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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第二章【セブール】

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第20話 無名の作家

 ――商業ギルド、再び。


 さきほど宥子(ひろこ)に半ば強制的に作品を売り込まれ、契約まで締結してしまった私だが、どうしても腑に落ちないことがあった。


 あの優雅なご婦人――エリーゼ様の紹介。


 あれ、ちゃんと使えてなくない?


 というわけで私は単身、受付カウンターへと突撃していた。


 「エリーゼさんの紹介だって言ってるじゃん」


 「ですから、紹介状をご提示ください」


 「さっきも言ったけど紹介状なんて無いよ! 名前を出せば分かるって言ってたし! 商談したいんだってば! ここ商業ギルドだよね!?」


 「規則ですので」


 ループ。完全なるループ。


 私はカウンターに額を打ちつけそうになるのを堪えた。


 おかしい。エリーゼ様、めちゃくちゃ貴族オーラだったよ?

 「名前を出せば分かる」って言ってたよ?

 それが通じないとかどういうこと!?


 「職務怠慢じゃない……?」


 ぶーぶー言っていると、背後から聞き慣れた声が飛んできた。


 「アンナさん、あそこにいるの私の妹なんですけど。誰かに紹介されて来たみたいです」


 ぎくり。


 振り向くと、呆れ顔の宥子(ひろこ)が立っていた。その隣には、凛とした美貌の女性。


 受付嬢が一瞬で背筋を伸ばす。


 「ヒロコ様の妹さんですか。少しお話を伺って参ります」


 おお、話の分かる人GET!


 割って入ってきた美人――アンナさんは、落ち着いた声で私に向き直った。


 「詳しく事情をお聞かせ願えますか?」


 私はこれ幸いとばかりに説明を開始する。


 カフェで試作品を広げたこと。

 人だかりが出来たこと。

 エリーゼ様に助けてもらったこと。

 商業ギルドへ行くよう勧められたこと。


 アンナさんは静かに頷き、私を宥子(ひろこ)の元へ連れていった。


 「エリーゼ様からの紹介と仰っておりますが、紹介状はお持ちではないとのことで、受付が対応に困っておりました」


 サクッと報告される。


 宥子(ひろこ)が私を見る。


 「妹よ。そのエリーゼ様とやらの紹介で来たなら、紹介状くらい貰っておきなよ」


 ぐぬぬ。


 「名前を言えば分かるって言われたんだよ!」


 私は無実を主張する。


 「何が切っ掛けで紹介の話になったのさ」


 面倒事持ってくるなオーラが凄い。


 「街で美味しいって言われてるカフェ入って、試作品広げてたら人が集まってきて。その時に助けて貰ったの!」


 私は悪くない!


 だが華麗にスルー。


 ひどい。


 ◇◇◇


 「アンナさん、妹の作品も見て頂けませんか?」


 「ヒロコ様の頼みであれば」


 ……ねえ、この人、宥子(ひろこ)を崇拝してない?

 目が完全に信者なんだけど?


 私たちはVIP室らしき個室へ通された。


 豪奢な絨毯、重厚な机。防音魔法でもかかっていそうな静寂。


 私はアイテムボックスから作品を取り出していく。


 バレッタ、ペンダント、イヤリング、ブローチ。

 キラービーの羽、高位モンスターの甲殻、真珠、珊瑚。


 机の上が一気に煌めいた。


 その瞬間、宥子(ひろこ)の目が一瞬鋭くなる。


 ……あ、パチった素材バレた?


 でもお金になるなら怒られないよね!

 開き直り大事。


 アンナさんの瞳が輝く。


 「……これは、(たくみ)の域ですね」


 ほぉぉぉ!?


 (たくみ)!?


 「素材の選定、加工の繊細さ、均衡の取れた意匠。どれも見事です」


 褒められると弱い私。

 顔がにやけるのを必死で抑える。


 宥子(ひろこ)がニヤリと笑った。


 来た、営業モード。


 「どの作品にも刻印が押されています。一点ものです。高位モンスター素材を使用しているため、富裕層向けの商品になるかと」


 押し売り開始。


 アンナさんは冷静だ。


 「ですが無名の作家では高額販売は難しいでしょう」


 ぐさっ。


 正論。


 「まずは個数限定で一般向けに販売し、話題を作る。その後、指名依頼という形で受注制作に移行するのが良策かと」


 戦略会議始まった。


 宥子(ひろこ)は頷く。


 「ではまず、受付嬢の皆様に格安で販売し反応を見ましょう。今回限り、宣伝込みで原価割れ価格で」


 原価割れ!?


 ちょ、ちょっと!?


 アンナさんの目がきらりと光った。


 商人こわい。


 「少々こちらをお借りします」


 アンナさんは数点を持って退室。


 しばらくすると受付カウンターの方から――


 「可愛い!」

 「欲しい!」

 「え、金貨一枚!?」


 黄色い悲鳴。


 反応、めちゃくちゃ良い。


 宥子(ひろこ)が小声で聞く。


 「容子(まさこ)、最低いくらで売りたい?」


 私は少し考えた。


 ブランド戦略。話題作り。先行投資。


 「金貨一枚かな。損して元取れって言うし」


 「了解」


 即答。


 数分後、アンナさんが戻ってきた。


 「受付嬢全員、購入希望です」


 早っ。


 その場で均一価格・金貨一枚販売開始。


 飛ぶように売れていく私の作品。


 金貨が積まれていく。


 ……これ、もしかして。


 「アクセサリー作家『容子(まさこ)』の誕生ですね」


 アンナさんが微笑む。


 名前が広がる。


 受付嬢から冒険者へ。

 冒険者から貴婦人へ。


 じわじわと、噂が広がっていった。


 ◇◇◇


 数日後。


 「ヒロコ様、既に数件、指名依頼が来ています」


 アンナさんの報告。


 はやくない?


 宥子(ひろこ)が私を見る。


 「ほらね」


 くっ……悔しいけど。


 戦略は正しかった。


 私はゆっくりと息を吐いた。


 異世界で、ただの一般人だったはずの私が。


 今や、アクセサリー作家として名を知られ始めている。


 金策は順調。


 邪神討伐資金、着実に増加中。


 ……でも。


 「マージン三割は高くない?」


 「営業力込みです」


 にこりと笑う姉。


 やっぱり商人って怖い。


 だが、負けていられない。


 私は心に誓った。


 いつかこの商業ギルドで――

 堂々と、私自身の名で高額取引を成立させてやると。


 アクセサリー作家『容子(まさこ)』。


 その名は、こうしてサイエスの街に静かに、しかし確実に広がっていったのだった。


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