不幸が続けば『幸せ』に
街から少し外れた場所にある、小さな宝くじ売り場。
そこに、1ヶ月前から俺は働き始めた。
人通りはそこそこあるものの、誰も見向きもしない。
接客が少ないだろう、この場所で働いてみたい……そう思ったのだ。
まあ、案の定だ。
買っていくのは、週末に来る常連の田之川さんとちらほらしかいない。
▪▪▪
開店準備を進めながら、俺はガラスに貼られた紙を見る。
(そーいえば去年の年末宝くじ、2等がここから出たんすね……)
2等っつーたら、100万円だ。
こんなひっそりとした店から、出たんだなぁ。
そんなこんなで、開店の10時になった。
「さて、開店」
▫▫▫
午後2時まで、この売り場は開いている。
尚、昼の12時から1時間は昼休憩で閉めておく。
まあ、今日も人が来ない。
(さて、ラジオでも聞きますかね……)
ポケットラジオの電源を入れる。
万が一、お客さんが来ても良いように音は小さめにしてある。
「あのぉ」
誰かがやって来た。
「あ、お客さんです?」
俺がそう返すと、目の前に居る人は頷く。
「……とりあえず、バレンタインくじ、ください……」
ちょうど今は2月に入ったところで、バレンタインくじの抽選がもうそろそろだ。
「一枚でいいすか?」
お客さんは頷く。
「いやー。バレンタインくじを売るの、初めてっすねー」
券を出しながら、俺が言う。
「……そうなんですね。私、ここ最近不幸続きなので、宝くじを買えば、当たるかな、なんて……」
「へぇ。当たるといいすね」
券に書かれている番号を控え、俺は渡す。
そのお客さんは、受け取ってお金を出す。
「ほんじゃ、ちょうど頂きました」
「ありがとうございました……」
お金をカウンター金庫に入れ、俺が再び前を向く。
(………あれ?)
さっきまで居たお客さんが、居ない。
アクリル板ギリギリまで顔を寄せ、見てみるが……誰一人見当たらない。
(おかしいな)
手元のメモには、さっき売った券の番号が控えてある。
そして、金庫の売上側には受け取ったお金がある。
(……幻覚でも、見たのか?俺は……)
一先ずは、そのままにしておこう。
何かあったら、防犯カメラもあるからな。
▪▪▪
もやもやしたものを抱えながら、バレンタインくじの当選日を迎えた。
俺は売り場にあるノートパソコンから、当選番号を見る。
「……あの売ったくじ券、当たっている」
何度も見直しても、あの売った券が当たっている。
(でもどうすんの、あれ……)
売った本人が見当たらなくなった件、どうも気になる。
「よぉ、にーちゃん」
田之川さんがやって来た。
「……あ、どうも、田之川さん。この時間に来るの珍しいですね」
俺がそう聞く。
「今回はたまたま通ったんじゃが、にーちゃんが不穏な表情を見せたからな。気になったんじゃ」
俺は事情を話した。
それを聞いた田之川さんは、表情を少し曇らせる。
「その客、どんな顔をしとった」
「……え、ええっと……」
唐突の質問に驚きつつも、どんな感じのお客さんだったか少し話す。
「その客、もしかしたらな」
田之川さんはスマホを取り出して、何かを調べ始めた。
数分後、俺の方にスマホの画面を突き付ける。
どうやら、交通事故の記事らしいが……
「この交差点って、売り場の近く……それに……」
亡くなった方が、あのお客さんだったのだ。
「ほうか。また死に人から、当選したんやな」
田之川さんがそう言う。
「……え、それはどういう?」
思いがけない言葉に、俺は聞く。
「あそこの交差点はな、事故多発区域じゃ。……ほれ、地蔵が居るやろ」
そう言えば、事故多発の場所に地蔵がある話は聞いたことがある。
「……んでな、ここら辺ちゅうのは、よく霊が出るらしいんじゃ。その霊が宝くじを買うと当たるっちゅう、曰く付きの売り場なんやで」
あの年末宝くじも、『霊が出したもの』らしい。
それを聞いた俺は、売り場を辞めようと思った。
なんだか、色んな意味で呪われそうな感じだったから。
『みんな、宝くじ……当たったよぉ……』