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ツンデレ黒豹獣人の溺愛。「あんた、私のこと好きだったんだ?!」  作者: ミカン♬


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6 対決2

 呆れた……という表情で、ダリオンは私を見た。


「はぁ? 結婚詐欺?」

「私の4年間を返してよ!」


「アリー、いいか──お前は思い違いをしている!」

「思い違い……?」


「お前が俺の妻? 笑わせるなよ。証明書もない。誰も知らない。全部ただのお前の妄想だ」


「……そんな……そんなの……」

 涙が勝手にあふれてきて、視界が滲む。


 けど、彼は眉一つ動かさなかった。

「泣くなよ。みっともない嘘つくな」


 その瞬間、ガッ! と乾いた音が響いた。

「……うっ」

 ダリオンがよろめく。殴ったのはルッツだった。


「てめぇ、いい加減にしろ! 女泣かせて偉そうにすんな。番だか侯爵家だか知らねぇけどよ!」


「な、貴様──」

 言い返そうとするダリオンを「あん?」と、ルッツは顎を上げて、黙らせた。

「消えちまえ。今すぐ!」


 ダリオンは悔しそうに歯を食いしばりながら、隣の女に腕を引かれて、背を向ける。


 店の奥に消えていく後ろ姿を、黙って見送るしかなかった。

 ただポロポロと涙だけがこぼれる。


「……泣くな。ったく、お前はそんな弱い女じゃねーだろ?」


 ルッツの声が、私を現実に引き戻した。


 *


 トボトボ歩く私の横で、ルッツは無遠慮に言った。


「なぁ、男見る目なさすぎだろ。アイツ、最低じゃん」


「……ずっと、いい夫だと思ってたんだよ。でも、“番”が現れたら……私に勝ち目ないね」


「そんな言い訳で納得すんな。番なんて、獣人の免罪符じゃねぇんだよ」


 番だから仕方ない、そんな風潮はある。

 あの残酷な父だって、番を追って逃げていった恋人を、恨みながらも殺さなかった。


「……訴える。詐欺罪で牢にぶちこんでやる!」


「無理だろ。結婚の証明書ねぇし。相手は侯爵家だ、四年分の給金払って、終わりだな」


「給金……私の四年間が、それだけ……?」

 また涙がこぼれる。悔しくて、惨めで。


「だったら、タマタマ取ってやりゃいいじゃん」

 ルッツがあっけらかんと言った。

「裏ならいくらでも手はある。アイツに思い知らせてやれ」


 ぞくっと背筋が冷える。

 こっそり悪人を始末するのが、父の裏の仕事。

 だから私は、この家から逃げたのに、今、頼ろうと……考えた。


「アリー、世の中きれいごとじゃ通らないこともあるんだ。そのために俺たちがいる」


「……復讐」

 愛した分、苦しめたい。

 でもやったら、きっと今度は私が恨まれる。


「覚悟はいる。けど、お前に手は出させねぇよ。ボスの娘だからな」

「……ちょっと整理させて。考えたいの」


「逃げんのか? ……ま、いいけど」

 そう言ってルッツは、あっさり背を向けた。



 *


 屋敷に戻り、部屋に籠もって考え続けた。


 ──ダリオンは番に出会ったから私を捨てたんじゃない。

 最初から私を騙していたんだ。


 祖母が倒れて、働き手が欲しかっただけ。

 単純で、騙しやすそうな私を選んだだけ。


「妄想」だと突きつけられた。

 贅沢したら「恥ずかしい」と責められた。

 悔しい!


「夫を取り戻したい」って気持ちも、だんだん萎んでいった。


 ──ほんとに、ルッツの言った通りだよ。

 ダリオンなんて、最低の人間だ。


 夕飯、全然喉に通らなかった。

 ナイフで切ったステーキを見て、ため息をつく。食欲なんて出るわけない。


 私は残った肉をナプキンに包んで、立ち上がった。

「……ファルにあげよう」


 香辛料、平気かな? ちょっと心配しながら外への扉を開ける。

 そこにはやっぱり、ファルがちゃんと待っていてくれた。


「ファル、お肉食べる?」


 黒豹は一瞬きょとんとした顔をして、それから素直に肉を口に入れた。


「……ねぇ、ファル。あんたが人間だったらよかったのに」

 思わず抱きしめる、優しい匂いがした。


 子どもの頃は、父に隠れて一緒に寝たこともあった。

 寒い夜、ファルの体温にすがりながら、寂しさをやわらげてもらっていた。


「すぐに大きくなっちゃったけどね」

 そう言った瞬間、ファルはするりと身を起こして走り出していった。


「ファル?」


 その数十秒後──「ギャッ!」という短い悲鳴が響いた。


 慌てて扉が開いて、アランと数人の男たちが飛び出していく。

 入れ違いに、ファルがのそりと私の足元に戻ってきた。


 体のあちこちに傷ができていて、血がにじんでいる。

 ファル……命懸けで、この家を守っているんだ。


「待ってて。薬持ってくるから」



 ファルに薬を塗っていると、アランが戻ってきた。

「侵入者は、自決しました」

 まるでファルに向けての報告のように聞こえた。


 こんな時、心から思う。

 私がほしいのは、平穏な毎日だけ。普通に生きたいだけなのに。


「ねぇファル。私……叔母さんの街に戻るわ」


 ファルは低く「グルゥゥ……」と喉を鳴らした。


 それは私を、引き止めるみたいに聞こえた。



読んで頂いて有難うございました。

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