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3話 苦手な仲間

俺は今日も走っていた。

理由は分かっている。

台本をボスに修整してもらうためだ。

バンッ。

勢いよく事務所の扉を開ける。

「ボス、台本が間違え……って、げ」

いつもの位置にボスはいた。

車椅子に乗りながら腕を組み、笑っていた。

“げ”と言った理由はボスではない。

ボスの隣にいた女だ。

長い黒髪、猫のような目。

“無言だとなぜかモテる女”。

名前は――薬喰やくばみ

暗殺者兼、ボスの助手だ。

俺は薬喰が苦手だった。

理由は単純だ。

バカだからだ。

薬喰は腕を組み、すぐに大声でボスへ報告した。

「ボス、また音鳴が失敗したのだ!

音鳴は私と違って役立たずなのだ!」

無視した。

「ボス、台本がおかしい。いや、お嬢様も頭おかしい。全然台本守らない。黒川も」

「言い訳なのだ!

ボス、音鳴は言い訳しているのだ!

ボスは失敗しない!私も失敗しない!

失敗するのは音鳴だけなのだ!」

割り込んできた。

話を最後まで聞けないのか。

苦手だ。

俺も負けずに声を上げる。

「ボス、台本修整!」

「言い訳なのだ!」

「ボス!」

「言い訳なのだ!」

次第に声はエスカレートする。

ボスは耳を塞ぎながら、聞いていない。

俺はボスの右側へ回り、耳元で叫ぶ。

薬喰も負けじと左側に位置取り、同じく叫ぶ。

これは負けられない戦いだった。

「台本修整!」

「役立たずなのだ!」

「台本修整!」

「役――」

「お前ら」

ボスが口を開いた瞬間、薬喰はピタッと止まり、

俺も思わず黙った。

静寂。

ボスは笑顔のまま、人差し指を立てる。

「世界の王になり【うる才】のある俺の前で、【うるさい】」

……時間が止まった。

そして一拍置いて、ボスが言う。

「面白いだろう」

沈黙。

面白いのか……?

薬喰が先に反応した。

「面白いのだ!面白いのだ!さすがボスなのだ!」

なぜだ。薬喰には分かったのか。

焦る。

俺も取り繕う。

「……面白い。すげぇ。……うん、すげぇ」

「面白いのだ!面白いのだ!」

空間が“面白い”で埋まった。

ボスは満足そうに頷いた。

しばらく時間が流れ、ボスは表情を変えた。

「で、何の用だ」

「……なんだっけ」

忘れた。

大事なことだった気がするのに。

ボスは笑い、薄い冊子を持ち上げた。

「冗談だ。お前が欲しいのはこれだろ」

「あ、それだ。台本修整……台本通り行ってないんだよ」

「あぁ、全部把握している。書き換えておいた」

「さすがボス」

「さすがなのだ。音鳴と違ってすごいのだ!」

「はやく行け。お嬢様がやばい」

「お嬢様……?あ、忘れてた」

台本のことで頭がいっぱいで、

お嬢様が消えたことを忘れていた。

名前なんだっけ……黒川?

違うな。まぁいいか。

「じゃあボス、任務終わったらまた来るよ」

「あぁ」

数分前にも言った気がする。

まぁいいか。

事務所を出ながら新台本を確認する。

“お嬢様は港の倉庫にて拘束”

「港まで……30キロ……歩くのか……?」

「着いたら死んでるだろ……」

台本には続きがあった。

“お前を【送る】【お車】がくる

『面白いだろ』”

読み終わった瞬間、横断歩道で黒い車が止まり俺の進路を塞いだ。本当に車が来たらしい

窓が開いた。

「音鳴、役立たずだから送ってやるのだ。

私は役に立つのだ」

薬喰だった。

ボスの面白いだろは何が面白いのか説明が欲しい。

だがボスが言うなら面白いのだろう。

今度暗殺で使ってみよう。

こうして俺は薬喰の車に乗り、

お嬢様のいる埠頭へ向かうことになった。

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