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椅子取りゲームで転生した先は弱小魔族の王女だった。【Ⅰ】  作者: 柚木 壱
魔族の国 ブラックフォレスト王国
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サツキナの決心 1

サツキナとダンテ、宰相や重臣達、城の護衛達はルイス・アクレナイト侯の船を迎える為に船着き場に来ていた。


ロキは既に冬御殿に送られた。

事が無事に済むまでロキは冬御殿で匿われている。

もしもダンテやサツキナに何かが起きてもロキがいれば、次期国王として王を継ぐことが出来るからだ。

川を横切って来る船はたったの1隻。だが、随分大きな船だ。



「見た事も無い程大きな船ね」

サツキナは言った。

「アクレナイト侯が海で使っていた船かも知れない」

ダンテ国王は答える。

「わざわざ運んで来たのね」

「ナロウウシーからインディグランド川を遡って来たのだろう」

ダンテ王もサツキナも船を見詰めている。

「ルイス・アクレナイト侯は船一隻で何をしに来るのかしら?」

サツキナは言った。

「大した軍隊も無いウチなんか屈服させるのは船ひとつで足りると思っているのかしら?」

「うむ……。それよりもまず様子を見に来たのだろうな。本当に金が無いのかどうなのか」

ダンテ国王は言った。



先頃、ブラックフォレストの使者は「今は200万ビルドしか払う事が出来ない」という王の書簡を持ってリエッサ王妃の王宮へ行った。

リエッサ王妃は嘲笑ったらしい。

そして書簡を使者に投げ付けた。

「私をおちょくっているのか?」

使者は落ち着いて答えた。

「わが国には800万ビルドなどという大金は有りません」

王妃は言った。

「ならば全てを売り払って金を用意せよ。物が無ければ人を売れ。奴隷として。魔族なら高く売れるだろう。馬並みに丈夫だし役に立つからな。それでも金が無いと言い張るのなら、我が夫、ルイス・アクレナイト侯が薄汚い魔族共を蹴散らすであろう」

無慈悲なリエッサの返答を持って使者は帰って来たのだった。



船が着岸した。

船にはイエローフォレスト、マルシド王朝の紋章である黄金の獅子が描かれた旗が翻っている。その隣にはアクレナイト侯爵の紋章である鷹を描いた旗も翻っていた。

艫綱を杭に結び付け、船からは次から次に兵士が降りて来る。兵士だけではない。馬や武器も次から次に降ろされる。



一人の凛々しい騎士が降りて来た。彼は従者を従えこちらに向かって歩いて来る。

その足がふと止まった。

彼はじっと出迎えの人々を見ている。

「アクレナイト侯?」

後ろに控える従者が声を掛ける。

騎士は黙って歩き出す。


近付いて来るその若い騎士の顔を見てサツキナは驚いた。

「真司さん!」

思わず声が出た。

ダンテが訝し気にサツキナを見る。

「シンジサン? あの者の名はシンジサンと言うのか?」

サツキナは慌てて「いえ、違います。きっと、あの方がルイス・アクレナイト侯です」と返した。

後は茫然と騎士を見詰めるばかりだった。




騎士はダンテ王とサツキナの前に来ると片膝を付いて胸に手を当てた。

冷静な顔でダンテを見る。

「ダンテ・イダロッテ大王。私はルイス・アクレナイトです。この度、リエッサ王妃に命じられ兵を引き連れて参りました」

ダンテ王は苦虫を嚙み潰した様な顔をしている。


「ああ……真司さんの声だ」

サツキナは懐かし過ぎるその声に胸が潰れる思いがした。声も出ないで騎士を見詰める。


「兵と言っても僅か30程。戦う積りは有りません」

騎士はそう言って立ち上がると無表情にサツキナを見た。


「ブラックフォレスト王国、第一皇女、サツキナ・イダロッテ姫。初めまして。私はイエローフォレストのルイス・アクレナイトです」

サツキナはまだ茫然としている。緊張したままにこりともせずにルイスを見詰めていた。

ルイスは暫く返事の無いサツキナを見ていたが、その視線を周囲の人々に向けた。



「ブラックフォレストの方々。お出迎え有難う御座います。さて、我々は長く親交をもって交流して来た両国です。争い事はリエッサ王妃の望むところでも、また私の望むところでもありません」


ルイスの言葉にダンテ王は大きく頷く。

「話し合いで解決しましょう。期限は10日です。それまでに何とか金を集めて500万ビルドをお支払いください。残りの300万ビルドは三か月後の結婚式までにお支払いくだされば宜しい。綺麗にお支払い頂いて、是非式に参列頂き、美しい我妻の花嫁姿をご覧になってください」

その言葉にブラックフォレスト側からどよめきが起こる。

「10日だと?」

「500万ビルド?」

「無理に決まっている」

ひそひそと話す声が聞こえる。

サツキナは眩暈がして来た。

血の気が引いて吐き気がして来た。立っていられない。

冷や汗がどっと出た。


「リエッサ王妃はお世継ぎを身籠っておられるとか」

ダンテ王が言った。

ルイスの顔が初めて和らいだ。

「そうです。アクレナイト家の子孫です」

彼はそう言った。

サツキナはきつく目を閉じた。



「10日間、我々は城の外に野営させて頂きます」

「10日の内に500万ビルドなど無理に決まっておる。200万がやっとなのだ。アクレナイト侯よ。我が国がいかに貧しいか見て分からぬか。我が国はイエローフォレストとは違うのだ。我が国は先の大戦からずっと貴国にブラックマッシュルームの販売利益の25%を支払っておる。それだけではまだ足らぬと言うのか」

王はそう返した。

ルイスは面々を見て無表情に言った。

「800万ビルドが用意できなければ、そうなれば王よ。現在の1/4税が1/3税になる」

そしてサツキナを冷たい目で見る。

「そして王女、サツキナ様を人質としてイエローフォレストへお迎え入れよというリエッサ様の御言葉である。借金のかたに我が城で預かると」

ブラックフォレストの誰もが騒めき、驚きの声を上げた。

サツキナはふらりと揺れてその場にぱたりと倒れた。

 

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