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椅子取りゲームで転生した先は弱小魔族の王女だった。【Ⅰ】  作者: 柚木 壱
魔族の国 ブラックフォレスト王国
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サツキナ・イダロッテ 1

魔族の王女、サツキナ・イダロッテは鏡に映った自分の顔をまじまじと眺めた。

漆黒の髪と長い睫毛に縁どられた黒曜石の瞳。

大理石の様な滑らかで白い肌。

整った鼻筋と唇。

流石にラブコメの主人公と言うだけあって中々の美人さんである。



だが、何故か頭にちょこんと2本の角が付いている。

サツキナは両手でその角を引っ張ってみる。取れる訳が無い。

「はあああ~」

深いため息を吐き、がっくりと項垂れる。

「何で私が魔族の王女に転生してしまったのか……いくら雪隠に落ちたからって……こんな人生ひど過ぎる」

サツキナ(峰 沙月)は呟く。

「……これ、何とかならないのかしら?」

何度も角に手をやる。


魔族の中には角の無い魔族もいる。

角の無い魔族は新魔族と呼ばれている。




峰沙月は雪隠に落ちてしまったせいで前世の記憶をもったままこの異界に転生したのだ。

(ついで)に椅子取りゲームの記憶も持っている。


前世では日本という国の令和という時代、東京で仕事をしていた。

勤めていた大手不動産会社大崎地所の出張でA国へ行った。


そこに向かったのは、副社長の大崎リエとその秘書の山田真司、そして営業部の小田、峰沙月だった。

東南アジアにあるA国に秘境のリゾートホテルを建造するという話だった。


沙月と山田真司は結婚を間直に控えていた。

しかし、その前の年、アメリカから離婚して帰って来た社長の娘、大崎リエは沙月の婚約者である真司を一目で気に入り、営業部にいた彼を無理やりに自分の秘書に異動させた。

彼女は二人の仲を裂き、真司を自分のものにしようとしていた。

真司はそんなリエに常に仕事モードで冷静に対処していた。

しかし沙月は気が気では無かった。



今時、あまりお目に掛からない小型プロペラ機で現場に向かう。

お偉い二人はビジネスクラス(何しろ発展途上国のA国のプロペラ機。一番前の2席のみちょっと広い)。そして沙月と小田はエコノミーシートに座っていた。他にも日本人が10人程乗っていた。


沙月は前の席の二人を出来るだけ見ない様にしていた。


そして事故は起きたのだった。

飛行機がジャングルに落ちて全員死亡。


その後、ミケツカミ様の椅子取りゲームを経て、何故か魔族に転生したのであった。


◇◇◇



ここ魔族の国ブラックフォレスト王国でのサツキナ姫の家族は……。


父親のダンテ王。

釣りが大好き。他の国からは釣り三昧の愚鈍な王とかのんびりさんとか陰口を言われている。

弟のロキ。

14歳。どこにでも転がってるフツーのやんちゃな少年である。


王妃であるサツキナの母サリー王妃は、サツキナが10歳の時に病気で亡くなってしまった。

今から7年前の事である。


サツキナ姫17歳。

まさに青春真っただ中の王女(しかし魔族、それも普通に旧)。

王の代理で政務に追われる日々。私の青春を返せとブチ切れたいサツキナであった。


そんな風に自分の人生についてぶつくさと文句を言っていると、こんこんとドアをノックする音が聞こえた。


「サツキナ様」

従者オダッチの声である。

「入れ」

サツキナは声を掛ける。

入って来たのはロン毛を後ろで縛った若者だった。


(同僚の小田が転生したのだが、前世の記憶が無い。転生先ではサツキナの忠実な従者となっている。一応、剣の達人という設定である)

オダッチには角は無い。新魔族である。



「イエローフォレストからの使者が参っております」

オダッチは言った。

「父上は?」

「ロロ湿地に釣りにお出かけになられたかと」

「また!?」

サツキナは驚く。

「昨日も釣りに行ったじゃ無いの!」

「はあ、しかし朝早くからお出かけになられて……」

「じゃあ、ロキは?」

「ロキ様もご一緒に」


サツキナは思わずくらりと眩暈がした。

「だ、大丈夫ですか?サツキナ様」

オダッチが慌てて支える。


「……大丈夫だ。しかし、親子揃って釣りバカ日記とは」

「釣りバカ日記?」

「昔観た映画だ。気にするな」

「映画??」

「……」


サツキナは首を傾げるオダッチをそのままに、どすどすと足音を立てて部屋を出て行く。

その後ろから従者オダッチが慌てて付いて行く。


「使者は誰?」

「いつものフロレス武官で御座います」

オダッチは答えた。



◇◇◇◇◇



サツキナは謁見の間に行くとどさりと音を立てて椅子に座った。

「イエローフォレスト王国の使者、フロレス殿。遠い所をご苦労であった。だが、生憎父王は不在故、私サツキナが要件を承る」

サツキナがそう言うと、フロレスは深く頭を下げた。

「ブラックフォレスト王女、サツキナ姫。ご機嫌麗しゅう」

低頭しながら頭の上に手紙を入れた筒を差し上げた。

「イエローフォレスト王妃、リエッサ様からの書簡で御座います」

脇に控えたオダッチがその筒を持ってサツキナに渡した。


サツキナはその手紙を読んで驚いた。

「リエッサ王妃は前夫ジョレス国王が亡くなられてから、まだ2年も過ぎていないのだが、再婚なさるのか?」

(マジで?)

「はい」

「しかし、喪に服すのは3年間と言う」

「リエッサ王妃はイエローフォレストの安全と発展の為にご結婚をなさるお積りなので御座います」

「……」

(嘘をつけ)

注;()は心の声。



「リエッサ王妃は婚姻の為の特別税を課すとな? これ以上の重税は我がブラックフォレスト国の民に飢え死にしろと言っているのと同じだ。これは到底飲めぬ」

サツキナは言った。

使者は低頭したまま答えた。

「特別税で御座いますれば、一時的な税であろうと」

「一時的であっても、この金額は無理だ。800万ビルドなどどう考えたって無理に決まっておる」

「それを拒否するなら魔族討伐の為の軍を派遣すると王妃は言っておられました」

「くっ……」

サツキナは唇を噛む。

使者は頭を垂れたままだ。

サツキナは額に手をやり、眉間に皺を寄せて考える。

(リエッサ王妃。今日にでも死んでくれないかしら……)



ふうっと息を吐いた。

サツキナは書簡を畳むと使者に向かって告げた。

「すぐに王と重臣達と検討をして、こちらから使者を送ろう」

「返事は次の満月までにとの事で御座います」

「承知した……。ところで、リエッサ王妃はどなたと結婚されるのだ?」

サツキナは尋ねた。

「アクレナイト侯爵様のご子息様、ルイス様で御座います。」

「ルイス・アクレナイト侯爵? 御父上であるジョージ・アクレナイト侯は何度かここへも訪れて来た事があったが……息子殿にはお会いした事は無い」

「ブルーナーガの海賊討伐でお忙しいので」

アクレナイト侯爵様もそのご子息にも海賊討伐の武勇伝が幾つも御座います。

我が国一の勇者であるとリエッサ王妃も褒め称えておられました」


「ブルーナーガか……」

サツキナはそう言って宙を睨む。




ブルーナーガ海上国家は多島国家である。

海上貿易のハブターミナルになっていて、盛んに各国の船が行きかう。

商人達は大型の船に乗り込み、遠く果てない異国にまで向かい、珍しい物を運んで来てはイエローフォレストやブラックフォレストの市場で売っている。

更に異国の文化も大いに取り入れ、科学、芸術伴に発展した国であると同時に経済的に豊かな国である。


ブルーナーガは連合国家である。最高機関は各部族の長による部族会議であり、連合国家の王は各部族の合議制で決められる。王であっても外に対しての単なる代表者と言う扱いであるので、政策に関しての決定権は持たない。


各部族の自治権が強い反面、その連合の緩さの隙を縫って海賊が跋扈しているのも、また否めない事実である。中には部族政府お墨付きの海賊もいる。ブルーナーガ海上国家は複雑に各部族の利権が絡まり合い、一筋縄では行かない。



「ルイス・アクレナイト侯爵」

どんな男かは知らないが、イエローフォレストのスズメバチと異名を取る程の女傑と結婚しようとするのだから、怖いもの知らずな男であることは間違いない。


「断った時には、またリエッサ王妃自らが軍を率いて我らを迫害しに来るのであろうか」

サツキナはそう言うと苦笑いをした。


リエッサ王妃の実父はハアロ大将軍である。イエローフォレスト西軍を統括する大将軍だ。昔、インディグラント川を行き来する船渡しの件でダンテ国王がジョレス国王と揉めた時、リエッサは軍を率いてやってきた。

お陰で船渡しの割合はイエローフォレスト2に対してブラックフォレスト1である。その不平等条約を何とか是正したいのだが、一度得た利権は決して放さないのが国家と言うものである。交渉は難航している。



使者は返した。

「いいえ、リエッサ王妃はすでにルイス様のお子様、即ちお世継ぎを身籠っておられます。なので、そのお役目はルイス・アクレナイト侯がなされますでしょう」


 

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