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4話 誘拐

タワーマンションの最上階のワンルームで、少女は足を震わせながら待っていた。

金髪を三つ編みにまとめ、カジュアルだが高級感のある服を着た少女。

名前は白崎 美怜。

彼女の父は白崎商社の社長。

世界中の珍しい物を扱い、富豪コレクター相手に莫大な利益を得る巨大企業だ。

噂では裏の取引もあるらしい——しかしそれは美怜とは別の話。

美怜は今日、買い物に出る予定だった。

高級街でアクセサリー、服、靴、どれも一般人からすれば目玉が飛び出る品だが、それを“まとめ買い”するのが美怜の楽しみだった。

だが最近、富豪界隈では誘拐事件が増えている。

父に止められた美怜はゴネにゴネた末、条件を飲まされた。

「護衛をつけること」。

父はコネを使い、凄腕の護衛を手配したらしい。

美怜はイライラしながら、まだかまだかと待つ。

——ピンポン。

五十階のエレベーターが開き、姿を現したのは白髪の老執事。

優しい笑みを浮かべ、

杖はついているが、鍛えられた体つきの男。

彼こそ美怜の執事、黒川 明人である。

そして美怜は、その隣に立つ少年を見て目を細めた。

自分と同じか、少し年下くらい。

黒髪で、全身黒の服装。

どこにでもいそうな——一般人。

(これが、私の護衛……?)

手違いだと思いながらも、上流階級の習いとして“舐められてはいけない”ことは知っていた。

まずは身分の差を示す。

「私の名前は白崎 美怜よ。美怜様と呼びなさい」

ところが少年は返事をしない。

それどころか、表情一つ変えずに薄い冊子を読み始めた。

(……舐めてる?)

美怜は眉をひそめる。

「……あんた、名乗りなさいよ」

怒気が混じる声。

だが少年の反応は変わらない。冊子、冊子、冊子。

「……あんた何なの。主人に対してその態度は。馬鹿なの? 喋れないの? もういいわ」

呆れた。

挨拶もできない護衛に、守られる理由もない。

黒川が申し訳なさそうに口を開く。

「美怜様。彼は音鳴様です」

「ふーん。変な名前ね。だから名乗りたくなかったのね。まぁいいわ」

興味を失い、美怜は本題に入る。

「今から買い物に行くから、護衛しなさい」

「え?」

少年は驚いたような顔をした。

正直、護衛など誰でもよかった。

とにかく買い物に行きたいだけなのだ。

エレベーターに乗ろうとした時、やっと少年が口を開いた。

「買い物に行くのは……若いものですかな」

(……何を言ってるの、この子)

「……変なやつね。本当に強いのよね? まあいいわ、ほら早く行くわよ」

「あ、はい」

カードキーがかざされ、扉が閉まる。

階を選ぶ時も、確定する時もカードキーが必要だった。

国内でも屈指のセキュリティである。

エレベーター内は静かだった。

美怜は話す気すらなかった。

一階に着いた時、ふと気になった。

「あんた、さっきのあれ……何?」

「……ギャグ」

「ふーん。つまんないわね」

本当に、つまらない子だと思った。

美怜は少年を置いて、タワーマンションの入り口にあるガラス扉から外へ出た。

その瞬間——

「ん……なに、なによ——」

背後から男が口を塞ぎ、美怜を車へ引きずり込む。

珍しく人通りはなく、誰にも見られず、数秒で車に押し込まれた。

扉が閉まった瞬間、手が外れ、声が出せるようになる。

「私を誰だと思ってるの」

車内には美怜のほかに三人の男。

運転手、助手席、そして後部座席で美怜を押さえていた茶髪の男。

細い目で、白黒の薄いジャケットを羽織っていた。

「もちろんさ。でも僕にも目的があってね」

「はぁ? そんなの知らないわよ。私には護衛だって——」

窓越しにキョロキョロする少年が見えた。

(そう、そこのバカよ。こっち! こっちよ!)

しかし少年は何かを呟き、ひらめいたようなポーズをとった後、明後日の方向へ走り出した。

(……バカなの?)

美怜は茶髪を睨んだ。

「私に触れたら殺すからね」

強気に出たつもりだった。

だが茶髪が持っていた“それ”を見た瞬間、声が詰まる。

刀。

ただの刀ではない。

空気がざらつくような、嫌な気配。

刀身が赤く光っていた。

「ごめんね。でも僕も目的を果たさなきゃいけないから」

刃が美怜の首に軽く触れる。

途端に身体が震え始め、力が抜けていく。

(何よこれ)

数秒後、視界が白く跳ね、美怜は気を失った。

「すぐに解放してあげるよ。目的を果たしたら」

茶髪がそう呟き、車は走り去った。

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