ誤差だ。
◇ ◇ ◇
意気揚々と受付へ戻る。
「宥子勝ったよ!! 完全S勝利♪」
ハグしようとしたら避けられた。悲しい。
「何か爆発音が聞こえたんだけど……」
鬼のような顔。
「え? だって私の武器だもん。ちょっと壁が吹っ飛んだぐらいだよ」
「大丈夫じゃないわよ! 弁済請求されたらどうすんの!」
バチコーン。
痛い。
「試験官が気絶か死亡じゃないと終了にならないって確認したし、全力で良いって言われたもん!」
胸を張ると、宥子は深いため息を吐いた。
その後、私はギルドカードを提出。
結果――
Cランク昇格。
受付嬢が引きつった笑顔でカードを返してくる。
周囲の冒険者達は微妙に距離を取っていた。なぜだ。
こうして私は無事、宥子と肩を並べるCランク冒険者になったのである。
……なお、修繕費の話は後日請求されるかもしれない。
その時はその時だ。私は前向きに生きる。




