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とある転移国家日本国の決断 外伝  作者:
瘴気内から来た異邦人
34/42

利子とヘレンのサバイバル その2

「そんな、そんなはずない! 」


 へレンは声を荒げて端末に叫ぶ。会社は危険な仕事に従事している者には相応な対策を講じており、飛行艦が墜落した場合は大陸のどこであろうと2日以内に救助隊を派遣する決まりとなっている。


「・・・赤羽さん、今の声はどなたですか。」


 部外者の存在を知り、利子の担当者である国崎は状況を問う。


「ヘレンは墜落した飛行機の生存者です。それよりも国崎さん、助けは呼べないんですか? 」


 利子は簡単にヘレンの説明を行ってから国崎に助けを求める。瘴気内から瘴気外への通信手段が自分や小百合の持つ端末以外に無い事を理解していたが、利子は国と連絡がとれたことで「どうにかなるのでは?」と淡い考えを持っていた。


「それはできません。そちらの現在位置を確認できたら、人のいる場所まで案内します。とにかく自力で脱出することを考えてください。」


 結局、殺人鬼達が出没する森を自力で抜けなければならないようだ。覚悟はしていたが、国の影響が全くない外国で遭難するという意味を利子は身をもって体感してしまった。


「仕方ないか、ヘレン、洞窟にって、え? 」


 利子が振り返ると、そこにはヘレンが泣き崩れていた。彼女は会社の救助隊が来ることを信じていて、数日待てば助かると確信していた。どうにかなると考えていたのはヘレンも同じであり、非常な現実を目の当たりにして心が折れてしまったのだ。


「どうしたのヘレン! 大丈夫? 」


「私、会社に、捨てられた・・・」


 利子が何か話しかけているが、言葉が頭に入ってこない。

 短い間に色々ありすぎて・・・私は何度も死にそうになったけど生き残って、皆もランバートも死んじゃっても生き残って、助かると思ったら会社に見捨てられて・・・

「利子は嘘をついている。きっと1人芝居を打って、私を騙して食べるつもりだ! 会社が社員を見捨てるはずない! 」利子の通信機から聞こえてしまった情報を信じられず、強がった私はとんでもないことを考えつくが、一瞬にして自分に否定される。利子が私を食べるつもりなら最初にそうしているし、彼女が人を騙せるような人物でない事は短時間で分かっていたことだ。

 自分ではどうすることも出来ない気持ちを抑えきれず、私は声をあげて泣いていた。


「もう夜だし、今日は寝て難しいことは起きてから考えよう。ねっ。」


 泣き崩れるヘレンを利子は優しく抱きかかえて洞窟へと連れて行く。




利子とヘレンが洞窟に戻った頃


 セシリアと小百合の乗る飛行艦は人口10万都市の飛行場に降りていた。この都市は太古の森に近い関係で傭兵ギルドが支所を構えており、2人は捜索隊を雇うべくギルドを訪れていた。


「傭兵がいないってどういうこと! 」


「どの国も東に軍を派遣しているから、国内警備に傭兵をつかっているんだ。ここだけじゃない、何処の支所も空の状態だ。」


 セシリアの問いに鹿人の受付が無表情で対応する。


「傭兵ギルドでしょ! 日雇いはいないの? 」


「姉さん方は最近人里へ? 日雇い制度は100年前に廃止されましたよ。」


 セシリアと受付の交渉を横目に、小百合はギルドのパンフレットに目を通していた。

 発足当初は戦士ギルドとして始まり、時代の変化で戦士が名誉や名声では生活が出来なくなった事で傭兵ギルドとなり、国家権力や他の敵対ギルドから戦士の地位と権利を守るために各地の傭兵組合が協力することで現在の形となる・・・

 100年戦争終結後、傭兵の中からゲリラや過激派、犯罪組織に加入する者が続出、クライアントの依頼を守らない傭兵の増加等、大陸各地でギルドの傭兵が問題を起こしていた。この問題を深刻視した組合は大幅に下がった信頼を回復するべく、新しい能力試験を導入し人格判断を踏まえて厳格にランク分けを行うことで、組織全体で質の向上を図った。その結果、日雇いなどの太古から行われていたシステムが廃止され、傭兵志願者が仕事を受注できるランクとなるまでには多くの壁を越えなければならず、傭兵全体の質向上と引き換えに人手不足を招いていた。


「へぇ、名前の割には行儀の良い組織ね。」


 次に小百合は料金表に目を通す。傭兵は1人から雇うことができるが、その場合はボディーガード等に限られていた。逆に治安維持や魔物駆除といった仕事は傭兵団のみが受注可能であり、個人の傭兵にそのような仕事は回ってこない仕組みになっている。


「凄い・・・」


 雇えても人型ロボットが限界だろうと考えていた小百合は、報酬次第で戦闘機から軍に匹敵する戦力まで雇えることに衝撃を受ける。


「ふむ、この内容なら同時受注可能かな・・・私です、はい、スパバレーの件と合同で行えると判断します。」


 受付の鹿人はセシリアの依頼内容を確認して、何やら外部と連絡を取り始める。


「ふぅ、何とか傭兵が雇えたわ。」


 セシリアは大きく変わってしまった傭兵ギルドの受付に悪戦苦闘しながらも、傭兵を雇えたことに安堵して小百合に報告する。

 依頼内容は、何処の国にも属していない「太古の森」に墜落した飛行艦から、積荷の魔物を回収するという高度なものであり、更にゲリラの蔓延る地帯、太古の森にせいそくする危険生物の襲撃危険、クライアント2名の同行という負荷設定がある。これで回収する魔物がBクラス以上の危険生物だったら、傭兵の派遣は断られていただろう。


「ん? 教授、利子って特級じゃなかったかしら。」


 危険生物の等級は一般人でも駆除可能なFクラスから、駆除や扱いに専門知識が必要となるCクラス、人機等の高度な兵器の使用が求められるBクラスといったように危険度が上がっていくが、生態の良く分からない危険生物は特級に分類され、Bクラスと同等の扱いを受けていた。


「そこは交渉次第で何とでもなるわ。」


 セシリアは利子の危険等級を伝えておらず「人懐っこい新種の魔物」として、傭兵に危害を与えない事を伝えていた。


「何? そのガバガバ審査。」


「私達もモタモタできないわ。傭兵が到着するまでに太古の森への通行許可をとらないと。」


 救助隊の準備は着実に進んで行く・・・




次の日


 利子とヘレンは原住民の集落を探すべく移動していた。利子は昨日の事でヘレンが心配だったが、起きた彼女は心の整理が出来たみたいであり、生き残るべく前向きに行動を起こしている。


「そこまで辿り着ければ助かるわ。」


 太古の森には原住民がいる。ヘレンは知識でしかその存在を知らないが、小規模な集落が各地に存在しており、外の地図にも記載されている大きな町もあるため、墜落地点から割り出した大きな町へ向けて移動しているのだった。


「でも、どうやって見つけるの? 」


 利子は広大な森の中から集落を探し出すのは、とても無理なように感じる。


「森全体が彼等の縄張りなの。狩猟採集で暮らしている彼等は、集落同士で争いにならないように消えない痕跡をつけたり、ランドマークを置いてるって何かの本で読んだことがあるわ。あればすぐわかるはず・・・」


「痕跡、ランドマーク、何処かな? もしかして木の上とか・・・あれ? 」


 2人は周囲を注意深く見ながら森進んで行くと、利子が上空にある物体を見つける。


「飛行機! じゃなくて、大きなドラゴンか。」


「やばっ! 」


 利子の言葉を聞くや否や、ヘレンは空を確認することなく川に向かって全力で走り出す。


「ヘレンどうしたの? 」


 ヘレンの行動の意味が分からない利子は彼女の後を追うのだが、時すでに遅かった。突如として視界が赤く染まり、周囲が炎に包まれる。炎はナパーム弾が炸裂したかのように広範囲に広がっていき、利子は一瞬にして炎の海に沈んでいた。

 大きなドラゴンは上空を何回か旋回してから飛び去っていく。


 学名「火炎竜」太古の森にのみ生息する固有種であり、ワイバーンを遥かに超える巨体と保有魔力から、属性竜に分類されている。縄張り意識が強いのだが、侵入者には一旦警告を行い、それで縄張りを荒らさなければ直接手を出さない思慮深さも合わせ持つ太古の森の番人である。

 ちなみに、火炎竜は夜間に活動することはなく、太古の森の夜は飛行艦の航路となっている。


「利子! 大丈夫! 」


 川の中で炎をやり過ごしたヘレンは、水面から顔を出して利子の状態を確認する。「やってしまった」ヘレンは利子に危険生物の情報を伝えるのを忘れていたのだ。

 森の防衛機能によって炎が収まると、黒焦げになった利子が佇んでいた。


「なんで・・・なんでこんな酷いことするの~。」


「利子ゴメン、伝え忘れてたけど・・・」


 半泣きの利子をヘレンが状況を伝えながら慰める。


「こんなのが挨拶の訳ないじゃないぃ。うぅぅぅっ・・・」


 普段は人間が侵入したからといって火炎竜が出てくることはないのだが、強力な生物が侵入した場合は警告と挨拶代わりの火炎弾を放つことで、火炎竜は相手の力量も確認しているのだった。

 太古の森の掟を知らないが故に、突然襲われた利子は余りの不条理に涙が止まらない。昨日はヘレンを慰める側だった利子だが、今はヘレンに慰めらる側となっていた。



「お腹すいた・・・」


「非常食は今日一日持つけど、食料の確保は今からやらないとね。」


 時間は12、3時くらいだろうか? ヘレンは昼食を準備しながら森で何がとれるのか説明する。太古の森の生命力は世界的に見ても強く、採集だけでも食料調達は基本的に問題はない。だが、森の移動や不測の事態を考慮すれば非常食の確保は必須になるだろう。


「簡単に狩れるのは馬鳥ね。大きくて動きも遅いから、利子なら簡単に捕まえられるよ。」


 ヘレンは缶詰の肉と拾った木の実、その辺に生えていた香草を煮込んだスープを利子に配る。


「馬鳥? それってジアゾの家畜じゃ・・・」


 利子は瘴気内の南海大島にいた時の事を思い出す。南海大島には現地の住民から馬と呼ばれる巨大な鳥がいて、移動に使ったり荷物を運ばせていた。その巨大な鳥はジアゾ大陸からもたらされたものであり、出来心で利子は一回乗ろうと試みたが、近づいた瞬間に警戒音を発して逃げられてしまっていた。


「不思議よね、大陸ではこの森にしかいないんだけど、ジアゾでは普通に生息しているなんて。」



数分後


「ごちそうさまでした、ヘレンは料理上手いね。」


「そう? 」


 食べ終えた利子が食事の感想を言ってくれるが、ただ食材を川の水で煮込んだだけのものを料理と言っていいのだろうか? 褒められる分には嬉しいが・・・


「材料が手に入ったら、今度は私が作るね。」


 その言葉を聞いてヘレンは昨日の夕飯を思い出し食事が止まる。虫は止めてもらいたい。


「私、「親子丼」っていう料理が得意なんだ。」


 !! 聞き間違いでなければ、親子が料理の材料と言う事だろうか? やはり、利子は魔族だった。人間の私に、そんな料理を進めないでほしい。


「利子は狩りに集中してもらえばいいよ。その分、私が料理するから。」


「・・・それもそうだね。」


 ヘレンはなるべくオブラートに包んだ返答を行い、利子の料理を阻止する。


 食事の片付けが終わり、2人は採集と狩りの準備を進めていた。荷物をまとめて出かけようとした時、彼女達の背後に重量物が落下する。


「なに、何!? 」


 重たい落下音に驚いた2人は直ぐに後ろを振り向いて身構える。


 落下の衝撃で舞いあがった土埃から現れたのは、重厚な全身鎧を身にまとい、背丈ほどの大剣を背負った異様な人物だった。

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