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椅子取りゲーム 2

一周目が終わった。

「次だな」

若い男がぼそりと言った。

私はドキリとする。

石、石と石を探す。

ああ、あんなに遠い。こうなったらあの革張りソファをダメ元で狙ってやるか!


たりらりらーん♪

たったらたったらたらりたりらーん♬


ふっと音楽が途絶えた。

「うわあああ!!」

誰もが雄たけびを上げながら椅子に殺到する。私の一番近くにあるのは学校で使ったあの生徒用の椅子だ。私はそれを目指した。夢中で走った。

だん!とどこかの太った女に突き飛ばされた。女は「これは私のものよ」と言って椅子にしがみ付いていた。死んでも離れない(もう死んでいるのだが)覚悟だ。

女の肉で椅子が覆われてしまった。

あちこちで椅子の取り合いバトルが派生している。悲鳴と罵声が飛び交う。

羽の付いた椅子は3人の女が取り合っている。髪を引っ張り合って壮絶なバトルだ。私は足が竦んだ。異次元の凄まじさだ。


ああ!「石」が空いている。

私は「石」を目掛けて走った。

と、向こうから石に突進して来るオヤジがいる。

オヤジは誰かと張り合って負けたらしい。鬼の様な形相だ。

オヤジよりも私の方が一歩早かった。私は石にしがみ付いた。

そんな私を卑怯にもオヤジは突き飛ばした。私は転げた。

「な、何すんのよ!」

「これは俺の物だ!」

オヤジは必死である。


転げたまま辺りを見渡した。誰も彼もが椅子に座っている。

そして椅子(石)から転げ落ちた私を見ている。


パイプ椅子に座っているのは、私の隣にいた青年だ。そしてその隣の白い羽付き椅子(ロココ調)に座っているのは、どこかで見た事がある……巻き毛の女だ。巻き毛は鴉の巣みたいにぐちゃぐちゃになっている。女は私を見てほほほと笑った。ソファに座っているのはめちゃくちゃガタイのいい男だし、ピアノの椅子に座っているのは子供だった。


「せーっちん」

誰かがぼそりと言った。

私はびくりとして声のする方を見る。

「せーっちん」

声は繰り返す。


「せーっちん」

声が増えた。

「せーっちん」

もっと増える。

「せーっちん」

手拍子が起きた。

「せーっちん」

大合唱になる。みんな手拍子をして足を踏み鳴らした。

「せーっちん」

「せーっちん」

「せーっちん」


私は泣きそうになりながら周囲を見渡した。一人一人の顔を見る。

その目が鉄の椅子に座った男の所で止まった。そこに座っているのは……あの剣で出来た趣味の悪い椅子に、さっき、私の前でこちらを見ていた背の高いイケメン男、気の毒そうな目で私を見ている。あの男は……。


嵐の様なせっちんコールの中、私は食い入る様その男を見る。

男も私を見詰める。

男ははっとした様に立ち上がった。

「何を突っ立ているの? 座りなさいよ、あ、ほら、せーっちん、はい、せーっちん」

羽の付いた椅子に座った女が手拍子をして言う。

「真司さん……」

私は呟いた。

「沙月……」

男は言った。

「沙月!」

男が走り寄る。

「真司さん!!」

私も立ち上がって走り寄った。

男が手を伸ばした。

が、その手を握る前にがくんと体が揺れて、私はぽっかりと開いた穴に転落した。

穴は突然目の前に現れたのだ。

「きゃあー!!」

どこまでも深い穴に落ちる。

「真司さん!!」

「沙月!」

「沙月―!」

彼の声が遠くなって行く。私は底知れぬ暗い穴の中をどこまでも落ちて行った。



「座った椅子のイメージがそのまま人生とは限らん」

遠くからミケツカミの声が聞こえて来た。そんな今更な話、何で、今頃言うんだよと思いながら私は暗い穴を落ち続けた。


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