第18話 姉は私をティムしている事を忘れていました
「ちょっと業務用スーパーと100円ショップに行ってくるわ」
腰に手を当てて言い放ったのは、我が姉――宥子である。
そのあまりに唐突な宣言に、私は作業台の上から顔を上げた。
「何しに?」
当然の疑問だ。ついさっきまでサイエスだのギルドだのと異世界モード全開だったのに、いきなり庶民的ワードをぶち込まれても困る。
宥子はこともなげに答える。
「商業ギルドで砂糖・塩・胡椒の取引があるから」
なるほど、現代日本の物資をサイエスに横流し……もとい、輸出する気か。
「OK! いってら」
私はぐっと親指を立てて送り出してやった。
お金になるなら頑張ってくれ。
私は手伝わんが!
玄関の扉が閉まる音を聞きながら、私はニヤリと笑う。
さて、姉が真面目に商売している間、私は私でやるべきことがある。
現在、私――容子が作っているのは、C-4ことプラスチック爆弾である。
え? 物騒?
知るか。
今後はレベルの高いモンスターともやり合う可能性が高いのだ。火炎瓶なんてロマン兵器では心許ない。キングホーネット級を一撃で吹き飛ばす火力が欲しい。
材料を慎重に配合し、粘土状に整え、信管を仕込む。
「うん、いい感じ」
舐めると死ぬレベルの代物だ。毒性も爆発力も折り紙付き。絶対に取り扱い注意。
一個目が完成。
二個目に取りかかったところで、玄関の開く音がした。
「ただいま……。疲れたよ」
ヒィヒィ言いながら帰ってきた宥子は、買い物袋を両手にぶら下げている。
私は鼻で笑った。
「たかだか五分の距離じゃん。何言ってんの」
すると即座に逆ギレ。
「容子もやってみたら!? 私の気持ちが分かるよ!」
キャンキャン吠えるが、
「嫌だ。面倒臭い」
一刀両断。
ガクッと肩を落とした宥子は、袋から砂糖や塩を取り出しながら言った。
「これから小分けにして詰めていくから、邪魔しないでね」
「はいはい」
作業モードに入る姉。
その背中越しに声が飛んでくる。
「サクラのご飯まだだったから、あげてくれる? あげすぎ厳禁だからね!」
サクラちゃんのお世話を任された。
よし来た。
ぷるぷるモチモチの愛しき存在、サクラちゃん。
私は全力で構う。
お饅頭。
金平糖。
ちょっと多めに。
「美味しい? 美味しいよね?」
ぷるぷる震えながらもぐもぐする姿が尊い。
宥子の「与えすぎ厳禁」は、宇宙の彼方へ消え去った。
サクラちゃんが満腹でころんと丸くなったのを見届け、私は次の作業へ。
リュック作成だ。
前回、タガーケースと一緒に裁断までは終わっている。あとは縫うだけ。
ミシンを走らせ、補強縫いを施し、裏地を整え――
「いやっふぅーーーーーーー! 出来たぜぃ!!!」
完成。
シンプル和柄リュック。
どうせ宥子に横取りされる未来が見える。だから私はビジューを鏤めた豪華版を別に作るのだ。うひひ。
しかし。
……あれ?
さっきまでそこにいたはずの宥子がいない。
サクラちゃんもいない。
リビングへ戻ると、テーブルにメモ。
【サイエスへ行ってくるね。】
はぁ~~ん???
「何勝手にサクラちゃんとサイエス行ってんだゴラァ!!」
即電話。
数秒のコール音の後、繋がる。
「何で置いていくのよ、馬鹿! 声掛けてよ!」
すると冷静な声。
「声掛けたのに無視スルーしたのは、お前じゃん。明日商談あるからサイエスで泊まるわ」
は?
帰ってこない?
「私もそっち行くから帰ってこい!」
連れてけコール発動。
だが宥子はきっぱり。
「無理<キリ>!」
「ドケチッ!」
ケチケチどケチ野郎!!
ならば。
「私も行くもん」
「いや、無理くね?」
「さっき行けたんだから行けるはず!」
ブチッ。
電話を切り、私は玄関へ。
サイエスに繋がれ――と念じながらドアを開ける。
ガチャ。
そこに立っていたのは。
「……これちゃった」
目の前に宥子。
「……来ちゃったね」
本当に来やがった、という顔。
どうやら条件が判明した。
宥子がサイエスにいる状態なら、《契約》されている私――容子も玄関を通って来られるらしい。
なるほど、テイム主従リンク的な何かか。
「じゃあ私も来るね」
当然のように言うと、
「トラブル起こさないでよ?」
釘を刺される。
「はいはい」
不貞腐れつつ、私は街へ散策に出た。
石畳。露店。武装した冒険者。
胸が高鳴る。
私は子供じゃない。
放っておいてよね、宥子。
――とはいえ。
内心ちょっとワクワクしているのは、内緒である。




