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ツンデレ黒豹獣人の溺愛。「あんた、私のこと好きだったんだ?!」  作者: ミカン♬


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5/20

5 対決1

 

 報告書では、ダリオンが婿入りしたのは一年前だと。

「……戦争に行くって、言ってたのに」

 ダリオンはキスリー侯爵家の孫と認定された。


 家督はすでに、次男「モートン」が継いでいる。

 だが、侯爵家は行方不明になっている長男「ミハイル」を探していた。

 そして、半年前に見つけたのが、長男の息子──ダリオン。


 長男は平民の獣人「ケイト」と駆け落ち。ケイトは黒犬族だったらしい。


「義母はナンシーって名前だ、ダリオンの実母じゃなかったんだ」


 さらに報告書にはこうあった。

 ダリオンは侯爵家の刻印が入った指輪を持っていたと。


「……指輪なんて、見たことなかったけど」


 長男の生死は不明。だが孫としてダリオンは迎えられ、現在は、ドイル商店の娘ポーラの夫。


 ──以上。



「何よ、これ……」

 報告書には私の名前なんて一言も書かれていない。初めから存在しなかったみたいに。



 私はドイル商店の店先に立った。

 窓越しに中を覗けば、並んでいるのは高級品ばかり。客も貴族ばかりに見える。


 中へ入ろうとした瞬間、後ろから襟首をつかまれた。


「待てって! ダリオンは今、ここにいねぇよ」

 振り返ればルッツだった。


「彼の予定はランチの後、奥方とオペラ鑑賞だ」

「……ダリオンはそんな贅沢をしてるの?」


「店にはほとんど顔出さねぇ。商会ギルドの方で働いてる。屋敷は高級住宅街だ。会いたいなら、そっちだな」


「……高級住宅に住んでるの?」

「ああ、相当いい暮らししてる」


 その瞬間、昔のダリオンの言葉が浮かんだ。

 ──『王都に家を買って、家族を呼ぶから。それまで我慢してほしい。贅沢なんてできないけど……アリー、わかってくれるよな?』



「……ルッツ。あんた、嘘ついてないよね?」

「情報ギルドに嘘はねえ。お前は騙されたんだ」

「そんな……本当に……?」


 目が熱くなった。四年間、私は生活費すら最低限で、必死に耐えてきたのに。


「な、泣くなよ。お前らしくねぇ」

 ルッツは私の腕をつかんで、強引に店へ引っ張っていく。


「ほら。何でも好きなもん買え。──ボスからの伝言だ」

「……お父様が?」

「そうだ。おまえロクな着替えも持ってないだろ? 早く選べ」


 思い出す。家出する前は、それなりに贅沢もしてた。

 でも、叔母の宿で質素な暮らしをして、ダリオンと結婚してからはもっと質素……貧乏に。



「じゃあ……このワンピースがいい」

「いっぱい買っておけ。ボスの金だし、遠慮すんな」


 着替えと、古い靴も買い換えた。必要な物を次々に買った。


「もういいのか?」

「うん、十分。……お父様、少しは私のこと気にかけてたんだね」


「当たり前だ。お前、大事に思われてるんだぞ」

 ルッツが支払いをして、私は大きな紙袋を抱えた。


 ちょっぴり嬉しい気持ちになって、店を出たその時──


「あっ!」と、聞き慣れた声。

 私も思わず叫ぶ「ぁあああ!」


「アリー! どうしてここに?」

「そっちこそ……なんでここにいるのよ!」


 そこには、高級なスーツを着たダリオン。そして彼の隣には、美しい女性が立っていた。


「アリー……違うんだ、これは……」

 ダリオンが慌てて手を伸ばしてきた。けれど私は一歩後ろに下がる。


「違う?! 何が違うのよ!」

 声が大きく響いて、通りの人たちが足を止める。

 けど、そんなのどうでもいい。胸の奥でぐつぐつ煮えたぎるものを止められなかった。


「戦争に行くって言ったよね? 私に“待っててくれ”って言ったよね? その間、私、どんな思いで──」

「アリー、落ち着けよ。事情があったんだ」

 ダリオンは小声で、でも必死に言葉をつなごうとする。


「事情?! 聞かせてよ、私が納得できる事情を!」


 ダリオンは視線を泳がせた。

「……侯爵家が俺を認めたんだ。放っておけるわけないだろ? 血を引く者として、責任を──」


「責任?!」

 喉が焼けるみたいに熱くなる。

「私を捨てることが“責任”なの? 最低の生活費しか渡されなくて、毎日毎日働いて……何があんたの責任よ!」


 横に立つ女性が睨むように私を見つめている。

 その姿に、余計に腹が立った。


「私、あんたの“妻”でしょ! 全部、嘘だったの?」

「アリー、声を落とせ……!」

 ダリオンが小さく言った、その瞬間だった。


 彼の隣に立っていた女性が、一歩前に出た。

 宝石のちりばめられた首飾りが、陽に反射してやけに眩しい。


「あなた、なんなの? 私が妻──ダリオンの番よ」


 “番”──私が一番恐れていた言葉。

「……っ」

 声が出なかった。


「そう、俺は番に出会ったんだ。それに、これは家の問題で、侯爵家の血を継ぐ俺には──」


「へへっ……」

 ルッツが横から鼻で笑った。

「家だの責任だの……きれいごと言ってんじゃねぇよ」


 「何だ貴様は? 引っ込んでいろ」

 ダリオンはそう言って、すぐに私に向き直る。


「アリー……お前、それ、俺の金を使っているのか?」

「え?」

 思わず荷物を見下ろした。

 着替えや靴。両手に抱えたそれらが急に重く感じられる。


「俺の金で買ったのか?……無駄遣いして、恥ずかしくないのか?」

「……これは……」


 ルッツが私の肩をポンと叩いた。

「ちげーよ、全部ボスが買わせたもんだ。……なあアリー、気にすんな」


 けど私は胸が詰まって、手がブルブル震えた。

 ダリオンの「番」という女性。

 そして、こんな時でさえ、私に贅沢するなと言うダリオン。


 その全部が、怒りの頂点に──私を立たせた。


「この結婚詐欺師め! 訴えてやるから!」


 ──絶対に許さない! そう強く思った。


 

読んで頂いて有難うございました。

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