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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女は山羊に逆らえない。

作者: 神楽坂神楽

この漫画はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。

「ちょっと、ゆーくん!出て来なさーい!」


 部屋の下から声が聞こえる。外を見ると身長150cm程度の少女が叫んでいた。

 近所迷惑だ、と言いたいが、迷惑を感じるほど近所に家はなかった。見えるのは田んぼ畑ばかり。


「ほーらー!早く出てこないと、ゆーくんの秘密を1つずつSNSで拡散しちゃいますよー?」

「分かった!今行くから!お願いだからやめてあーみんさん!」


 俺は急いで着替え、家を出るのであった。




 昨日作っておいたハムトースト、冷えてしまっているがまぁいいだろうと口にしながら通学路に着く。

 学校までバスがあるわけでもなく、30分ほど歩く必要がある。ネットでこういう地域を「田舎」っていうんだと知った。都会では満員電車にもまれながら通学している人間もいると思うと、なんて窮屈なんだろうかと思う。

 ただ、田舎は田舎で、窮屈だ。町は広いが閉鎖した人間関係、閉鎖された社会。

 友達の誰がどこの会社の社長で、友達の誰かがその下で働いているなんてざらにある。

 閑話休題。そんな環境下にあるので、通学は毎日30分歩き、ぐうたらと時間を過ごして帰る。

 そしてそこにこの「あーみんさん」が一緒に居るってだけだ。


「ところでその、「あーみんさん」っていうの、そろそろやめませんか?あーみんでいいのに」

「あーみんさんは2個上の先輩じゃないですか。先輩にはさん付け、当たり前のことです」

「ぐっ…小さい頃はあーみん!あーみん!って寄ってきて可愛かったのに…」

「一体いつの話ですか…」


 幼稚園の頃の話だろうか。確かにあの頃ならあり得るかもしれないが…今更掘り返すんじゃあない。


「ところで、」


 と区切って彼女は、こちらを見る。というか睨めつけてくる。


「昨日のこのSNSの呟きは、一体なんでしょうか。この何を言ってるか分からない文章、多すぎる誤字、そしてヘビが現れたと」

「いや、ヘビが出たんだよあーみんさん!液晶からヘビが―――いや、黒いヘビのような何かがうじょうじょって出てきたんだ!」

「それです!もう昨日の呟きを見てまたやってるなって思いました!しかもバッドな方に行って…私しか見れない呟きだからいいけど…」


 何の話だろうと思う。

 俺が第三者だったらそりゃそう思うだろうさ。

 普通液晶画面からへびなんか出てきはしない。つまり、俺だけに見えていた”幻覚”。


「しょうがないでしょ、眠れなかったんだから」

「しょうがないって…いや、それは仕方ないですけど!だからってそれは飲み過ぎです!」


 「ゆーくん」と呼ばれた俺は、不眠症になってしまい、薬を飲まないとろくに眠れない体質を持っていた。それも、処方量以上の量を。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 不眠症になったのはいつからだったか。ただ、物心ついたころには寝つきが悪かった。寝たいように眠れない、眠りたいのに眠れない。

 遊んでるとかじゃない、ゲームしてるとか本を読んでるとかでもない、真っ暗な部屋のベッドで横たわっているのに、眠ることが出来ないのだ。

 そしてある時を境にそれは悪化し、夜は眠れないのに朝は早起き、つまり睡眠不足が祟って倒れてしまった。

 正直に状況を話すと、遠くにある精神科を勧められた。不眠症だと診断された。

 帰って寝る前に薬を飲んだ。するとこれまでの寝つきの悪さが嘘のように眠りにつくことが出来た。

 俺はそこで薬の凄さを感じた。


 それからしばらくはとても”良かった”。これが普通の人間の生活なのかと驚愕さえした。

 しかし、しばらくしてその生活は少しずつ落ちていった。薬が効きにくくなっていったのだ。耐性を得た、というべきか。

 そして俺はダメだと分かりつつ、薬を飲む量を増やしていった。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「まぁ、それくらいなら、ギリギリ良かったかもしれませんが」とあーみんさん。


あの後なんだかんだと学校に付き、各々教室に向かったのだが、帰りは待ち伏せされていた。

当然、捕まった。逃げる気もなかった。


「そのあと市販薬のオーバードーズ(過剰摂取)を始めたり、合法大麻成分を通販で買ったのはいかがなものなのでしょう」

「ついでに眠剤の輸入もしてる。勿論全て合法だ」

「うわー、遂に誇らしげですよ!なんだかなぁ、法的にはグレーゾーンだし、ゆーくんに薬が必要なのはわかりますが…」

「え、つまり容認ですか!?」

「うーん、飲むこと自体はいいの。問題は飲んだ後。変な呟きしたり、1人の時なんて嘔吐したりしてるでしょう?だから、私は心配しちゃいます」


 変な呟きはともかく、何故嘔吐してるのがバレているのだろうか。

 あれは話したことないはず。


「だからね、思ったの。私が側で、見ています。ゆーくんが眠れない時、私は横にいましょう。ゆーくんがお薬飲んで異世界に行ってしまったとしても、私が側にいてこの世界に引き留めてあげます。一緒に住みましょう。それで、どうでしょうか」


 それは―――。どうなのだろうか。確かに互いに一人暮らしで、親は金をどこかから送ってくれるだけ。親という条件はクリアされている。(だからこそ俺が薬を飲めるともいうが)

 しかし、流石に男女で一緒に住むというのは…。倫理的にどうなのだろうか。一応、俺たち高校生なんだけど。


「大丈夫です。私が、なんとかしますから」

「なん、で、そこまで」

「私があなたの幼馴染でお姉さんだからですよ!」


 お姉さんと言えど、年齢で言えば1年と4か月程度しか変わらないくせに何を言ってるのだろうか。

 そうは思っているのだが。

 


「やっぱり、あーみんさんはあーみんさんだよ」

「え?」

「いーや、分かったよ。好きにしてくれ」



 結局、乙女座の俺は山羊座の彼女には逆らえないのであった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ゆーくんが不眠症を悪化させた女。あの女には感謝しなければいけないのかもしれない。

 本人はもう忘れてしまっていたが、ゆーくんは中学時代に酷い女と付き合った。

 可能な限り束縛し、思いのままに罵倒し、泣きながら別れたくないと叫ぶ女。

 その終わりは、あの女の浮気によって告げられることとなった。

 心を擦り減らして、自分の心に逆らってまで尽くした彼女。それに浮気されたことで彼のストレスは限界を迎えて不眠症という形になって表れてしまった。

 精神科に通った後、薬を飲むようになって彼は少しずつ元気を取り戻していった。あの女のことも、考えなくなっていったようだ。

 そして、今。

 彼は薬にハマってしまった。過剰摂取から抜け出せないようだ。

 …。だが、それがいい。

 普段の彼も、狂った彼も、その全てを見られるのだから。

 その全てを、間近で見られることになったのだから。


 命に危険がないようには私の方で調整しないとな、と思索するのであった。。

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