表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツンデレ黒豹獣人の溺愛。「あんた、私のこと好きだったんだ?!」  作者: ミカン♬


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

19 捕らわれて

 気がついたら、知らない部屋の床に転がっていた。

 背中が冷たい。廃屋だろうか。カビ臭くて、息をするのも嫌になる。


「アリー! 気がついたか!」

 声で少し安心した。ルッツだ。

 でも、そのルッツも縛られていた。何が起こってるの?


「大人しくしててくださいよ。怪我しますぜ」

 ナイフを持った御者が、無表情に言った。

 

「俺の警戒が甘かった。すまない」

 ルッツが低くつぶやく。

「ううん。きっと父が助けてくれるわ」

 期待は出来ない。でも、そうでも言わないと、心が折れそうだ。


「それはどうでしょうね」


 その声に、体が固まる。

 アランが入ってきた。いつも通りの笑顔。どうして? 信じられなかった。


「アラン! これはなんだよ!?」

「だからお前は二流なんですよ、ルッツ。ボスに認められない甘ちゃんだ」


「俺が何をした!」

「私はね、ボスのためなら何でもします。命だって惜しくない」

「こんなことして! 父が知ったら、あなた……!」


「殺されますね……ふふふ」

 アランは椅子に腰をかけて、優雅に脚を組む。


「いいですか、お嬢様。あなたには縁談がある。ボスが勧めようとしているんです。でもね、ルッツが邪魔なんですよ」

「はぁ? なんでよ! ルッツはただの友達よ」

 そう言いながら、アランが私の気持ちに気づいているのがわかった。


「そ、そうだ。俺は関係ねえだろ!」


 アランが口の端を上げた。

「かわいそうなルッツ。ペットにまで成り下がったのに、結局は“お嬢様の友達”止まりとは」


「ペットって何よそれ? ルッツは大事な親友よ!」


「レッドリバー伯爵家から『黒豹の捜索依頼』がありましてね。ボスは『娘のペットなので手出し無用』と返事を出しました」


「ルッツ……?」

「はぁ……お前の護衛を願い出たら、ペットになれってボスが言ったんだ。それだけだ」


「それでずっと黒豹のままで……バカなの?」

「うるせー! バカじゃねぇわ!」


 アランはクスクス笑う。

「バカですよ。だってお嬢様のためにタマを一つ取ったんですから」


 私の時間が一瞬止まった。

 ──え? タマ? え?


「アラン! てめえ殺すぞ!」

「タマ? どういうこと? 説明して!」


 アランが肩をすくめる。

「だから、お嬢様はルッツの《番》なんですよ。つまり──運命のつがい。なのにお嬢様はダリオンと結婚してしまった。ルッツは辛くて耐え切れなかったんですよ」


 《番》。

 その言葉が、胸の奥で破裂した。

 私がルッツの番? そうなの? 


「ルッツ……あんた、私のこと……好きだったんだ?!」

 声が震えた。


「そうだよ。悪いか! アラン、俺を殺せ。アリーを解放しろ。こいつは俺を嫌ってる」


 目が熱くなる。こんな時なのに、涙がこぼれそう。


「ううん。嫌ってない。好き。……大好き」


「このアホ! 黙ってろ!」

 顔を真っ赤にして怒鳴るルッツを見たら、余計に泣けた。


 アランが腹を抱えて笑い出した。

「ははっ、いいですねぇ。恋と絶望が隣り合わせだ。あははは……」


 その笑い声が壁に反射して、私の鼓動をかき乱す。


「お嬢様、縁談を承諾して下さればルッツは開放しますよ?」

「嘘言わないで。どうせルッツを始末するつもりでしょ。殺すなら、私も一緒に殺してよ」


「ふざけんなよ。アリーは生き残れ!」

「いやよ。一緒に死ぬわ!」

「ダメだ! 絶対ダメだ! 最後くらい俺に守らせろ!」


 ……そんな言葉、ずるい。縛られてなきゃ、抱きしめてた。

 叔母さんの言葉が頭をよぎる。私はルッツが欲しい。心の底から。



「……という事です。もういいでしょう」

 急にアランの声が優しくなった。


 すると、御者が私達の縄を切った。


「この野郎!」

 ルッツがアランに飛び掛かる。でも、あっさり蹴り飛ばされた。


「まぁまぁ。落ち着いて。これは二人のためですから」


 アランの飄々とした声が、今はただ腹立たしい。

 ――その時。


「お前たちには死んでもらった」

 父が入ってきた。静かな声で、物騒なことを言いながら。


「なんで過去形なの? まだ生きてますけど?」


「俺への報復にアリーも狙われている。だからお前は死ななければならん」


 レッドリバーでも、狙われていたのは知ってる。

 ……でも、これはいったいなんなのよ?


「チッ、初めからそう言えっての。こんな芝居、必要ねぇだろう」


「お前がヘタレだから、こうしたんです。お嬢様にも危険を実感してもらえたでしょう?」

「十分よ。心臓止まるかと思った」


 アランが満足そうにうなずく。

「馬車が襲撃され、お嬢様とルッツは死亡したと発表します。身代わりの遺体も手配済みです。これからは別人として生きてください」


「身代わりの……遺体?」

「死刑囚です。ご安心を」


 安心なんて、できないわよ。やっぱりこの世界は恐ろしい。

 報復に次ぐ報復。いつ終わるとも知れない。


 それでも――ルッツが一緒なら別人でもなんでも、生き延びてやる。

 


読んで頂いて有難うございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ