プロローグ
香久夜坂 美咲はサイコパスである。彼女は、自分が異端であると自認していた。なので、本当の自分は外に出さないように努力していたし、その努力は今のところ成功していた。
美咲の抱える異端。それは、殺人衝動を持っているというモノだった。美咲は、物心ついた頃から、人を殺したくて殺したくて、我慢できないのだった。しかし、まさか実際に人を殺すわけにはいかなかった。そんな事をすれば警察に捕まってしまう。それでは、大好きな人殺しができなくなってしまう。でも、人は殺したい。美咲の殺人衝動は、小学生三年生の頃には、自分でも止められないモノに成長していた。
やむなく、美咲は、ゲームで殺人衝動を発散することにした。当時最新のフルダイブ型MMORPG『RSM』をプレイすることにしたのだった。
美咲のプレイスタイルは単純明快で、見敵必殺だ。見かけた人間は、プレイヤー・NPCを問わず殺す。ただそれだけだった。もちろん、返り討ちに遭って美咲のアバターの方が殺されることもしばしばあった。だが、美咲は毎日毎日、ゲーム内で人間を狩り続けていた。
そして、時は流れる。美咲が社会人になった日、ゲームはサービス終了日を迎えた。
「なんだかなぁ……。」
出勤初日の日の夜、1DKのマンション内で。カバンをベッドに放り投げた美咲は、スーツ姿のまま独白する。
「なんだかんだでRSMは、10年以上も続いていたわけか……。」
だが、それも、今日おわる。作り上げたアバターも、拠点も、何もかもが無に帰す。それは、十年以上も同じゲームをやり込んできた美咲にとって、半身をもがれるような虚しい虚無感を呼び起こした。
「明日からどうしよう……。」
どうしようも何も、別の殺人ゲームで殺人衝動を緩和するしかないよなぁ。胸中でそうつぶやいた美咲は、とりあえず今日まではRSMで人殺しを楽しむことにした。ヘッドセットを被り電源を入れ、ゲームにログイン。小学生のときから続けてきたいつもどおりの動作。何の不具合も起こらない筈だった。だが、この瞬間、マンションに雷が直撃。なぜか、避雷針を避けてマンション内の電線を直撃したそれは、超高圧電流をマンション内で放出。なぜかブレーカーも突破した雷は、内部にいた住民たちを感電死させる。
犠牲者は全部で11名。その中には、香久夜坂 美咲の名前もあったのだった。