全滅する村
しばらくの間、ステラは空中散歩を楽しんでいた。彼女の背中から生えた黒い翼は、風にそよぎながら自在に形を変えていた。コウモリのようでもあり、悪魔のようでもあるその翼は、魔族の力の象徴だった。
ステラはそのとき、人間狩りを楽しむつもりはなかった。あくまでも目標は情報収集。拠点の周囲を飛び回り、脅威になる様な者がいないかを調べる。そのつもりだった。
ふと、ステラの視界に粗末な木造の家が複数、目に入った。それは村だった。ステラは詳細を観察しようと村へと向かう。
そこには、人間がいた。まずは【鑑定】スキルを使用。村人たちのレベルを計測する。
「うそ……? みんなレベル1……?」
ステラの視線に入った村人たち。その数は数十人程だが、全員レベル1。ステータスもレベル相当で、当たり前だが、全員スキルを一つも持っていない。村の自警団らしい、弓を持って物見台から周囲を警戒している若者でさえレベル1だ。
「あはははは! もう駄目! 我慢できない! これ以上我慢したら! あたし、狂っちゃう!」
相手のレベルが低すぎて警戒する意味がないという現実に、ステラの自制心は吹き飛んだ。
ステラは素早く飛翔すると、砂埃をたてながら村の出入り口に着地した。
村人たちは空から降ってきたステラの姿を見て、恐怖に震えているようだった。
無理もない。コウモリの翼を持っている少女が唐突に空から降って降りてきたら、恐怖しかないだろう。何せ、背中から翼を生やすことのできる種族は、上級魔族や上級天使といった上位種族だけだからだ。レベル1の人間では、対処のしようがない。それを知っているステラは、にんまりとした笑みを浮かべる。
「あたしはステラ。今日は良い日ね? 獲物がこんなに見つかるなんて。」
ステラは、笑顔のままそう言った。もちろん、獲物とは村人たちの事だ。ステラはゲームアバターなだけあって美しい少女だったが、その笑顔には悪意しかなかった。彼女は人間の命を虫ケラ同然に見ていたからだ。
「逃げろ! 悪魔だ!」
「助けて! 誰か助けて!」
「神様! どうか私たちをお守りください!」
村人たちは悲鳴を上げて逃げ惑っって行く。しかし、ステラはそれを許さなかった。彼女は魔法【武器創造】を発動させて、刀身1メートルの剣を生み出した。そして、跳躍。近くで呆けていた老婆に斬りつける!
「ぎゃあああ!」
胴体を中央から真っ二つにされた老婆は、絶叫をあげて即死した。
「ああん! これが殺人! これが人の死なのね! 凄い! 凄く気持ちいい!」
はじめて本物の人を斬った感触に、ステラは快感を感じた。肉を斬り、骨を絶った手応え。
ステラの背筋がぞくぞくし、胸が高鳴った。彼女の子宮はきゅんきゅんと疼いていた。もっとよ! もっと! いっぱい殺さなきゃ! 殺人衝動に突き動かされた彼女は、残忍な笑みを浮かべる。
次の獲物は何にしようかな? あはは。村人のほとんどが蜘蛛の子を散らすように逃げて行く中、お腹の膨れた妊婦が逃げ遅れている。
「じゃあ、次はあんたね。」
ステラは跳躍し、妊婦に斬りかかる。
「ひっ!? ひぃいいい!!」
その妊婦は、恐怖のあまりに逃げることも出来ず、目玉が飛び出るほどに目を見開いて悲鳴を上げる。
【鑑定】スキルが教えるところによると、その妊婦の名前はテレサ。まだ若く、16歳のようだ。ステラの中で美咲の精神は思う。あたしは20歳でまだ、未婚なのに、この妊婦はもう結婚して子どもまで作ったんだなあ。ステラの中でモヤモヤした感覚が生まれる。それは、ひょっとしたら女の嫉妬的なものかもしれない? そう思いながら、ステラは容赦なく妊婦に斬撃を放つ。ザシュ、という音。同時に、妊婦の腹を切り裂いていく快感が腕からつたわってくる。腹を狙ったのはわざとだ。何となく、そこを狙うのが一番良さそうな気がした。斬撃のあと、腹の切り傷から胎児がこぼれ落ちてきた、ポトッという間の抜けた音が、微かに聞こえる。
「赤ちゃんが! 私の赤ちゃんが!?」
妊婦は、腹の傷どころではないらしい。慌てて地面に落ちた胎児を拾い上げ、お腹に戻そうとする。しかし、その手には血だらけの肉塊しかなかった。胎児はステラの剣で心臓を切り裂かれて死んでいたからだ。
「あはははは! 無駄よ。そいつ、もう死んでるから。」
【鑑定】スキルで胎児が完全に死亡していることを確認していたステラは、そう言って無邪気な笑顔を浮かべる。彼女は妊婦の絶望と悲しみを見て楽しんでいた。
「赤ちゃんが可哀想だから、あんたも殺してあげるわ。」
ステラは笑みを浮かべ、その剣をふたたび煌めかせる。ザシュ! ころころ。涙を流して絶望の表情を浮かべた妊婦の首は、綺麗に刎ねられ地面を転がって行く。
「あはははは! すごい快感! 妊婦の魂があたしの中に入ってくる! 胸があつい! これがリアルの経験値なのね!」
だが、ステラはレベル1800で村人はレベル1。レベル差から言って、入ってくる経験値は最低値の1だけだろう。ステラは冷静に分析する。それでも、経験値が実際に自分の中に入ってくる感覚は心地よい。
「クセになりそう。」
ジュルリと舌舐めずりしたステラは、村人たちを次々と斬り殺していった。彼女は、人間の血や肉片や臓物が飛び散る様子に興奮していた。彼女は、人間の苦しみや恐怖を見ることが快感だった。彼女は、人間を殺すことが生きがいだった。 村は血に染まり、人間たちの悲鳴や命乞いが村の中に響き渡った。村人たちの命は消えて経験値に還元され、ステラへと吸収されていった。
「ああああ!」
「やめてくれ! 殺さないで!」
「お願いします! 私たちは何も悪くないです! 許してください!」
だが、ステラは、村人たちの悲鳴に笑顔を深くしていった。
「うふふふ。なんて心地よい悲鳴なのかしら? 私ったら、濡れちゃいそう。」
そう言ってステラは、内臓が飛び出た男の子の死体を踏みつける。
しばらくして、ステラは、村人たちを全滅させた。彼女は、村の中に散らばる死体や血痕を見て満足気にうなずいた。
「あはははは! これが人間狩り! 凄い快感! もっと! もっと殺したい!」
ステラはそう言って、次の獲物を探す為に空に飛び上がった。