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姉と折り合いが悪いけれど運命と出会って折り合いをつけていこうと思う。妹はのびのびできたことが許せなかったらしい

作者: リーシャ

二人の未来が、光に満ち溢れていますように。


「はあ……またこの夢か」


汗を拭う。


見慣れた天井ではなく、木組みの高い梁が見える古めかしい部屋で、ティリアナは小さくため息をついた。


夢はかなり本物らしい。


鮮やかな緑が生い茂る森の中、どこまでも続くような青い空。


現実味がありすぎた。


そして、いつも夢の最後に現れる、顔の見えない優しい男の人。


わからないけれど。


(もう何度目の転生だろう……いい加減、普通の人生を送りたいんだけどな)


ティリアナは、何度目かの異世界転生者だ。


毎回似たようなもの。


トラックに轢かれたとか、そういうベタな理由ではない。


知りたいけど。


気が付くといつも、全く知らない場所に、全く知らない誰かとして存在している。


女神か、神か、はたまた別物か。


今回のティリアナは、どうやらこの魔法世界の伯爵令嬢らしい。


不思議な世界。


名前はユリア・フローレンス。


名前はいい。


美しい顔立ちをしているらしいが、鏡を見るたびに。


「ふーん、まあまあかな」


と思ってしまうあたり、前世の感覚が抜けきっていない証拠だろう。


普通に近い。


そして、今回のユリアには、頭痛の種がもう一つ。


ため息も吐きたくなる。


それは実の姉、エレオノーラとの関係だ。


彼女はアレだ。


才色兼備で皆の憧れの的であるエレオノーラは、なぜかユリアに冷たい。


性格が悪い、なんてもんじゃなかったり。


いや、冷たいというより、敵意すら感じられる。


なんなのだ、と思う。


コンコン、と控えめなノックの音が響いた。


侍女だろう。


「ユリア様、おはようございます。お着替えの準備ができました」


侍女のアンナが優しく声をかけてくれる。


ホッとした。


アンナはユリアにとって、数少ない心の安らぐ存在だ。


「ありがとう、アンナ」


ユリアはベッドから起き上がり、アンナに手伝ってもらいながら、豪華な刺繍が施されたドレスに身を包んだ。


一人では着替えもできない服。


朝食の席には、すでに父である伯爵と、姉のエレオノーラが座っていた。


ムッとなる。


エレオノーラは、ユリアを一瞥すると、露骨に顔をしかめた。


「おはようございます、お父様、お姉様」


ユリアは努めて明るく挨拶をした。


「……ああ」


伯爵は軽く頷いたが、エレオノーラは無視を決め込んでいる。


最低な女。


(また始まった……一体何が気に食わないんだろう、あの人は)


ユリアは心の中で悪態をつきながら、用意されたパンケーキにフォークを入れた。


美味しい。


その日の午後、ユリアは庭園を散歩していた。


運動も兼ねて。


色とりどりの花が咲き乱れ、魔法で生み出された小さな妖精たちが楽しそうに飛び回っている。


楽しそうでなにより。


この世界の美しい風景は好きだが、やはりどこか現実感が薄いと感じてしまう。


「こんなところで何をなさっているのですか、ユリア様」


背後から、冷たい声が降ってきた。振り返ると、予想通りエレオノーラが腕を組んで立っている。


なぜ、敬語?


と思いつつ。


「ただの散歩よ。何か問題があるかしら、お姉様?」


ユリアは平静を装って答えた。


硬すぎる。


「問題?ええ、大いにありますわ。あなたはいつも、だらしなくぶらぶらと……伯爵家の令嬢としての自覚がおありなのですか?」


「自覚くらいあるわよ。ただ、あなたみたいに常に完璧でいるなんて、私には無理だって言ってるの」


ユリアの言葉に、エレオノーラの眉が吊り上がった。


嫌なら、見ないようにすればいいのに。


「完璧?笑わせますわ。あなたのような出来損ないが、私と同じ血を引いているなんて、恥ずかしい限りです」


貴族にしては俗物な言い方。


「酷い言い方ね……」


ユリアは胸が締め付けられるのを感じた。


本当は、殴りつけたい。


なぜ、エレオノーラはこんなにも自分を嫌うのだろう。


「事実を言ったまでですわ。……まあ、あなたに言っても無駄でしょうけれど」


そう言い残して、エレオノーラは優雅に踵を返した。


気に食わない。


(本当に、どうしようもないくらい、あの人のこと苦手……)


ユリアは一人残された庭園で、深くため息をついた。


処置なし。


その夜、ユリアはまたあの夢を見た。


緑の森、青い空。


そして、最後に現れる、優しい雰囲気の男の人。


誰なのかな。


今日は少しだけ、その人の声が聞こえた気がした。


「ユリア……」と、切なく自分の名前を呼ぶ声。


(一体、あの人は誰なんだろう)


翌日、王都で開催される舞踏会への招待状が届いた。


かなり強制力のあるもの。


伯爵家の一員として、ユリアも参加しなければならない。


「舞踏会、か……気が進まないなあ」


アンナにドレスを選んでもらいながら、ユリアは憂鬱な気分で呟いた。


「そんなことを仰らずに。きっと素敵な出会いがありますよ」


アンナはにっこりと微笑んだ。


「出会いね……この世界に来てから、ロクな出会いがないんだけど」


皮肉っぽく言うと、アンナは困ったように笑った。


本音である。


舞踏会当日。


豪華絢爛な会場には、華やかなドレスを身にまとった貴族たちが集まっていた。


壁のシミ。


ユリアは、淡い水色のドレスを身につけ、会場の隅でひっそりと立っていた。


エレオノーラは、鮮やかな真紅のドレスを身につけ。


多くの男性たちに囲まれて、楽しそうに談笑している。


冷たくなる視線。


(やっぱり、あの人の方がずっと輝いているわね)


ユリアは、自分の存在が場違いなように感じて、ますます気が滅入ってきた。


ふらふらしているのは、姉なのではないかと思うけど。


一人の男性が、ユリアに近づいてきた。


整った顔立ちに、深い青色の瞳を持つ、見慣れない男性だった。


「……あの、すみません」


(ん?)


ユリアが声をかける前に、男性は優雅に跪き、ユリアの手を取って口づけた。


(えっ!?)


「やっと、お会いできましたね、ユリア」


突然のことに、ユリアは目を丸くした。


だ、誰!?


「え……あなたは?」


男性は優しく微笑んだ。


「私の名は、タルイン・アークライト。貴女の、運命の番です」


「……運命の、番?」


ユリアは、意味が分からなかった。


なにを?


運命の番なんて、おとぎ話の中の存在だと思っていた。


あり得ないこと。


「ええ。私は、ずっと貴女を探していました」


タルインは、真剣な眼差しでユリアを見つめた。


嘘のようには聞こえず。


その瞳の奥には、深い愛情と、どこか切ない光が宿っているように見えた。


「あの……何を言っているのか、さっぱり……」


ユリアが戸惑っていると、タルインはさらに言葉を続けた。


続くとさらに混乱する。


「初めて貴女を見た時から、私の魂は貴女を求めていました。この世界のどこにいるのかも分からずに、ただ、いつか必ず巡り会えると信じて……そして今、こうして貴女の隣にいる」


タルインの言葉は、ユリアの心に不思議な波紋を広げていった。


(あれ、この声は?)


まるで、どこかで聞いたことがあるような、懐かしいような感覚。


「もしかして……あなたは、私の夢に出てくる……?」


ユリアがそう問いかけると、タルインは驚いたように目を見開いた。


「貴女も、私のことを……?」


二人の間には、特別な空気が流れた。


声が遠い。


周囲の喧騒が、まるで遠い世界の出来事のように感じられた。


二人だけしかいない。


その時、鋭い声が二人の間に割って入った。


「タルイン様!一体、このような場で何をなさっているのですか!」


振り返ると、エレオノーラが険しい表情で立っていた。


なに?


彼女の目は、ユリアを射抜くように冷たい。


「エレオノーラ様。申し訳ありません。ですが、この方は私の運命の番、ユリア様です」


タルインは、エレオノーラに毅然とした態度で告げた。


彼を見上げる。


エレオノーラの顔は、憎悪の色に歪んだ。


「運命の番、ですって?くだらない戯言を……ユリアのような出来損ないが、貴方様の番であるはずがないでしょう!」


身内を蔑むのは、貴族のなんたるかを逸脱している。


「お姉様!」


ユリアは、エレオノーラの酷い言葉に思わず声を上げた。


何様だ?


ただ、血が繋がっているだけの他人のくせに。


タルインは、ユリアを庇うように一歩前に出た。


「エレオノーラ様、ユリア様に対するその侮辱的な物言いは、聞き捨てなりません。彼女は確かに私の運命の番なのです。それは、魂が知っている」


タルインの強い口調に、エレオノーラは言葉を失った。


なにが起きているのか、分からない。


周囲の貴族たちも、二人の様子を興味深そうに見守っている。


「ふん、勝手にすればよろしいわ。ですが、タルイン様、貴方がそのような女を選んだことを、後悔する日が必ず来ますわ」


そう言い捨てて、エレオノーラは足早にその場を立ち去った。


品がない姉。


残されたユリアは、タルインを見上げた。


身内があんなにヒステリックなんて、恥ずかしい。


彼の青い瞳には、揺るぎない光が宿っていた。


「大丈夫ですか、ユリア?」


タルインの優しい声が、ユリアの耳に届いた。


「ええ。なんだか、色々なことがありすぎて、頭が追い付かないけど……ありがとうございます」


ユリアは、素直に感謝の言葉を述べた。


それしか言えまい。


「私こそ、ありがとうございます。やっと、貴女を見つけることができたのですから」


タルインは、再びユリアの手を取り、優しく微笑んだ。


瞳は熱を帯びている。


その笑顔は、夢の中で見た、優しい男の人の笑顔と重なった。


(もしかして……本当に、この人が……?)


ユリアの心臓が、ドキドキと音を立て始めた。運命の番。


そんな非現実的な言葉が、今は妙に色味を帯びて感じられる。


「あの……タルインさん」


「はい、ユリア」


「その……運命の番、というのは、一体どういう……?」


ユリアが問いかけると、タルインは少しだけ寂しそうな表情を浮かべた。


「この世界には、魂の伴侶という概念があります。互いの魂が強く惹かれあい、結ばれるべき存在……それが、運命の番です。番となった二人は、強い絆で結ばれ、互いを必要とし、支え合うことができると言われています」


説明されて。


「魂が、惹かれ合う……」


ユリアは、自分の胸に手を当てた。


ドキドキするかも。


確かに、タルインの瞳を見ていると、理由の分からない懐かしさと、温かい感情が湧き上がってくる。


「ですが、番は必ずしも、すぐに結ばれるとは限りません。様々な困難や試練が、二人を待ち受けていることもあります」


タルインの言葉には、深い意味が込められているように感じられた。


「……私と、あなたには、どんな困難が?」


ユリアが不安そうに尋ねると、タルインは優しく首を横に振った。


「それはまだ分かりません。ですが、どんな困難が待ち受けていようとも、私は必ず貴女を守り抜きます。なぜなら、貴女は私の、たった一人の運命の番だから」


タルインの力強い言葉に、ユリアの胸は熱くなった。


困難とは、誰が課すのか?


初めて会ったばかりなのに、彼の言葉には、不思議な説得力があった。


「信じても、いいのかな」


ユリアは、自分に言い聞かせるように呟いた。


相手も笑う。


「ええ、ユリア。どうか、私を信じてください。私は、貴女を生涯愛し、大切にすることを誓います」


タルインは、真摯な眼差しでユリアを見つめた。


心臓が跳ねる。


その瞳の奥に宿る深い愛情と決意に、ユリアは抗うことができなかった。


「……分かりました。私も、あなたを信じてみます」


ユリアがそう答えると、タルインの顔に、安堵と喜びの表情が広がった。


姉に帰宅後、質問責めにされずに済んだ。


その夜、ユリアは久しぶりに、穏やかな眠りにつくことができた。


すやすやと。


夢には、あの緑の森も、青い空も現れなかった。ただ、温かい光に包まれているような、優しい感覚だけが残った。


(また、会ったけど)


翌日、タルインは伯爵家を訪れ、正式にユリアとの婚約を申し込んだ。


(早速、早い)


伯爵は、突然の申し出に驚きを隠せない様子だったが、タルインの誠実な態度。


彼の家柄の良さから、最終的には二人の婚約を認めた。


姉の態度が目に余るが。


エレオノーラは、二人の婚約が決まっても、相変わらずユリアに冷たい態度を取り続けた。


呆れた。


「まさか、本当にあの男をたぶらかしたの?一体、どんな手を使ったのかしら」


たぶらかすは、貴族令嬢としてアウトな気がする。


「私は何も……ただ、彼が運命の番だと言っただけで……」


ユリアが反論しようとすると、エレオノーラは鼻で笑った。


「運命の番、ね。都合の良い言葉を並べて……愚かな妹を持って、本当に情けないわ」


ツガイを、否定。


「どうして、そんなに私を嫌うの?」


ユリアは、堪えきれずに問いかけた。


許せない。


エレオノーラの瞳が、一瞬だけ悲しげに揺れた気がしたが、すぐに冷たい光を取り戻した。


「貴女の存在そのものが、私には耐えられないのよ」


そう言い残して、エレオノーラは部屋を出て行った。


何様だろうとまたイラつく。


(一体、何があったんだろう……)


ユリアは、エレオノーラの言葉に深く傷つきながらも、その理由が分からずに苦しんだ。


少し気になる。


それでも、タルインの存在が、ユリアの心の支えとなっていた。


姉のことを思考の片隅に押しやる。


彼は毎日、ユリアのもとに通い、優しく語りかけ、共に時間を過ごした。


甘い。


ユリアは、タルインの温かさに触れるたびに、彼のことをもっと知りたいと思うようになった。


色々質問する。


ある日、タルインはユリアを、彼が所有する美しい庭園に連れて行った。


色とりどりの珍しい花々が咲き誇り、魔法で創られた小さな滝が、涼しげな音を立てている。


綺麗だ。


「ここは、私が一番好きな場所なんです。いつか、貴女と二人で来たいと思っていました」


タルインは、優しい眼差しでユリアを見つめた。


「本当に、綺麗ね……ありがとう」


ユリアは、素直に感謝の言葉を述べた。


彼と向かう。


二人は、庭園のベンチに腰掛け、静かに語り合った。


耳を傾ける。


タルインは、自分の生い立ちや、この世界のこと。


そして、ユリアを探し求めていた間のことを、ゆっくりと話してくれた。


疑問も湧く。


ユリアもまた、自分が異世界から転生してきたこと。


エレオノーラとの関係について、少しだけ打ち明けた。


姉は問題児になっている。


タルインは、ユリアの話を真剣に聞き、優しく慰めてくれた。


「貴女は、決して一人ではありません。私が貴女のそばにいます」


タルインの言葉は、ユリアの心に深く染み渡った。


嬉しくて泣きそうになる。


初めて、この世界にいてもいいと思えた。


骨を埋めてもいいと。


初めて、誰かに心を開いてもいいと思えた。


彼へ寄りかかる。


二人の距離は、日を追うごとに近づいていった。


手を取り合う。


互いのことを知り。


理解し合う中で、ユリアはタルインに、かけがえのない感情を抱くようになっていた。


それは、夢の中で感じた優しい感情よりも、もっと強く、もっと温かいもの。


しかし、二人の未来が順風満帆であるとは限らなかった。


(気になる)


ため息を吐く。


それでも、ユリアはもう一人ではなかった。


(この人が、私の運命の番……本当に、そうなのかもしれない)


姉のことが気になる。


姉がなにを考えているのか、知った方がいいのではないのかと。


夕焼け空の下。


ユリアが家を出て、姉が結婚する頃に疑問は解けた。


彼と別れて姉のところへ向かう。


結婚式前に話そうと思って。


疑問はどこまでも長く伸びていく。


たずねるしか、やれることはなさそう。


ユリアは彼女の本音を知ったのはその時。


なぜ、己に冷たかったのかとたずねたら、自分は次期当主として勉強していた時に、妹のユリアはぬくぬくと過ごしていたのを何年も見続けていて。


それが、許せなかったのだと。


八つ当たりだったのだと聞かれて納得。


「悪いとは思ってるわ」


特に、遺憾はない。


人としてままある感情だし。


悪いのは、うまく配分できなかった親だなと分別した。

姉さんさぁと思った方も⭐︎の評価をしていただければ幸いです。

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