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ツンデレ黒豹獣人の溺愛。「あんた、私のこと好きだったんだ?!」  作者: ミカン♬


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16/20

16 レッドリバー

 レッドリバーの夜は、星が青く光ってた。

 王都より空が澄んでて、息を吸うたび胸の奥がちょっと冷たくなる。


 ルッツは頑なに黒豹のまま。

 だから、しゃべるのはずっと私ばっかりで、なんかもう疲れちゃった。


 思えば、ファルの時だってそうだった。

 私が一方的に話して、あいつは尻尾を振って聞いてるだけ。


「家出するわ!」って言ったとき、スカートの裾を咥えて引き留めたっけ。


 ──どうして気づかなかったんだろう。

 どうして、ファルが獣人だと、考えなかったんだろう。

 私の話、いつもちゃんと理解してくれてたのに。


 * * *


 宿屋の扉が開いて、叔母さんが顔を出した。


「叔母さん、ただいま!」

「お帰り、アリー。大変だったね」

 そう言ってから、ルッツを見て目を丸くする。


「おやまぁ、これはファルかい?」

「ううん、ルッツなの。私の護衛なんだけど、置いてもらえる?」

「あぁ、黒豹獣人の──もちろんさ」


 ルッツは無言で尻尾を一振り。


 部屋に案内してもらうと、ルッツは私の部屋の前で伏せたまま動かない。


「ルッツ、ベッドで寝たくないの?」

「ここでアリーの警護をする気なのかい? 部屋ならあるよ?」

 そう言っても、やはり動かない。


「なにか訳がありそうだねぇ、これは」

「……うん」


 ……私だって、何か理由があるんだろうと思っていた。

 それを話してくれないのが寂しくて悲しい。


 * * *


 翌日から、私は宿屋の手伝いを始めた。

 お客は領主に雇われた傭兵や旅人が多い。


 ルッツは店の隅で、じっと警戒している。


「黒豹なんて珍しいな」

 誰もがそう言う。


 黒豹獣人は、この国ではほとんど見かけない。

 野生の黒豹でさえ、生息地域は他国で、この国にはいない。


「金なら出す、黒豹を譲ってくれないか?」

 そんなことを言ってくる商人もいたけど、冗談じゃない。お断りだ。


 そのうち、近所の子どもたちまで見に来るようになった。


「お姉ちゃんが飼ってるの?」

「そうよ、ルッツっていうの。大人しいのよ」


 そうやって笑いながら答えるけど、ルッツは知らんぷり。


 ──おかしいな。

「うるせー、あっち行け!」と怒鳴りそうなのに。


 私はもうルッツに問いかけるのは諦めた。王都に戻ればルッツだって変身を解くだろう。

 寂しい気持ちも、仕事をしていると忘れる。



 そんな日々が続いたある朝、忙しい時間帯も過ぎて、私達は朝食をとっていた。

 すると宿の前に立派な馬車が止まった。

 黒い車体に、銀の紋章。


 ──領主のレッドリバー伯爵家の馬車だった。


「ここよ、ここに黒豹がいるんですって!」

 外から甲高い声が聞こえた。何事かと顔を上げる。


「落ち着けよ。すぐに手に入れてやる」

 男の声。嫌な予感がする。


 カラン、と扉が開いた。

 現れたのは、見覚えのある顔。癖のある金髪に琥珀色の瞳。領主の息子ミリオンと、その妹のエリザだ。

 後ろには、三人の護衛を引き連れている。


「主人はいるか!」

 ミリオンが威圧的に声を上げた瞬間、エリザが叫ぶ。


「いたわ! 綺麗! 絶対に欲しい!」

 彼女は真っすぐルッツのもとへ駆け寄り、当然のようにその頭を撫でた。


 ルッツが低く唸る。

「今日から私がご主人様よ。首輪を買ってあげる。赤が似合いそう、ふふ」

 お構いなしに笑うエリザ。


 ……腹の底からムカついた。

「触らないで! 噛まれるわよ?!」


「妹を傷つけたら殺傷処分だ。おい、主人を呼べ」

 領民を見下した態度。

 ミリオンと話したことは無いが何度か見かけたことはある。相変わらず嫌な感じだ。


「私が主人ですが」

 奥からイアン叔父さんが出てきて頭を下げた。

 するとミリオンは、金貨の詰まった袋をテーブルに投げた。


「この黒豹を買い取る」

「申し訳ありませんが、この子は売れません。うちの子ではないので」

「なら、誰のものだ」


 ──やばい。

 獣人って説明していいのかな? 「私のもの」って言うのも、なんか違う。

 もう! 初めから人の姿でいればよかったのに! ルッツのバカ!


「その黒豹は──」

 イアン叔父さんが言いかけたとき、ルッツがすっと立ち上がり、宿の奥へ走り出した。


「あ、待って!」

 エリザが後を追って、私も慌てて走った。


 一階は家族用の部屋が並んでいる。でも、廊下にルッツの姿はなかった。


「どこに消えたのかしら? 私のランスロットーー」

「ランスロット?」

「あの子の名前よ。もう決めてあるの」


「あの子はルッツって名前で、私の大事な親友よ。絶対に譲らない」

「ルッツ? それも悪くないわね。でも、譲ってくれないと──この宿屋、お父様に言って潰してもらうから!」


 この小娘……十四、五ってとこか。生意気にも程がある。

「はぁ? 潰されるのはどっちよ?」


 そのときだった。

「アリー、こっちだ」

 ──久しぶりに、ルッツの声が聞こえた。



読んで頂いて有難うございました。

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