第2話 姉のサポートは妹がするもの
宥子がサイエスへ旅立ってから、数日が経った。
部屋の静けさがやけに広い。
「……本当に行きやがったな、あのバカ姉。」
私は工具を机に並べながら小さく呟く。
理工系を専攻していた過去が、まさかこんな形で役立つとは思わなかった。人生、何が伏線になるかわからない。
机の上には、分解された機材や工具類。
もちろん違法なことはしない。だが――威力の“底上げ”は必要だ。
サイエスがどれほど危険な世界なのか、私はまだ知らない。
だが、レベル1で放り出された姉が無事でいられるほど甘い世界ではないはずだ。
「高火力は正義……ってね。」
私は安全第一で機材の調整を進める。
ピンポーン。
インターフォンが鳴った。
心臓が一瞬跳ねる。
――警察?
いや、違う。落ち着け。
モニターに映ったのは感じの良さそうな青年配達員。
「はーい。」
荷物を受け取る。
部屋に戻り、箱を開封する。
「来たか。」
サバゲー用のHK416Cカスタム次世代電動ガン。
それと電極銃。
もちろん合法モデルだ。
「このままじゃ“玩具”だけど……。」
私はにやりと笑う。
あくまで“安全基準内”での性能向上だ。
サイエスで使う分には日本の法律は及ばない。多分。
「……たぶん。」
いや、グレーだな。考えるのはやめよう。
私は作業を再開した。
◇
ひと段落ついた頃には、肩が石のように固まっていた。
「はぁぁ……肩が凝った。」
コーヒーを淹れる。
湯気と香りが部屋に広がる。
スマホを見ると、久世師匠からメッセージ。
まだ姉の異世界召喚の話はしていない。
証拠もないのに相談したら、今度こそ精神科送りだ。
――私も最初は疑ったしね。
表示された依頼内容は“ストーカー男との縁切り”。
「……報酬少なっ。」
姉と二人で受ける依頼より明らかに低い。
だが今は私が稼ぐしかない。
武器調整も資金が要る。
会社もある。
時間も金も足りない。
「……軍資金だ。」
私は了承の返信を送った。
◇
ノートパソコンを開く。
ママゾンで“使えそうな物”を物色する。
「いつまでも武器が万能包丁ってのもなぁ……。」
あの姉、本気であれで戦うつもりだった。
粗方注文を済ませ、夕飯の買い出しに出ようと玄関へ向かう。
そこで気づいた。
「あれ?」
玄関横にあったバイクが消えている。
……は?
「持ってったな、あいつ。」
異世界に。
MMORPG世界に。
バイクを。
「オーバーテクノロジーじゃないのかよ……。」
でも、レベル1で放り出された身だ。
多少のチートがあっても罰は当たらない。
ふと、ある考えが閃いた。
「こっちの物、持ち込めるなら――」
私は思い出す。
開かれぬまま積まれた170センチ級段ボール群。
姉のお宝箱。
中身は未使用ポーチやバッグの付録。
箱、約20個。
「……売れるな。」
リサイクルショップでは値が付かない。
フリマは時間がかかる。
だが異世界なら?
「裁縫しっかりしてるし、ちょっとした高級品扱いじゃない?」
さらに。
「向こうの商品をこっちで売るのもアリでは?」
異世界輸出入ビジネス。
合法かは知らない。
でもロマンはある。
私は中学時代からコスプレ沼に落ちていた。
施設近所の裁縫師のお婆ちゃんに弟子入り済み。
腕前には自信がある。
「衣装制作でブランド化……いけるか?」
金策プランが広がる。
「よし、買い出し中止!」
私は段ボール開封作業に突入した。
◇
山積みの箱を一つずつ開ける。
未使用。
使用済み美品。
ボロ。
仕分け。
「これは売却。これは賄賂用。これは保留。」
異世界での交渉材料も必要だ。
甘い物より物資。
作業に没頭していると、外はすっかり夜だった。
「やばっ。」
慌てて買い出しに行き、カレーを作る。
鍋がぐつぐつと煮える。
しかし――
待てど暮らせど宥子は帰らない。
「今日の夜って言ったよな?」
時計を見る。
深夜。
「……時間軸ズレ、厄介すぎる。」
結局、姉が帰宅したのは三日後だった。
その日、ママゾンから届いた大量の荷物も同時に到着。
結果――
一部屋、武器と物資で占領。
異世界遠征準備室、完成。
ドアを開けて帰ってきた宥子は煤だらけだった。
「ただいまー。」
「おかえり。……生きてる?」
「ギリギリ?」
笑うな。
だがその目は、確実に“冒険者”の目だった。
私は静かに息を吐く。
異世界サイエス。
MMO仕様。
時間軸不定。
持ち込み可能。
――なら。
「次は私も行くか。」
双子は片割れだけでは不完全だ。
縁結びと縁切り。
神に喧嘩を売るには、二人必要だろう?
第二幕、準備完了。
社会人双子の異世界攻略は、ここからが本番である。




