3話
プロットが崩壊したらこの作品は消えます。
某が案内したのは、俗に言う大広間だった。古びた照明機具の光が、怪し気な雰囲気を更に増させる。
私の目の前に居るのは六人の男女。忌々しい志鶴、パンダのお面を付けた男性、片腕が義手の優しげな男の人、ぼんやりとどこかを見ている女の子。
そしてもう二人は再構築前、戦時の中で姿を見たことがある、空蝉空とリッツ・モースその人だった。
「すみません、皆さん。急な呼びたてをしてしまって……この方が、最後の再構築者の仁科桐さんです」
某が周囲にペコペコと頭を下げる。彼が折角私の名前を出してくれたので、軽く会釈をし周りの反応を伺った。
「チッ……烏葉との賭けには負けちまった……。あーぁつまんねー」
「ざまぁみなさい、クソトップ。そのまま死んでくれてもいいのよ?」
凛君は志鶴との賭けの内容で一悶着している。多分内容は私が目を覚ますかどうかとかだろう。
止めようか迷ったが、まだ再構築者の名前を全て把握していない。先にそっちを優先したほうがいいだろう。
志鶴と凛君のやり取りが気になる私を気遣ってか、向こうの方から自己開示しやすいようにと近づいてくれた。とてもありがたいことだ。
「こんにちは!桐さん……でいいんだよね?僕はアングル・リーマンといいます。元酪農家です、義手は……あまり気にしないで頂けると助かります」
アングルさんは、メカメカしい義手をブンブンと振りながら朗らかに笑った。何だか穏やかな人だ。だが、元酪農家がこんなにも体格が良いものかと気になる点もある。
「ステラ、ステラって呼んで。私からはそれだけ」
ぼんやりとどこかを見ていた女の子は、淡々とそれだけを語った。表情変化の少ない、いやこの短時間でも変化がない子だった。
空蝉空とリッツ・モースは私が一方的に知っている。B国軍の一番上、元帥の男性とB国のリーダーを務めていた知的な女性。ただ一つ困ってしまうのが、この二人とても人当たりがいい。何か裏があるのではないかと思ってしまうくらいだ。
これで名前を知らないのは、パンダのお面を付けた男性、その人のみになった。
まるでこちらの様子を伺っていたかのように、志鶴はニタリと表情を歪め、男性の背中を強く叩いた。
「おいおい海?折角元部下が目を覚ましたんだ、何か言ってやることあるだろ?」
「…………。仁科」
パンダのお面を付けていた男性は、私の死の原因の和田津海、その人だった。
お面を付けているので表情は全く読めないが、きっと酷い顔をしているのは分かる。別に私としては一切恨んでいないし、殺されて仕方ないことだったとも理解している。
「殴り合いとかしねぇのか?なぁ仁科、和田津!もっと楽しませてくれよ!」
「煩いぞ、栗島志鶴!海と桐さんの邪魔してんじゃねぇ!」
空さんが志鶴に掴みかかろうとする、海と呼び捨てにしている所から、旧知の仲なのは丸見えだ。
志鶴は相変わらずニタニタと笑みを浮かべている。彼を挑発できたのがそれほど嬉しいのかと私は気味悪くなった。
争いが始まりそうなこの空気を、先程まで無言だった某が咳払いで収める。
「志鶴さん、空さん。基地内で私闘は厳禁です。特に志鶴さん、わざと空さんを煽りましたね?」
「はっ、だからどうした?俺は俺の好きなようにやらせてもらうと言ったはずだが?」
「はい、そうおしゃってましたね。しかし、意図的にルールを破るなら僕としても看過できません」
「何だ?なら殴ってお前に都合の良い駒にでもするか?」
志鶴がそう言い切った時、某少年の眉が少し下がったように見えた。しかし、彼は屈することは一切ない。その意思は紫電と戦うリーダー、再構築者を率いる長として素晴らしく『完璧』なものだ。
後なるべくなら早く解決してくれると助かる。そろそろ凛君が、本格的に志鶴を殺しにいってしまう。抑え込むのも一苦労だ。
「いいえ、貴方を殴ったりしません。ただ後でこれをしてもらうだけです」
大広間のロッカーから、某はガサゴソと掃除セットを取り出した。私の人生で見たことのない商品名の物ばかりで、こんなことで時代が違うということを感じてしまう。
「基地内の掃除、全250部屋後でしてもらいますから。それが今日の罰です、ちゃんと僕も手伝いますから。返事をしていただけますか?」
「………。はーい、分かりましたよ某様。某様の仰せの通りにー」
相変わらず腹の立つ奴だ。だが、問題は何とか収束しそうだ。某はこちらに向き直すと、疲れをみせながらも毅然としてリーダーとして振る舞ってくれる。空さんは頭を冷やしに行ったのか、気付いたら姿を見かけなくなっていた。
「ごめんなさい、桐さん。そろそろ僕たちの使命である、紫電討伐へ向けての練習と移ります。それが紫電VR戦です。他の皆さんは実行済みですので、後は桐さんだけです。これである程度の実力を測りますのでよろしくお願いします。」
これから波乱万丈の生活が起きるのは確定だ。改めてこの最悪の空気から、紫電VR戦とやらに気を向けねばならない。
これから私たちはどうなってしまうのか?抱えていた疑問も解決していない、そもそも人間関係という根本的な所が終わっている。
だが、解決は先だ。今は紫電VR戦それのみに集中しよう。胸に抱えるものは増えていくばかりだが、私はそう強く決意した。




