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琴陵姉妹の異世界日記  作者: A愛
第一章【終わりの始まり】

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13/23

第13話 やっと家ですよ!!

 自宅リビングのソファにだらしなく寝転がりながら、私は天井を見上げた。


 ――異世界と現実世界を行ったり来たり。


 改めて考えると、とんでもない状況である。


 玄関だけが宙に浮いていたあの光景を思い出して、私は再びニヤけた。あれ絶対、第三者が見たら都市伝説一直線だよね? 「○○市の住宅街に現れる異界の扉!」とかSNSで拡散不可避案件である。


 「笑ってるところ悪いけど、魔物素材の仕分け終わったら風呂入るから。先入る?」


 テーブルいっぱいに広げられたドロップ品を、慣れた手付きで分類していく宥子(ひろこ)は完全に主婦の顔だった。いや、主婦というより熟練の商人か。


 「どうぞどうぞ。私はサクラちゃんと蛇ちゃんズのメンテする」


 ショルダーバッグから取り出されたサクラちゃんは、我が家のラグの上でぷるぷると震え、どこか安心したように光っている。


 <ここぉ、主様の匂いぃ、いっぱいだねぇ>


 「でしょ~? ここが私の城なのだよ」


 虫かごの中でとぐろを巻く赤白(せきはく)紅白(こうはく)は、キョロキョロと室内を見回していた。


 <なんや、思ったより普通やな>


 <もっと金ピカの城か思たわ>


 「期待値どうなってんの?」


 庶民派木造二階建てに夢を見るな。


 私は虫かごの蓋を開け、二匹をそっと畳の上に出してやる。すると、するりと移動してテレビ台の裏へ。


 「ちょ、待て待て待て! そこホコリあるから!」


 <ワイら蛇やぞ。ホコリくらい平気や>


 <てか掃除せぇや>


 「ぐはっ」


 まさかの生活指導。


 その時、脱衣所から宥子(ひろこ)の声が飛んできた。


 「容子(まさこ)ー! スマホの充電確認しといて! 向こうで電池切れたら洒落にならないから!」


 「はーい」


 返事をしつつ、私は自分のスマホを確認する。通知は山のように溜まっていた。未読メール、LINE、広告、クレカの利用通知……。


 ――ああ、現実だ。


 だがその現実の端末が、異世界でも使えるという事実は革命的である。


 「ふふふ……」


 私はこっそりと机の引き出しから、小さなポーチを取り出した。


 中には、今日くすね……いや、確保しておいた魔石が数個。


 淡く光るそれは、宝石にも似ているが、どこか内側に魔力の渦を抱えている。


 「これを細工師スキルで加工して……指輪とかネックレスにしたら、絶対バカ売れじゃない?」


 <金儲けの匂いがするぅ>


 サクラちゃんがぷるんと揺れる。


 「異世界×現実世界のハイブリッドビジネス……くくく」


 <悪い顔しとるで>


 背後から紅白(こうはく)が冷静にツッコむ。


 「うるさいな! 軍資金は大事なんだよ!」


 特に、久世師匠(くせ せんせい)への報告で三百万をゲットする未来を想像すると、頬が緩むのを止められない。


 異世界渡航成功の証明。


 魔石の現物提示。


 理論の裏付け。


 プレゼン資料作らなきゃ。


 「……忙しくない?」


 ぽつりと呟く。


 異世界ではレベル上げ、スキル取得、モンスター討伐。


 現実では金策、報告、日常生活。


 二重生活どころじゃない。三重四重だ。


 風呂上がりの宥子(ひろこ)が、タオルで髪を拭きながらリビングに戻ってきた。


 「何ニヤニヤしてるの」


 「将来設計」


 「ろくでもなさそう」


 即答やめろ。


 彼女はソファに腰を下ろし、真面目な顔になる。


 「セブール、多分揉める」


 その一言で、空気が少しだけ変わった。


 セブール。


 異世界側の街。


 原付で行くと言っていたが、2~3週間空ける可能性があるということは、それなりの案件だろう。


 「危なくなったら、即帰還してよ」


 「分かってる。最悪、家出して帰る」


 “家出”のスケールがおかしい。


 私は立ち上がり、冷蔵庫からスポーツドリンクを二本取り出し、一本を宥子(ひろこ)に投げた。


 「死なないでね」


 「当たり前でしょ。蜂五百匹生き延びたんだよ?」


 確かに。


 女王蜂含め五百三十四匹。


 あれを越えた私達だ。


 簡単に詰むとは思えない。


 「私はこっちで蛇ちゃんズとレベル上げしとく。あとアクセサリー試作」


 「売る気満々じゃん」


 「当然」


 にやり、と笑い合う。


 サクラちゃんが、二人の間にぴょん、と跳ねた。


 <主様達ぁ、なんかぁ楽しそうぅ>


 「楽しいよ」


 異世界と現実。


 命懸けと日常。


 その境界を自由に行き来できるなんて、きっととんでもない幸運だ。


 ……運ステータスはスライムに負けてるけど。


 その夜、私はベッドに寝転がりながら天井を見つめた。


 明日は別行動。


 少しだけ、不安。


 だけど。


 スマホも、念話も、アイテムボックスもある。


 繋がる手段は、いくらでもある。


 「よし」


 私は小さく拳を握る。


 異世界生活、第二章。


 今度は――私が主役になる番だ。


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