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とある転移国家日本国の決断 外伝  作者:
瘴気内から来た異邦人
41/42

忘却の故郷 出会い

 太古の森の生物が一生を終わらせる場所である腐国は、その名の通り腐敗臭と死臭が充満している。生物相も相応の生物が生息しており、外界の人間が長く生存できる場所ではない。それどころか、国民の9割を占める魔族でさえも住みやすい場所ではなかった。

 腐国内に外の環境がある場所は限られており、そのどれもが教会や公園などの公共施設となっているため、王族が人目を気にせず外の世界を体感できる場所は、奇跡的に見つけた「秘密の聖域」以外に無い。


「誰かいるの! 」


 ルテア・デルフィニウムは、招かざる侵入者を一瞬睨み付けた後、直ぐに普段の表情へ戻る。自分だけの聖域が見つかってしまったのは甚だ遺憾だが、王族としてしっかり国民へ接しなければならない。


「あっ、あの・・・」


 私がいるとは思っていなかったのか、彼女は戸惑っているようだが・・・始めて見る顔だ。どの家の隠し子であっても王族は全ての国民を把握しているため、私の知らないクジョー人はいないハズなのに、該当する人物がいない。


「はじめまして。貴女はどこの家の子なの? 」

「・・・赤羽家です。」


 王族を知らない腐国人はいない。それにもかかわらず、目の前の同族はマナーを無視して王族に接している。まさか・・・


「ごめんなさい。私は全ての同族を知っているはずなのに、貴女の事を知らないの。貴女は何処から来たの? 」

「私は・・・」




スーノルド帝国大学

 世界最高峰にして最大規模を誇る帝大は、一つの国家と表現しても過言ではなく、あらゆる設備が整えられている。

 多くの学生がいるため、3ヶ所に大きな学生寮があり、学生は各学部によって振り分けられるのだが、例外もある。基本的に大学内で外の身分は意味をなさない事になっているものの、一国の王族や指導者の子供、魔族や魔女といった者も大学は受け入れているため、不測の事態が起きないように様々な配慮がとられている。その一つが3大寮のどこにも属さない独立寮であり、大学内の人目に付き難い箇所に建てられていた。


 ダーグル・スタードリンカーは、引っ越し先である独立寮の前で立ち止まって辺りを見渡す。


「男なのにだらしないわね。」

「ホ、ホスさん? その荷物、50キロはあるよ。」


 左には、自身の腰ほどの身長しかない男女が荷物を運び込んでいる。男の名はフロド。不動産王ブライアハート家の小人族だ。女の名はエリン。ホスマリンユナイテッド取締役の一人娘。重量物を軽々と持ち上げているのは、彼女がドワーフだからだろう。

 右にはサムライと狐目の男が自己紹介をしている。サムライの名は「ビセット・マージ」。サムライは騎士のような存在だが、アーノルドの隣国にしかいない希少職だ。かの国には鎖国と呼ばれる独特な文化があり、帝大に入学する者はほとんどいない。あのサムライは3大寮にいたはずだが、彼もこの寮に移動となったのだろうか?

 狐目の男は有名人だ。「アカシアのラル」。元暗殺教団の名門「アカシア」の血を引く男・・・

 皆、かなりの大物だが、アーノルドの正統貴族であるスタードリンカー家の者が、この寮へ移動となったのには理由がある。それは、一週間後に高貴なお方が独立寮に入られるため、それまでに学生の危険度を見極めて対処しておかなければならないのだ。

 ダーグルの見解では、ブライアハートとホスの2人は安全な学生と判断している。ラルは世界でも危険な一族の末裔だが、アカシアが廃業を宣言して300年以上経過し、その間に問題を起こさなかったことで主要国から敵視されなくなっているから問題は無い。サムライを隣に配置したのは、大学の方も万が一を警戒してのことだろう。

 この寮にはあと4人の学生が入寮する予定になっているが、この調子なら問題のない人物が選ばれた可能性が高い。

「流石に、聖女様の学友は選抜されているか。」

 ダーグルは大学の配慮に胸をなでおろしつつも、入学前のイメージと異なる現実に物足りなさを感じてしまう。曰く、王族は帝大で神竜教団や魔族との接点を持つ。曰く、知識と高度な技術を求めて在学中のみ魔女に弟子入りする学生がいるetc

 これらは所詮、尾ひれのついた噂に過ぎなかったと言う事だ。


「ちょっと! そこいられると邪魔なんだけど。」

「ん? あぁ、すまない。」


 入り口の前に立ちすぎていたようだ。

後ろから声をかけられたダーグルが振り返ると、そこには3人の女性が立っていた。声をかけた黒髪の女性はロマ人だろうか? その後ろには長身長と低身長のエルフがいる。俺が貴族だと知らずに声をかけたのだろう。いくら帝大内とはいえ、身分をわきまえてもらわなければならないな・・・ん???

 なんだこれは! 声をかけて来た女性からは魔力が全く感じられない。そして、2人のエルフを見たダーグルは全身から血の気が引く。

 後ろのエルフは服装から魔法使いとその助手であると分かるが、魔法使いの顔には見覚えがあった。


国際指名手配魔女「深森のメイル」

 

 この魔女は歩く準超兵器と言われる一級の危険人物であり、ダーグルの手に負える相手ではない。


「急に震えてどうしたの? 」

「それは私の顔を知っているからでしょう。」

「・・・」


 迂闊だった。魔女は自身の魔力波をコントロールする事で民衆に紛れ込むことが出来ると知識では知っていたものの、こんな形で出会うとは考えてもいなかった。しかし、迂闊なのは魔女も同じ! 俺は聖女様に害となる危険人物の顔を全て暗記していたことで、一目で深森の魔女であることを見破った。そして、帝大内で使用が禁止されている死霊術を行使するとは愚かな行為だ。

 禁止行為は直ぐに学長が察知し、然るべき処置が行われる。帝大の学長は神竜に唯一対抗できる生物であり、如何に魔女とはいえ、手も足も出ないだろう。


「フフフッ」

「言っておくけど、私は学生で、死霊術で操られた傀儡じゃないから。」


 笑みを浮かべるダーグルに対して、白石小百合は呆れながら誤解を解こうとする。

 実のところ、大学に来て同じ反応をされたのは、これで3度目だ。魔女と日本人が一緒にいる構図は、魔女が死者を操っているように見えるらしい。メイルとは大学の裏窓口で出会い、同じ寮という事で自己紹介しながら一緒に歩いてきたのだけど、どうも彼女と一緒にいると勘違いされやすいようだ。


「小百合より、駒の方が魔力はあるの。貴方、本物の死霊術をまだ見たことないでしょう? 」

「なっ! 」


 彼女がフォローしてくれたが、図星のようだ。この世界では、死者を蘇らせる行為は重犯罪で、死者を魔法で動かすだけでも罪とされていることから、死霊術を見たことのある人間はほとんどいない。

 ・・・とは言うものの、魔法で動かすわけだから、死体が相当量の魔力波を発する事くらい簡単に予想できてもいいはず・・・ひょっとして、この男は頭が残念なのでは? と、小百合は考え始める。


「白石小百合よ。瘴気内国家「日本」から来たの。貴方は? 」

「俺はフィルナー・スタードリンカーが次男、ダーグル・スタードリンカー。アーノルドの正統貴族だ。先ほどの非礼は詫びよう。」


 聞くからにめんどくさそうな肩書にも関わらず、意外と行儀がいいので小百合はダーグルの見方を少し修正する。


「ほら、メイルも自己紹介。」

「・・・私がメイル。こっちが弟子のポプル。」


 ? 一体どういうことだろうか。助手だと思っていた人物がメイルと名乗り、魔法使いを弟子と紹介したことで、ダーグルは混乱する。


「お初にお目にかかります・・・」

「メイルは厄介なことに巻き込まれているから、身分を隠して入学しているのよ。」


 ダーグルのぎこちない挨拶を見て、小百合は誤解のないようにメイルの事情を話す。

 メイルは「深森魔法」と呼ばれるエルフのみが使える特殊な魔法を使用できる数少ない人物である。深森魔法は自然界がエルフにのみ与えた魔法だが、影響が広範囲に及ぶために大昔から使用が禁止されていた。エルフの感覚でも長期間使用が禁止されていたため、現在では使い手が激減し、深森魔法の伝承と共にエルフ固有の文化まで失われつつあった。

 メイルは弟子の最終試験で実際に深森魔法を使わせるため、どんなに強力な魔法を使用しても周囲に被害を出すことが無い帝大の施設が使える学生になる必要があったのだ。


「・・・」


 ダーグルに自身の事を説明する小百合を、メイルは複雑な感情で見る。

 メイルは入学にあたって身分を偽称して入れるように帝大側と数年に渡って交渉を続けて、やっと入学が認められていた。弟子にメイルを名乗らせ、自分は魔力を制御することで一般人の使用人を装い、架空の戸籍で学生として入学したのだが・・・入寮初日で小百合に全てを見抜かれてしまった。

 弟子の試験を安全に行える最初で最後の機会を逃すわけにはいかず、かと言って大学内で口封じなどできるはずもなく、メイルとポプルの入学準備は水泡に帰してしまう。

 小百合はメイルの正体を言い当ててから、彼女から殺気のこもった視線を受け続けているが、利子と相部屋で寝泊まりした倭国での生活に比べれば心地良い殺気である。


「事故で遅れているけど、もう一人は私の連れよ。」

「魔力を待たぬ者が何を学ぶというのだ。」

「それなんだけど、私の連れは魔族よ。あと、私に使えない魔法は無いわ。世界最高峰の知識を身につけにきただけ。」


 魔族と聞いてダーグルは驚愕するが、それはメイルとポプルも同じだった。魔族はエルフを好んで食し、先祖の中には家畜にされていた者もいる。魔族が駆逐されてからも、エルフ社会はおぞましい過去の記憶を忘れる事無く伝承されていた。


「「魔族と同じ寮に住むなど、不可能だ。」」


 3人の考えが一致する。


「大丈夫、私は半年で慣れたから。彼女は・・・」


 小百合は3人に利子が脅威ではない魔族であることを説明する。利子が到着した時に、ある程度準備ができていればトラブルは少なくなるだろう。

「感謝しなさいよ、利子」

 一足早く大学に着いた小百合は、足場を固めていく。



「良い事聞けました。今日来ていない寮生ですが、1人は聖女様ですよ。」

「おぉ、聖女様と学べるとは、なんという幸運! 」


 ラルは研ぎ澄まされた聴覚によって、正面入り口での話を盗み聞きしていた。そして、ラルの話によって聖女が来ると分かり、ビセットは自身の幸運を神に感謝する。


「もう一人は魔族の女性みたいです。」

「むぅ、妖か・・・相手にとって不足なし! 」

「聖女様だけでなく魔族まで来るなんて、帝大ならではですね。」


 狐目のラルは更に目を細め、ビセットはまだ見ぬ強敵(学友)に武者震いをする。魔族相手に自身の技術が何処まで通用するか試す、またとないチャンスだった。


 様々な思惑がある中、人々は運命的な出会いを果たすこととなる・・・

大学編の人物を出してみました

ダーグルは利子と共に独立寮のマスコットです

メイルとポプルは独立寮の主戦力となります。ちなみに、ダニエルによるとメイルB、ポプルEだそうです。

アカシアは表向きには暗殺家業を止めましたが、裏ではまだ現役です。ラルは裏には出ない表の人間です。

ビセット・マージは武士の家系で、かなりお堅い人物です。小百合のお気に入りになります。

エリン・ホスは常識人で一般人みたいなお嬢様です。ダニエル「D」

フロド・ブライアハートは草食で無害を装った真面目系クズですが、周囲が濃いので影が薄いです


皆、魔族を警戒していましたが、利子を見て魔族のイメージが崩壊します

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