8 消えたダリオン
それからの数日、私は静かに過ごしていた。
……だって、人質になんかされたら、さすがに困るもの。
父のギルドで何か問題が起きてるらしいけど、すぐ片付くと思っていた。
でも――そう簡単じゃなかったみたい。
その日の午後、部屋に入ってきたアランの顔は、いつも以上に不機嫌そうだった。
「お嬢様に会いたいと、ダリオンの妻という者が本部に来ています」
「ポーラね。……なに? 追い返して」
「実は、ダリオンが行方不明です。それで、こちらに捜索依頼を出したいと」
「また行方不明? 放っておけばいいじゃない。あんな人」
「もう殺されているかもしれません。なので、依頼は断ろうかと」
思わず目を閉じた。
憎い人。でも、まだ生きているかもしれない。
「探して。死体でもいいから、私の前に連れてきて。『ざまぁ』って言ってやりたいの」
アランは小さく息をつく。
「承知しました。……お嬢様は本当に、お人好しすぎる」
「犯人の目星はついてるんでしょう?」
「もちろん。彼が消えて喜ぶ人物です」
「それって……私じゃん」
自分で言って、自分で笑ってしまった。
そうか。だからポーラは私に会いたいのか。
ギルドを使って、私がダリオンを拉致したって疑ってるんだ。
「ん? ちょっと待って……」
もしかして、本気で私に罪をかぶせようとしてる人がいる?
急に胸の奥がざわついた。
店先でダリオンとやり合ったの、大勢に見られてた。
――『表立って争うのはおやめください』
アランの忠告がよみがえる。
そりゃ彼、不機嫌にもなるわね。私は言いつけを破ったんだから。
「ポーラに会うわ」
そう言ってアランと並んでギルドの受付に向かったら、カウンター前で言い争ってる声が耳に飛び込んできた。
ポーラとルッツだ。
「妄想女が拉致したんだわ! ここ犯罪ギルドでしょ! ダリオンを返しなさい!」
「は? 侯爵令息だぞ。拉致とかありえねーから。どっかで女見つけて駆け落ちしたんじゃね?」
「するわけない! だって彼は私の《番》なんだから!」
「嘘ついてんじゃねーよ!」
一瞬で口をつぐむポーラ。ルッツはすかさず追撃。
「ダリオンは何年もビルド商店の護衛やってた。あんたとも知り合いだったよな? なのに急に“番です”とか“跡取りです”とか。嘘臭いんだよ」
「ち、違うわ! 私がダリオンの求愛を拒んでただけ! 人間だから、《番》なんて分からないわよ!」
「……いや人間でも分かるって。特別な気持ちになるはずだし」
「だから結婚したじゃない! いろいろ事情あるの! あんたに何が分かるのよ!」
「お嬢様、どうしますか?」
アランが尋ねる。
「大丈夫、私が行くわ」
ルッツの横に立った瞬間、彼が言う。
「おいおい。こいつは俺が追い返す。おまえは引っ込んでろ」
「なに勝手なこと言ってんの。ここは任せなさい」
ポーラが鼻で笑った。
「ふん。あんたがここのお嬢様だったなんて。でも私だって、商会ギルド会長の娘よ? 態度、改めたら?」
「失礼いたしました。旦那様の捜索依頼は受けます。こちらに記入を」
「待てよ。そんなの警備隊に頼めばいいじゃねーか。うちは情報専門で――」
「ルッツ!」
肘で小突いたら、黙った。
「暗殺専門なんじゃないの? 闇ギルドで有名よね」
「……」
思わず睨み返してた。
「そっちこそ、侯爵家の威光を使って悪どい商売してるくせに」
「ふん。いいからダリオン返して」
「返すもなにも、知らないし」
ポーラは用紙を書き終えると、急に私の耳元に顔を寄せた。
「惨めな女。……ねぇ、“白い結婚”が四年も、今どんな気持ち? 私たちは結婚前に結ばれたけど。ふふっ」
全身が一気に熱くなる。
祖母の世話や家事で手いっぱい。子どもなんて育てられないと思ってた。
祖母を見送った後。戦争が終わったら本当の夫婦になるんだって──帰りを待ってたのに。
──悔しい!
「用が済んだなら、さっさと帰りな」
ルッツの声で我に返った。
ルッツにダリオン捜索の依頼用紙を渡す。
生死は不明だが、優秀なうちのギルド員は直ぐ見つけるだろう。
ポーラが出ていったあと、ルッツがぽつりと言った。
「ダリオンが消えて得するのは、侯爵家の次男モートンしかいねぇよな」
「長男の異母弟だったわね」
「ああ、モートンには子どもがいねぇ。家督は? ダリオンに子ども出来たら、そっちに継がれる。誰だって分かるだろ」
「でもダリオンは婿養子になってるわよ?」
「それで満足してりゃいいのに。侯爵家の当主になりたいって欲を出したんだろうよ。で、モートンに消されたんだ。ま、自業自得」
「そこまで知ってるなら、ダリオンがどこにいるのか、もう情報は掴んでる?」
「さぁ、知らねーよ」
でも翌日。
街はずれの漁港の倉庫で、ダリオンは発見された。
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