第22話 特許
私は特許を取得するために、生産ギルドへ赴いた。今日は宥子とは別行動だ。彼女には別件の情報収集を頼んでいる。どうせなら効率よく動きたい。私はスマホの地図アプリを起動し、目的地である生産ギルドを設定した。異世界に来てからもスマホが使えるのは本当に助かる。電波もないのに使えるのは謎だが、使えるものは使う主義だ。
表示されたルートに従って歩き続け、やがて視界に飛び込んできた建物に思わず足を止める。
「わぁ、でっかいなぁ……」
それはデパート並み、いやそれ以上の規模を誇る堂々たる石造りの建物だった。高い柱、広い玄関、出入りする商人や職人たちの熱気。まるで巨大ショッピングモールだ。私は胸を高鳴らせながら中へと足を踏み入れた。
中は活気に満ちていた。金属加工品、木工品、織物、魔道具らしき品々まで、所狭しと並んでいる。だが同時に、どこか懐かしい“遅れ”も感じた。便利ではあるが、洗練されてはいない。大量生産の概念も薄いのだろう。
きょろきょろと見回していると、背後から声が飛んできた。
「ここは子供の遊び場じゃないよ、お嬢ちゃん」
振り向けば四十代後半ほどの男性。がっしりした体格に無精髭。いかにも職人上がりといった風貌だ。
……出た。お嬢ちゃん呼ばわり。
確かに私は童顔だ。アジア系は若く見られやすいというが、琴陵家はその中でも群を抜いている。異世界補正が加われば未成年扱いも無理はない。
「これでも十八歳で成人してるんですけど。ギルドに登録しに来ました」
愛想笑いを浮かべると、男は目を見開いた。
「嘘だろ!?どう見ても未成年じゃねーか!?」
失礼極まりない。
「ステータス確認すれば十八と出ますよ。登録できないんですか?」
少し低い声で睨みつけると、男はバツの悪そうな表情になった。
「悪ぃ。生産ギルドに登録するには条件がある」
条件? 面倒な話になってきた。難しいなら特許だけ取って帰ろうか。
「条件って何ですか?」
「生産ギルドに登録する資格があるくらいの物を作れるかどうかだ。何か作った物はあるか?」
ふふん。待ってました。
「ありますよ。まずはこれとかどうですか?」
私はアイテムボックスから百円均一で購入したボールペンと手帳を取り出した。さらさらと紙に文字を書く。
男の目が釘付けになった。
「何だそれは!? 凄いぞ! インクを付けなくても文字が書けるなんて!!」
大興奮である。
「ボールペンですよ。特許も取りたいので作り方もお教えします」
渡した瞬間、分解しようとしたので慌てて止める。
「それで登録は出来るんですか? 無理なら特許だけでも申請したいんですけど」
「勿論合格だとも! 文句なしだ! こっちに来い!」
腕を掴まれカウンターへ。男は登録書類とギルドカード、それに針を差し出した。
「名前を書け。血を垂らせば登録完了だ。このボールペンのレシピは教えてくれるんだろうな?」
「提出しますよ。年会費の説明もお願いします」
指を刺し血を垂らしながら事務作業をこなす。年会費は銀貨五枚。委託販売も可能とのこと。
「いくつか特許登録したい物があります」
私は次々と机に並べた。ボールペン、手帳、がま口財布、老眼鏡、ミートミンサー、鉛筆、爪切り。
「老眼鏡は視力が落ちた高齢者向けです。度数違いがあります」
「おいエーデル、来い」
呼ばれた老人が老眼鏡をかけると目を見開いた。
「見える! 文字が見えますぞ! ギルドマスター!」
……この人ギルマスだったのか。
度数を試し三つ目が合ったらしい。
「いくらで売るのですか?」
「金貨十枚です」
百均商品とは言えない。
「安いですね! 予備があれば買いたい!」
即売成立。金貨十枚ゲット。これは売れる。
資料は図解と英語で作成済み。ここサイエスは英語圏で助かった。
「特許料は四割でお願いします。卸も可能です」
「四割で良いのか?」
驚かれた。
「広まらなきゃ意味ないですから」
うまく言っておく。
やがてミートミンサーの使い方が分からないと言われ、調理場へ移動。私は牛肉を挽き、玉葱を炒め、牛乳や調味料を混ぜ、ハンバーグを作った。ジュワッと溢れる肉汁。
「う、美味い! なんだこの柔らかさは!」
大成功である。
「ミートミンサーがあれば料理の幅が広がりますよ」
「どれも売れるぞ!」
男はようやく名乗った。
「俺はエレン、生産ギルドのギルドマスターだ」
「私はマサコです。冒険者なので長居はしませんけど」
邪神討伐の旅が控えている。
「特許はうちに申請してくれ!」
「……出来るだけそうします」
商品は各百ずつ置いていく。価格を提示するとまた驚かれた。
「安すぎないか?」
「庶民に届かないと意味ないです」
支払いは預け入れ、年会費もそこから差し引きにしてもらう。共有財産になるのは困る。自分だけの資金は重要だ。
「分かった。お前さん名義で預かっておく」
「よろしくお願いします」
手続きを終え、私は生産ギルドを後にした。外の空気は少しひんやりしている。大きな一歩だ。文明レベルを少し底上げしつつ、資金も確保。悪くない滑り出しだ。
この世界でやるべきことは山ほどある。だが今はまず宥子と合流だ。彼女はどんな情報を掴んでいるだろうか。
私は軽い足取りで待ち合わせ場所へと向かった。




