状況確認
「……待てよ?」
喜んだのもつかの間、美咲は首を傾げる。ゲームが現実化したのは良いとして、現状はどうなっているのだろうか?
可能性は大きくわけて二つある。
一つ目。ゲーム世界が、ただ単に現実化している場合。
二つ目。何故か、ゲームのアバターで異世界へ転移。
①の場合、他にもプレイヤーが多数いる可能性が高い。であれば、好き勝手に人間狩りを楽しむと、他プレイヤーからのヘイトを買ってしまい、色々とまずいことになりかねない……。
②の場合、異世界の国家や宗教、各個人の戦闘力について詳しく調べてから殺人を楽しまないと面倒なことになりかねない……。
「駄目じゃない……。どっちにしても、状況の把握ができて安全を確保するまで、人殺しを楽しめない……。」
しばらくは人殺しを楽しめないことに気づいた彼女は、床に崩れ落ちてorzの姿勢になる(念のために解説しておくと、orzは崩れ落ちている人間をもした顔文字で、oが頭。rが腕と胴体。zが足だ。と、美咲は脳内で誰かに言い訳した。)
「くっ! しかし、あたしは諦めない! 絶対に人間狩りを楽しんでやる! せっかくゲームのアバターが現実化したんだから!」
そう言って美咲は自分を奮い立たせると、まずは拠点内の探索に出かける。
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ステラが真っ先に向かう目的地。それは拠点地下の隠し部屋だ。そこには、重要なアイテムが秘匿されていた。寒気を伝えてくる石畳の階段を地下へと向かうと、そこにあるのは書斎だった。部屋に入ったステラは、まずは魔法のシャンデリアを起動。あかりを灯す。書斎の壁には本棚が並んでいた。中央には木製の机と椅子。机の上には燭台が一つ。ここまではゲームの拠点どおりだ。ステラは、本棚の本を手順通りに動かして、配置を変えていき、最後に燭台に火をつける。途端、重低音と共に、本棚の一つが下がっていき、隠し部屋が現れる。
ステラはゴクリと生唾を飲み込むと、隠し部屋に入っていった。
そこにあるのは、いくつもの鏡。どれも大型で、高さ2メートルほどのものだ。だが、重要な鏡は、そのうちの一つだけで、他は全てダミー。ダミーを無視して、鏡の中でただ一つだけ重要な物に近付いたステラは、その表面を指でなぞる。
途端、鏡が起動。数字を表示する。
【203】
それは、ステラの残機数だった。この数字の数だけ、ステラは死亡しても、デスペナルティー無しに復活できる。復活地点は、この鏡の前に設定してあった。残機は、お正月イベントでしか増やすことができないかなりレアな代物だったのだが、数年前の大型アップデートで改変され、レベル上限に達したアバターが経験値を蓄積していくと、一定経験値ごとに残機が増えるという仕様に変更された。
「うーん、本当に人を殺せるようになったのは良いけど、この残機ってどこまで信用できるのかしら?」
当たり前だが、残機はゲーム時代の仕様だ。この世界でも、残機が正常に作動するかどうかは未知だった。「まさか、実際に実験して確かめる訳にもいかないし……。」ステラはそう独白して地下室を後にした。
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「……拠点内部は異常なし。問題は、外ね。」
そう言ってステラは、窓から外を見上げた。そこには、太陽が二つ輝いていた。地球にしても、RSMにしても、太陽の数は一つだけだった。だから、この世界は、未知の異世界だと思って間違いないだろう。次にステラは目線を太陽から下に向ける。そこでは、鬱蒼とした緑が広がっていた。どうやらどこかの山の中のようだ。
「異世界転移かぁ……。小説の設定とかだと、異世界はレベルが低いのが定番で、レベル10で英雄級とかなんだけどなぁ……。」
流石に、そんなに都合よく行くわけはないだろう。もしかすると、ステラのレベル1800を超える様なチート級の兵士が、ゴロゴロいる世界の可能性もある。
「まぁ、まずは適当な人間を探して情報収集から始めるしかないわね。」
そう独白したステラは、窓から外へ出ると、背中の黒い翼を拡張。空へと飛翔する。




