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星魔導士アリアは戦わない。  作者: 一ノ瀬からら
第一章 アリアを導く星
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1.42 クエスト受注

「ではぁ、剣士(ブレイダー)ユキ様、魔装騎士(ルーン・ガードナー)ウェイド様、修道女(シスター)ソニア様とぉ……星魔導士(マテリアシーカー)アリア様でパーティ申請ですねぇ」


「よろしく」


 受付嬢はちらりとアリアの方を見てから、パーティ申請書に向き直った。

 やはり星魔導士は色眼鏡で見られている、とアリアは雪色(スノーホワイト)の髪を指に絡めていじける。


「皆様クエスト受注は初ということですので、紹介できる難易度はDクラスのものだけですね」


「難易度って?」


「クエストを受注する際の目安です。依頼者の証言、周辺の土地の生態系、また自然の理から外れた存在――文明を持つ亜人種の変遷も参考にして決められます」


「ふぇー色々あるんですねー」


「しかしあくまで目安。アクシデントによる難易度の変化は想定しておいてください。私共では調査しきれないことはあります。例えば千年級の封印や伝説が単なる童話として受け継がれている場合も――」


「ははは! 任せておけ! 俺とユキがいればアクシデントなど起きはしないだろう!」


「いえ、そういう話ではなくて――」


「回復も大丈夫だ! ソニアは小柄だが治癒術の腕前はいいからな!」


「だからそういうわけじゃ……もういいですぅ!」


 必死に説明しようとしていた受付嬢だったが、ウェイドの主張が強すぎて諦めたようだった。

 可哀想だな、とアリアは内心で同情した。


「んーと、Dランクでもクエストって色々あるんだねー。選び方って、どうするのがいいのかな?」


「分からん! ソニアは分かるか!!」


「わ、私は危険なものでなければ、どれでも……」


「危険でないクエストなどないだろう! ソニアは面白い奴だな!! 全員分からないとなればユキが選べばいいんじゃないか!?」


「俺? えーと、ゴブリン、コボルト……」


 Dランクのクエストが乱雑に貼り出されたボードを眺めて、ユキは唸る。


「あれ、なんだこれ、ウッドオーク? 木の採取とか?」


「い、いえぇ……それは、木に魔力が宿って、攻撃的になってしまった魔物、です……も、元は精霊、なのですが……」


「へぇ。ゲームなんかじゃそういう背景は気にしたことなかったな……。街道を通る行商人がウッドオークに襲われる事件が多発、駆除してほしい……か」


「そいつは擬態するため手ごわいと聞くぞ! 見分けがつかなければ森で野宿を封じられたも同然、つまり短期決戦が求められる!」


「けど、楽な仕事じゃ4人だと収支マイナスになるくらいの報酬しかもらえないみたいだし、このウッドオークがDランクじゃ一番高い。見分けさえつけば……」


 見分ける方法に悩む一行だったが、一つの星魔導具(マテリアーチ)を思い出したアリアが手を挙げた。


「あのー。魔物って魔力の生体化だよね? 魔力が流れてるなら、私分かるかも」


「アリアが?」


「待て! 魔力の判別は難しいぞ! 魔力は詠唱して変質させた魔法か大量の魔力じゃないと目視できない! ウッドオークは厄介ではあるが単体の戦闘能力は極めて低い! 肉眼で見分けるのは不可能だ!」


「は、はい。ウッドオークの体表魔素――いわゆる『魔法射能』は、観測魔法でも誤差に取れてしまうほど微弱なのです……数はまばらで、群生でもしていない限りは……」


「肉眼では難しいと思うけど……実は私の使える星魔導具(マテリアーチ)にね、内側の魔力を見るのが得意な子がいるの。あの子なら森の中でも魔力を辿れるんじゃないかなーって」


「なるほどね……それならいけるかも」


「けど、も、もう一つ、問題があって……」


「問題って?」


「あまり知られてませんが、ウッドオークには毒が、あるんです……え、枝に付いた棘に小さな管が通っていて、アコチニンという毒素が微量に分泌されるので、初期症状に嘔吐や痙攣。次第に呼吸困難に陥り、量が多ければ心臓麻痺で死に至ってしまい……」


 何の本も見ず滔々(とうとう)と語るソニアの姿に、アリアは口を開けたまま固まってしまった。


「――というわけで、ウッドオークと戦う際の解毒剤の調合は……あっ、ごごご、ごめんなさいぃっ……! 私、ついお話しすぎちゃって……」


「む、難しい話で全然分からなかった……! でもソニアさんって随分魔物に詳しいんだねっ」


「ま、魔物というか、植物についてなら、多少……」


「謙遜するな! ソニアの実家は薬師でな! 植物や薬に関する豊富な知識がある! 先ほどもクエスト中に調合できるよういくつか基礎薬草を買いつけに行ってもらっていたのだ!」


「治癒魔法以外にも治療が出来るのか……すごいな、ソニア」


「と、というか、それしかできなくて……本来は聖法での攻撃も覚えなければならないのに……ごめんなさい……」


「それだけできれば十分だよ。攻撃は俺に任せればいい」


「は、はいぃ……ありがとうございますぅ……!」


「え、ちょっ、どこに!?」


 褒められたことが恥ずかしいのか、ソニアは手をぶんぶんと振りながら後ずさりして人込みの中に消えていった。


「ウェイド、ソニアが消えたんだけど……」


「うむ! 戦闘、索敵に治療! こなせる条件はしっかり揃ってるじゃないか! これに決めよう!」


「聞け! 話を!」


「受付嬢、これを!」


 可能性があると見るや、ウェイドはボードからウッドオークのクエストを引き抜いて受付カウンターに叩きつけた。

 その勢いのよさに驚きもしないで、頬ひじをついた受付嬢は仏頂面でそれに目を通す。


「……ようやく決めたんですねぇ」


「あぁ! 決めたぞ! 俺たちは明朝、このクエストに赴く!」


「はぁ……そうですかぁ」


「受付のお姉さん、さっきのウェイドさんのこと絶対に根に持ってるね……」


「でもウェイドは気づいてないな……」


 自分たちも含め性格に難ありなメンバーだなと、アリアとユキはため息をついた。


「はい、受注は完了ですぅ。依頼完了後は、遂行したという証拠を忘れずにお持ちください。大概は駆除対象の素材を持ってきますかねぇ」


「あい分かった! では失礼する!」


 軽やかにコートを翻し、ウェイドはこちらに戻ってきて受注証明書をユキに渡した。

 連絡にラグのあるこの世界では、人的問題があった場合にこういった証明書が効力を発揮する。

 証明書を眺めながら、ユキは一つ大きく深呼吸する。


「ついに始まるんだな。クエストが」


「……そうだな。俺の身体が、早く訓練の成果を出したくて疼いているぞ」


「あはは、緊張するね~……」


「は、は、はい……怖いですぅ……」


 いつの間にか戻ってきたソニアを合わせて、ようやく僅かな緊張が走りはじめた。

 認識したのだ、戦いが明日にはついに始まることを。


 アリアは誰にも言えず、不可能な祈りを胸の内に秘めた。


 誰も傷つくことがなければいいのに……と。

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