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1話

 「あっ!起きましたか?」


 まだ声変わりのしていない少年の声で初めて目が覚める。私の視界に入ってきたのは、白い病室のような場所。『あの時』を思い出せるような辛くて痛い……いや待ってほしい。何で私は生きてるんだ?こうして、明瞭に思考出来ているのも不思議だ。


 「ごめんなさい桐さん。桐さんからすれば、僕は必然的に怪しい者になります。だけど、どうか話を聞いてくれませんか?」


 重い身体を起こし、改めて周囲を見渡す。目の前にいるのはブカブカの白衣を着た少年。そして私の腕や足に刺さる点滴のようなもの。そして白っぽい壁と病室を想起させる部屋。

 何だここは、地獄にでも来たというのか?なら、随分小綺麗な地獄だ。


 「……分かった。君が誰か知らないが、私の置かれてる状況を説明してくれ」


 「では改めて、僕は『某』と言います。貴方たち死者を『再構築』させた張本人です。桐さんは死にました、それは確実です。しかし、貴方の戦闘経験は僕の使命に役に立つ。それが、貴方がここに存在している理由です」


 目の前の某少年は、明らかな偽名を使って私に自己紹介をした。状況は全く呑み込めていないが、また戦闘に駆り出されそうなのは確実だ。彼の使命とやらも聞き出さないといけない。

 ここが凛君の居ない地獄なら、私は即急に死を選ぶ自信がある。だけどもし、もし他の人も再構築されているなら?凛君にまた会えるなら?


 「成る程。つまり私は君の駒ってことかい?とんだエゴイズムじゃないか」


 「えぇ、その通りです。僕は貴方たちを利用して、使命……『紫電討伐』に使おうとしています」


 「潔いな、そういうのは嫌いじゃないよ。それで、その紫電とは何か教えてくれ。あと今は何年の何月だい?」


 少年が語ったのはこうだ。『紫電』は、彼の父が作った虫と機械の融合体の総称で、どうやらソイツは、彼の時代の人類を脅かしているらしい。


 「今は2500年の6月です。貴方たちが亡くなったのは2300年頃。つまりここは、200年後の世界になりますね。実は、他にも再構築者の方々がいまして……桐さんと同じ年代に生きていた方が多いです。もしかしたらお知り合いとかいるかもしれませんね」


 「っ!じゃあ凛君は!?烏葉凛!凛君は私と同じで再構築されてるのか!?答えろ!!」


 地面に叩きつける勢いで、某少年に掴みかかる。

某は痛みに顔を顰めるも、今の私はそれどころではなかった。凛君。もしかしたらまた君に……頼む……頼むよ……。


 「烏葉凛さん……ですか……。うっ、いてて……実は同じことを彼女にも聞かれましたよ」


 「じゃあ凛君はっ!」


 「えぇ、貴方と同じで再構築されています。他の方と会う前に、まず凛さんと会いましょうか」


 凛君、烏葉凛。大事な親友であり、私より先に死んでしまった人。ずっとずっと君のことを思っていた。さっきここは地獄だと形容したが、凛君に会えるなら天国も同然だ。

 まぁ、紫電という敵と戦うのは必然になるが、私の対価としては充分なくらいだ。

 これからの希望で胸を一杯にしつつも、冷えた頭が、少年に掴みかかっている事実を認識する。


 「すまない、冷静じゃなかった。この有様じゃ、駒として失格かな」


 「いいえ。僕としては信じて頂けること、そして賛同……とはいかなくても、紫電と戦う意思があることそれだけで嬉しいです」


 私は彼の襟から手を離す。小さな身体の某は、フラフラとよろめくも、私が手を貸すこともなく立ち上がる。紫電討伐、実の父が人類の敵という事実。彼の肩に、どれだけの覚悟がのしかかっているのか、私はふと気になった。


 「それでは、凛さんに会いに行きましょうか。あぁその前に、針が抜けたところ少し治療しますね……」


 「何度もすまないね。私のほうが年上だろうに、情けないところばかり見せてしまった」


 某は首を横に振りつつも、慣れた手つきで針が抜けた痕を消毒する。消毒液が傷に染みて少々痛むも、その痛みが改めて私に生を実感させる。

 紫電というのは実際どんな強さなのか、某のことを本当に信用していいのか、他に再構築された面々とうまくやっていけるのか、問題は山積みだが、まずは目の前の一歩『凛君と会って話す』それに集中することにした。

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